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天気の良い昼下がり、 この家主は小さな手紙を見た後小さく息を吐き出した。
テーブルにそれを置き伸びをする。
「ベル?」
「はいご主人様、 ベルはここにおります」
自室から出た家主、 カーマインは今にいるジーヴスへと声を掛けると、 丁度テーブルを拭き掃除していた女性が顔を上げた。
「ああベル、 疲れただろう、 お茶にしよう」
「はい。お茶の準備をしてまいります」
「二人分ね。一緒に休憩しようよ」
「………はい」
庭で飲もうか、 と微笑み言ったカーマインに女性は控えめに微笑み返事を返す。
そしてすぐにキッチンへと向かっていった。
カーマインはその女性、 ベルライナの背中を見送った後、 自慢の薔薇が咲き誇る庭へと出ていった。
主人であるカーマインにサクリファイスで選ばれてから数年、 ベルライナは22歳になっていた。
10歳でセリに出されるジーヴスにとって、 12歳は試練の時期に入る…そんな時のサクリファイス。
ベルライナは不安と期待を胸にカーマインに付き従った。
常に穏やかに笑うカーマインに。
「ありがとう………うん、 いい香りだね」
「ご主人様が以前お好きだと仰っていた茶葉が再入荷されたので買いました」
カチャリと茶器の音を立ててしまい、 一瞬手を止めるがカーマインは変わらず微笑んでいた。
ベルライナは再度お茶を入れお茶請けのマフィンも中央に置く。
「ありがとうベル。さあ、 座って」
「はい」
サクリファイス、 主人と隷属。
様々な形に変化する天使と悪魔の関係だが、 カーマインは事の他ベルライナを大切にした。
それは、 両親の教えである。
15歳の成人まで、 主人になるリアルドはジーヴスをどう扱うのか学び決めなくてはいけない。
両親に聞くもの、 己の欲望に従うものと様々あり、 カーマインは最初両親に聞いた。
「ジーヴスって一体何なの?他の人はとてもキツくあたるよね……」
街を歩くとよく見る、 ジーヴスを叱りつけるリアルドの姿。
それは日常茶飯事で至る所にある日常風景だ。
しかし、 カーマインの両親のようにそうではないリアルドもいる。
「人の価値観は様々よ。人は人、私は私。
ジーヴスを蔑む人も居るけれど、 大切な友人として見る人もいるわ」
「俺はねカーマイン、 相手を思いやる気持ちを忘れたら、それはただの獣と一緒だと思うんだ。俺はそんな風にはなりたくないな」
両親は笑顔でそう言った。
その気持ちは傍らに立つ2人のジーヴスが体現している。
常に穏やかに笑っている2人。
いつも幸せそうに笑っているのだ。街中で見るジーヴスとは違う。
付き従う相手によって、 ジーヴスはこんなにも変わるのだ。
「……僕も、 そうなれるかな」
「お前がそう思うならなれるだろ」
「………そっか」
カーマインはお茶を飲みながら小さく笑う。
はるか昔、 まだカーマインが10歳位の時の記憶。
懐かしく、 愛おしいカーマインの記憶だ。
ベルライナは突然笑うカーマインに首をかしげた。
「ご主人様?」
「なんでもない。………ベル、 ねぇ、 ずっと僕のそばにいてね」
「はい、 ベルはこの命が尽きるその時までご主人様から離れる事はありません」
そのベルライナの言葉にカーマインは笑った。
カーマインにとって、 ベルライナは友人の様な家族のような、 そんな存在。
今は2人しか住んでいない綺麗な平屋の庭で、 植えられた薔薇を見ながら2人はつかの間のティータイムを過ごす。