サクラのスミレ【春の詩企画】
彼の名は、サクラ
人柄は、その名の通り
春を思わせる陽気さで
ときに周囲を笑顔にする
大樹を思わせる頼もしさで
ときに周囲をリードする
文武両道のエリートにして
クラスのムードメーカー
私の名は、スミレ
人柄は、その名の通り
小柄で地味で鈍くさく
決して目立つことが無い
些細なことに傷付いて
決して人前に出られない
そんな根暗な私に
彼から転校前に告白された
瀬を早み 岩にせかるる 滝川の
われても末に 逢はむとぞ思ふ
もしも運命があるとして
十回この庭の五弁の花がほころんでも
赤い糸が解けずにあったなら
僕の妻になってください
まるで少女漫画のようなセリフ
はなから信じていなかった
一回でも来ればいいと思った手紙が
宛先が変わっても届き続け
ついに十度目の春のこと
あの日と同じ庭に呼び出された
解けた糸は切れることなく
前にも増して強く結い合わさった
それから、またまた春が来た
今の私の名は、佐倉スミレ
彼の下の名は、崇徳
お腹の子は、何と名付けようかしら
※遥彼方様主催の「ほころび、解ける春」企画に参加しています。
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本作は「春の詩企画」参加作品でもあります。
企画の概要については下記URLをご覧ください。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1423845/blogkey/2230859/(志茂塚ゆり様の活動報告)
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※解説があった方が良いという感想をいただきましたので、簡潔に書き添えておきます。
・七段目
瀬を早み 岩にせかるる 滝川の
われても末に 逢はむとぞ思ふ
これは、崇徳院の和歌です。十二段目の彼の下の名は、ここから繋がっています。
・八段目
十回この庭の五弁の花がほころんでも
この「五弁の花」は、サクラとスミレの両方を指しています。彼は、二人の共通点を告白に折り込んだわけです。