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オチのある短編集

かわいいペコルちゃん

 お婆ちゃんは三人の子供を産んだけど、彼らが大人になると、一生懸命に建てたお家に寄り付かなくなった。お婆ちゃんはさみしくて、一番かわいがっていた長女の代わりに、人形を育てることにした。

 その人形は、お婆ちゃんが亡くなったあとは、お爺ちゃんが育てていた。人形を育てているなんて変に思うかもしれないけど、お爺ちゃんはボケてはいない。毎食、食事のマネをさせ、毎晩、プラスチック製の体を拭いてあげている。お婆ちゃんが寝たきりだった一年間も同じようにしてあげていたんだろうと思う。

 人形の身長は三十五センチ、体重は知らない。名前はペコルちゃん。不二家のペコちゃんに似ていたからだ。ルという音は長女の名前から取った。

 お婆ちゃんの長女とは、ぼくのお母さんのことだ。昔から働きまくっていて、ぼくにとっては、亡くなったお婆ちゃんのほうが、お母さんだったけど。保育園の頃、泣き虫だったぼくを抱きしめてくれていたのは、いつもお婆ちゃんだった。その匂いはいつまでも忘れらない。

 ペコルちゃんは勝手に髪の毛が伸びるし、妙な人形だった。でも、怖いと思ったことはない。だから、高校の文化祭でお化け屋敷をやるという話になっても、ペコルちゃんのことは思い出さなかった。

 ぼくは実行委員として、いろいろな会議に出席した。スマホに入れておいたお化け屋敷の参考写真を見せていると、ペコルちゃんの写真まで見られてしまった。勢いに任せてスワイプしすぎたせいだ。ぼくが縫ったドレスを着せたときに撮った写真だった。

 みんなはペコルちゃんのことを聞いて、知って、驚いて、ぜひ、お化け屋敷に登場させようと言い出し、多数決でそう決められてしまった。ぼくは仕方なし、お爺ちゃんとペコルちゃん本人にお願いして、お化け屋敷に出てもらうことにした。

 文化祭はなにごともなく終わった。ペコルちゃんも好評だったので、ほっとした。片付けは一日でやらなければならない。慌ただしさのなか、気がつくとペコルちゃんがいなくなっていた。だれかれ聞いて回ったけど、行方を知る人はいなかった。

 ぼくは正直に、お爺ちゃんに事情を説明することにした。

 電話をかけると、お爺ちゃんが出た。

「ごめん、ペコルちゃんが」

「ペコルか」

「うん、ええと」

「ペコルなら、帰っとるぞ」

「え? お爺ちゃんが連れ帰ってくれたの?」

「いんや、Aが連れ帰ったんじゃなかったのか?」

「違うよ。まだ学校だもの」

「ははあ、ひとりで帰ってきたんだな」

「そんなわけないじゃない」

「じゃあ、どうやって?」

「だれかのいたずらとか」

「だれの?」

 いくら考えても、そんなことする人の名前は浮かばなかった。

「でもさ、いくらペコルちゃんが歩けると言っても、十センチしかない短足で、お爺ちゃん家までは行けないでしょう」

「失礼ね!」

 電話口でペコルちゃんが叫んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おぉ(;゜д゜) お爺ちゃん……無事?
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