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不健康ガールは死ぬ!?  作者: 鳥島飛鳥
2/3

不健康ガール(2)

学校で順調にハブられた日の夕方。

俺はトボトボと家に向かって歩く。

……今日の夕日は綺麗だな……ちくしょう綺麗過ぎて涙が出るぜ。

さて、人間どんなに悲しくても腹は減る。今日は奮発して、身分不相応な国産和牛とかのステーキにしちゃってもいいかもしれない。

「……待て。あまり金もないのに、国産和牛はやりすぎか?」

 コンビニのバイト代が入ってくるのは来月だし……でもステーキは食いたい。

 この空しさは肉でしか癒せない!

 そんなことを考えながら、家のマンションの下にあるスーパーに入る。

「……あ」

「おっ。奇遇だね」

 入るとすぐに制服姿の可愛い子、早海さんに遭遇。まあ、変人でもあるんだけど……。

 栄養ドリンク効果のお陰か昼間よりも顔色がいい気がする。

「えっ? 早海さん俺のストーカー?」

「いや自分で言うのもなんだけど、それ私のセリフじゃない?」

「まあ。早海さん見た目は美少女(仮)だし」

「その引っかかる言い方はなに!?」

「えっ? 俺なりの評価だけど?」

 だってね~。俺の中の美少女は栄養ドリンクを求めてきたりしない。(笑)じゃないだけありがたく思って欲しい。

「はぁ~。もういい。この議論をすると私が辛い。それで? 川島君も夕食の買い物?」

 サクッと話題を切り替えて来る美少女(仮)。

ここはもっとイジリ倒したい衝動にかられるが……自重しよう。それより気になることがあるし。

「ああ。というか……早海さんもしかして……俺のこと知ってる?」

 どうも今朝から話し方が知り合いっぽい。

う~ん。早海って苗字にそこはかとなく嫌な予感がするんだけど……。

「あれ? 兄さんから聞いてないの?」

「……兄さん。ということはやっぱり――」

『悠馬くん! 久しぶりだな!』

 遠くから聞こえてくるうんざりする声。

 あ~あ。バリバリのヤンキーがこっちに近づいてくる……。

「おーお。お前なんで連絡寄越さねぇんだよ」

 このヤンキーは早海来鹿はやみらいか

 髪の毛の色は青。鼻と舌にピアスをあけ、服装もロックンロール。

 正直関わりたくない容姿だ。

「え? キモイから」

「ひどっ! 俺様と悠馬君の仲じゃねぇか。連絡は一日に三回はしろ」

「うわぁ~兄さん相手によく言いうね。みんな怖がって何も言わないのに。キモイのは事実だけど」

 早海さんは何故か関心したように言う。

 俺あなたの兄貴を気持ち悪い扱いしたんだけどいいの?

 まあ、この人がキモイのは事実なので改める気は全くないんだけど。

「というか川島君。兄さんに連絡返してよ。川島君が返さないと私に『川島君の近況はよ』とか連絡来るんだから」

「この人、俺のこと大好きすぎだろ……」

「ふっ。そんなに褒めんじゃねぇよ」

 褒めてねぇよ。いや……馬鹿すぎて褒めているかもしれない……誇れ。

 来鹿さんは引っ越す前の荷卸しバイトの後輩で、この身なりだが地方の大学に通っている。歳は3つ上。

 仕事で付き合ううちに妙に懐かれている……といか好かれている。

「……待て。大体よめてきた。俺に今のマンションを紹介してくれたのは来鹿さんだし、もしかして早海さんも同じマンション?」

「おっ話が早いね。お隣で一人暮らし中。マンションお母さんの持ち物だし」

「お隣かよ!」

 というかマンション持ち物とかすげぇー。

「俺のことは事前に聞かされていた感じか」

「……うん。毎日原稿用紙20枚ぐらいで」

「……キモイ。はぁ、どうりで俺に親しげに話しかけてきたのか」

「いやさすがにまったく知らない人に喘ぎ声やらないって」

 そりゃそうだ。よかった。思ったよりも常識はありそうだ。変人なのは変わらないけど。

「ふふっ。私ものすごく川島君のこと詳しいよ? 血液型から嫌いな食べ物、好きな女性の好みまで……あはは。すごくない……?」

 早海さんは色彩を失った目で無理やり笑う。

 そこまで精神をすり減らしているなら、お兄様のこと止めてくれませんかね? 

まあ、マンションを紹介してくれたり、学校を紹介してくれたりと、いろいろ世話をしてくれたりしているので、嫌いではないんだけど……うざい。

「ああ。そうそう川島君――」

「ああん? なにテメェさっきから悠馬君にタメ語きいてるんだよ! ああん? 悠馬君。こいつやっちまおうか?」

「……」

 実の妹にガン切れするクソ兄貴。どうしよう正直ドン引きです。

「兄さんうっさい。今私が川島君とお話してるの。部外者は黙っていて」

「ああん? てめぇ偉くなったもんだな。コンクリ埋めるぞコラ?」

「来鹿さんうるさいです」

 スーパーに来ているおばさま方がこっち見ている。気持ちはわかる。ヤンキーが女子高生に絡んでいるわけだし。普通に事案だ。

「あ、ああ。悠馬君がそういうなら……命拾いしたな。クソガキが。けっ」

「はぁ。はいはい。川島君も買い物だっけ?」

「お前スル―スキル高いのな。まあな、今日は豪勢に行こうと思ってな」

 来鹿さんに出会って、さらにその意思が強くなった。今日はやけ食いだ。 

「なら、夜ご飯一緒に食べない?」

「……え?」

「悠馬君と飯か! おお。妹よ! 偶にはいいこと言うじゃねぇか」

 おっとっと、一緒にお食事だと。同級生? それも女子と? いいじゃねぇか。

 変なのがついて来そうだけど、俺ってリア充じゃね? 一人で豪勢にやけ食いするよりも全然いい。

 俺は当然二つ返事でOKして、三人で食事にすることにした。


   ◇◇◇


 それから三人で買い物をし、さすがに一人暮らしの女の子の家にお邪魔するのは抵抗があったので俺の家に移動した。

 ワンルーム、キッチン別の部屋だが、飯を食うだけなら三人でも十分な広さだ。

 

それから数十分後――。

 

「……」

失念していた。

 人間血筋は争えない。という名言を。

 早海さんは来鹿さんの妹なのだ……超偏食家の……妹なのだ。

「ん? 川島君どうしたの? 料理終わった?」

「ああ悠馬君。先に食べてるぞ」

 俺の目の前にはステーキとホカホカご飯。付け合わせにも力を入れていて、コーンやニンジンが見た目も鮮やか。

 肉はジューシーなレア。肉汁がいい感じ。

「早海兄妹の飯って……それ?」

「うん。何か問題ある?」

「問題しかない!」

 キョトンしながら答える早海妹に対してブチ切れる。

 俺の部屋のテーブルに広げられているのは、ポテトチップス、チョコレート等の大量のお菓子。さらにはアイスクリームなども完備。

 とてもじゃないが夕食の品じゃない。

「あ。今日のポテチはベジタブル味にしてるから、健康にもいいよ? さらに飲み物は新発売の栄養ドリンク。完璧すぎる」

「ポテチを主食にしている奴が健康を語るんじゃねぇ!」

 今朝こいつが学校で死にそうになっていたの絶対に食生活が原因だろ!

「妹よ。悠馬君の説教は軽く流すのがポイントだぞ?」

「俺の扱い上手くなってるんじゃねぇよ!」

「おっと。怒られた。菓子ばっか食ってないで、俺みたいに健康的な物を食えよ」

「来鹿さんは一ミリも人のこと言えないからな! 自分の食事を見ろ!」

 来鹿さんも来鹿さんで、パクパクとカロリーメイトを食べている。

 机には大量のサプリメント。軍用のレーションまである……どこで手に入れたんだよ。

 この人は味は二の次、むしろ邪魔。栄養補給さえできればいい。という新人類だ。

「ん? なにか問題が?」

「えぇー。兄さん。味は大切だから、食べる物はきちんと選んだ方がいいよ? ほら、この栄養ドリンクはイチゴ味で結構いけるよ?」

「おっ新発売か。栄養素はどうなってるんだ? なになに? タウリン……1000。ふっ……ザコめ!」

「知るか! 飯を食え!」

 こいつらなんでそんなに栄養ドリンクが大好きなんだよ! 

 どれだけ栄養ドリンクに理想を求めているの!? そいつそんなに万能じゃねぇから!

「いいか早海兄妹! 食事ってのはな主食、副菜、主菜のバランスが大事なんだ! どれに偏っても駄目なんだ! お前らの一日の栄養素はガキが考えたRPGの初期ステータスみたいになっているからな!」

「えぇ~~~。でも川島君。一点特化のグラフって見ててカッコよくない?」

 死ぬぞ!?

「まあまて。妹よ。悠馬君はこう見えても、口先だけで健康を語るテレビのクズじゃない」

「……」

 この人は神妙な面持ちでいったい何を言っているんだ……。

 素直に健康的な食事を食えや。

「……悠馬君は作れんだよ」

「え? なにを?」

「カロリーメイトを!」

「なにそれぇ!!! 超すごぉいいい!!!」

「そんなにすごくねぇから!」

 以前あまりにも来鹿さんがカロリーメイトしか食わないから、見かねて作ったことがある。野菜とか、なるべく自然の物を練り込んで。まあ、市販の物よりは健康によかっただろう。

「か、川島君! も、もしかして! じゃがりこも作れるの!?」

いきなり詰め寄ってくる早海さん。

ちょ、ちょ待て! か、顔が近い! 近い!

「あ、ああ。ああいうのって大体ネットに作り方載っているからな」

 まあ、製品版みたいに綺麗には作れないかもしれないが。

「私! 揚げたてのじゃがりこが食べられれば死んでもいいと思っているの!」

「安い命だな! だが、安心しろ! そんな願いがなくともお前は近いうちに死ぬ!」

 栄養失調で!

『ピピピ!』

 その時、来鹿さんの電話が鳴る。

「ん? ああ。俺か。悪い。メール……あー」

「ん? 兄さんどうかしたの? 私今から川島君に大量のお菓子を作ってもらうんだけど」

「待て! 俺はそんな不健康な食事に協力しねぇからな!」

 それで死んだら俺が殺したみたいじゃん!

「はいはい。大丈夫大丈夫。人間そんなにやわな作りじゃないから。それで? 兄さんなんだったの?」 

「ああ。なんか俺論文すっぽかしていたらしくてな。明日までに作らないと留年らしい」

「……」

「……」

 一気に部屋に会話がなくなる。えっ? この人なんで大ピンチなのに、余裕しゃくしゃくなの? 器でかくない? あっ、そっか。

「もう論文自体は終わっているんですよね?」

「いや。一文字も書いていない。悠馬君との食事をすっぽかすくらいなら、俺は留年を選ぶね」

「帰れ!!!」

「帰れ!!!」

 俺、早海さんと初めて意見があった気がする……。

 そうして来鹿さんを無理やり帰らせることに成功。最後少し泣いていた来鹿さんが気持ち悪かった。


   ◇◇◇


「まったく兄さんには困ったものだよね~」

「……そうだな」

 来鹿さんを強制送還させ、平和な食事が再開されていた。

 まあ、俺が食っているのはステーキで早海さんが食べているのはポテチだけど……あ、三袋目に突入……。

 傍から見たらただのいじめに見えるだろう。

「そんなにポテチ食ってよく太らないよな」

 早海さんの身体をジッと見る。

 小柄な身体はまったく太っているように見えない。むしろ細い部類に入るだろう。お腹も出ていないしな。

 不思議だ。お菓子はカロリー高い筈なのに。

「甘いな~川島君は~。お菓子って確かにカロリ―高いけど、お菓しか食べなければ痩せるんだよ?」

「栄養失調でな! 痩せるために身を削るな」

 はぁ……多分元々太りにくい体質もあるんだろうな……天よ。なんでこんなお菓子ばかり食う女に可愛い容姿を与えたんだ。

「ん? あ~なあに? 私のことジっと見ちゃって? 意識しちゃった」

「悪戯っぽく笑ってんじゃねぇ。ちょっとお前がいつ倒れるか頭の中でトトカルチョしていただけだ。一押しは三日後」

「む~そんな物騒な賭博はやめようよ……」

 少しムスッとする早海さん。こういう顔は可愛いな……。

「……」

 待て。これはもしかしてすごいことなんじゃないか? 俺は残念とはいえ、美少女とふたりで「自分の部屋」で食事をしている。

……これは意識しない方が逆に失礼なんじゃないのか?

「……早海さん。肉少し食うか? 人参のグラッセも上手くできたんだ」

「ヤダ太るから」

「菓子ばっか食ってる女が生意気言ってるんじゃねぇ!」

「ちょっと! 私のことは馬鹿にしてもいいけど、お菓子のことは馬鹿にしないで!」

「お前しか馬鹿にしてねぇよ! いいか。結局全ての万物は使いようなんだ。包丁も使い様によっては凶器。風邪薬も毒だ。だからお菓子にも適切な――」

「あーその話長い? そんなんだからクラスでハブられるんだよ。早くじゃがりこ作って」

「か、可愛くねぇ」

 なにもっと可愛らしくできないの? 『きゃー、川島君料理できるんだ素敵~』みたいな? 俺のドキドキを返せやコラ。

「もうっ。元はと言えば川島君が悪い。私たちの関係で変な気を使わないでよね? お肉大好きで自分で全部食べたいんでしょ?」

「まあ、そうなんだけど……俺とお前今日初めて会ったからな?」

「そういえばそうだね。兄さんに聞かされ過ぎた所為でそんな気が全然しなくてね」

 いったい何を聞かされているんだよ……いや待て、これは聞かない方が精神衛生上よさそうだ。人間知らない方が幸せなことがある。

「いや~。多分他の男の人の部屋だったら三秒で逃げ出しているよ? その辺は感謝してほしいな~」

 うん。うん。こうは言っているけど、多分からかわれているだけだろう。

 ちょっと、早海さんがどれだけ純粋な女の子か試してみよう。

「早海さん。後ろのタンスの下から二段目をあけて貰える?」

「ん? いいけど……!?!?!?」

 早海さんは特に疑問を持つことなくタンスをあける。

 そこには前の学校の友人から譲り受けた映像コレクションたち。お姉さんからOL、女子校生、ロリまで完備の最強布陣。

 あ、一番上レイプものだった……。

「な、な、な、な、なんてもの見せるの! な、なにが狙いなの!?」

「えっ? お前がこれを見て泣いて喜ぶかな~と思って?」

「それ私ただの変人じゃん!」

「えっ違うの?」

「全然違うよ! しかもレイプ物とかも交じってるし……うわぁー」

「ふっ。興味があるなら貸してやってもいいんだぜ? 一本一週間三百五十円だ」

「五本借りると、割引で千五百円になったりしない? 会員カード作るのに身分証いる?」

 真顔でその切り替えし、お前意外と余裕しゃくしゃくじゃねぇか。

「でも……うわぁー。川島君こういうの好きなんだぁー。レイパー川島って呼んでいい?」

「本気でやめろ!」

「まあ、呼ぶ方も恥ずかしいから呼ばないけど……このレイプ物のやつ借りていい?」

「……お前平静を装っているけどいまさら顔赤くなっているからな? というかそういうのに興味あるの?」

 あるとか言われても今後の接し方に困るんだが……。

「私にはどうしても楽しさが理解できそうにないから、持ち帰って川島君がどうしてこういうのが好きなのか研究しようと思って」

「無理に俺のことを理解しなくていいから!」

 そもそもそれ俺が買った物じゃねぇし。

「うーん。理解できるかなぁ~」

 そう言いながらポリポリとポッキーを食べ始める川島さん。

 これで五袋目か……。

「おい。食生活は治した方が良いぞ? このままだとマジで死ぬからな」

「ふふーん。私の持論だと人間って運が悪いと死ぬ。私は運がいいから死なない」

 手をひらひら振りながら笑顔で答える。

 まるでギャンブル漫画のセリフみたいだな……はぁ。まあ、今日会った俺の言うことを聞くはずもないか……。

 でも、隣の住人に入院でもされたら気分が悪いから時々は口出すか……。

 余計なお世話かもしれないけどな……。


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