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不健康ガールは死ぬ!?  作者: 鳥島飛鳥
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第1話 不健康ガール(1)

転校初日の自己紹介。

 それは転校生の学校生活水準を決めかねない重要なファーストミッション。

ここから俺の高二の青春が始まる。

「おほん……」

 俺の前には三十人ほどの男女。俺が彼らに贈る言葉は――健康。

「健康。それはなによりも重大なことだと思う。人間は丈夫にできていない……睡眠、食事などに気を配った規則正しい生活を心がけ初めて俺たちは健康を手にできるんだ! 安くない……安くないんだ! 健康は!」

 俺、川島悠馬かわしまゆうまは教室の壇上で某ギャンブル漫画の幹部の様に力説している。全ての不健康を憎み、健康を愛する。

 ……そうアピールすることにより、さわやか男を演出。

 流行しているのは健康系男子だし? みんな俺のまじめっぷりにさぞ関心していることだろう。

『……』

『え? なにあの人? いきなりキモイんだけど……宗教か何か?』

『正直……ドン引き……』

 えっ!? なんで!?

『ば、馬鹿! うち進学校なのに転校初日に金髪で来る奴がまともな訳ないだろ!』

『ヤンキーが健康語るとか正気の沙汰じゃねぇよ? 絶対薬キメてる』

 気合入れてセットしてきた髪型も裏目に!? なんでみんな髪の毛黒なの!? 都会の学生はみんな金髪じゃないの!?

「ま、待ってくれ! お、俺は学校デビューの為に――」

「うん。川島君。あなたその髪型を治してくるまで停学で」

「せ、先生!? マジで!? 俺転校初日なのに!?」

 というか停学にするなら校門のところで止めろや。職務怠慢だろこらっ。 

 そうして俺は転校初日に停学を食らうという前代未聞な事件を起こした。

 当然『問題児』というレッテルは深く刻まれ……ボッチの誕生だ。


◇◇◇


 転校から数日。

 ……なんでこうなった。せっかく両親が海外出張に行ったのを好奇だと思い、念願の都会ひとり暮らしを強硬した……のに。

「こんなことなら都会になんか憧れないで、片田舎の高校に通っていればよかった……」

 幸い髪の毛は次の日に直し、停学は見事に解除。俺は晴れ晴れした気持ちで教室に行くと……そこはとても生き辛い空間だった。

『ねぇねぇ。川島君って地元で人を殺したことがあるんでしょ?』

 ある訳ねぇだろ。こんなピュアボーイが人なんか殺せる訳ねぇだろ。普通に考えろ。

『そうらしいぜ。次に標的にしてるのは都知事だって』

 ほぅ。それが本当なら税金を私情で使う輩がこの世から消えそうだな。おら。

『俺……さっき話かけられたんだけど……胡散臭い健康食品を買わされそうになった』

 さ、佐藤君!? 俺は友好の代わりに君に自慢の健康食品を紹介しただけだよ!?

 と、まあ勇気を出して隣の席の人に話しかけても裏目に出る始末。

 本当にレッテルという物は性質が悪い。

 俺の心が弱かったら登校拒否しているぞ。

「……ふん。俺を甘く見てやがる」

俺の心はそんなに弱くない。こんな風評被害などそよ風のようだ。痛くも痒くもない……ごめんなさい。嘘です。泣きます。

「……」

 だがめげないのもまた強さ。というか動かないと悪化するパターだしこれ。

 これ以上悪化すると本当に登校拒否して、家で廃ネトゲ―プレイヤーになりかねない。

「……ねぇ」

 後ろの席から聞こえてくる女の子の声。

 うしゃあああああああああああああ!!!

 まだ俺にも希望があるじゃないか……! いや~、やっぱり女の子には、ちょっと頭がおかしくてイカれてる方がモテるんだって!

「おう! 俺に何の用――」

 女の子の容姿に言葉を失う。

 長い綺麗な黒髪に、整った顔立ち、それに

小柄な体系が合わさり美人というより可愛い感じ――を、表情の気だるさが台無しにしている。

 確か名前は早海未唯はやみみいだっけ?

「お、お前。大丈夫か? 今にも死にそうだけど……」

 女の子の白い肌は、白いを通り越して青白く、多分普段は大きな目をしているのだろうが……眠いせいか目を細めている。

「だ、大丈夫じゃないかも……お願い栄養ドリンク買ってきて……」

「……」

 ボッチの次はパシリ。順調にイジメられる側へのステップを踏んでいる俺。さすがだな。

「お、お願い……こ、このままじゃ……死ぬ。の、のたれ死ぬ……死んじゃう……」

「いや栄養ドリンク如きでどうにか体調じゃねぇだろ! まるで末期患者じゃねぇか!」

「今は死ぬほど眠くて、全身気だるくて、若干吐きそうで、お腹が痛いの。こんな症状、栄養ドリンクでしか……な、治せない」

「病院行けや!」

 なんで教室にこんな重病人がいるんだよ!

 クラスの連中はこれをスル―か!? なんて薄情な連中だ!

『は、早海さんが川島君に話しかけてる……あれ? 早海さん今日は顔色がいいね……』

「えっ? これで!? 顔色いいの!?」

 ん? 早海? どこかで聞いたことある名前のような……。

「そ、そうなの。こんなの、ユンケル飲んだ後に……ソルマック飲んで……しめにリポビタンを飲めば……」

「栄養ドリンクのチャンポン!?」

 二日酔いのサラリーマンもビックリな配合。

 そんなの飲んで大丈夫か? お前の身体の中ではどんな化学反応が起こるんだ……?

 怖いもの見たさで見たくなってくる。

「は、はやくぅ。死ぬぅ。し、死んじゃう」

「今の心境をエロい感じ言ったらすぐに買ってきてやる」

「しぬぅぅぅ! しんじゃぅうう!」

「お前にプライドは!?」

「こ、これで満足? は、恥ずかしい」

「じゃあやるなよ」

 一応俺にしか聞こえない声でやってきたので、恥じらいはあるようだ。

「よかった。痴女ではなさそうだ」

やらせた俺が言えることではないが……。

 それはさておき、無茶ぶりに答えてくれたからには、俺も誠意を見せなくてはな。

「よし。待ってろ。超特急で買ってきてやる」

「あ、ありがと――」

「はいこれ。買ってきました」

「は、早くない!?」

「早さには自信があるんだ。早さには。天井のシミを数えてる間に終わる」

「……うわぁぁ」

 こいつ死ねよ、と見つめて来る早海さん。

 軽い下ネタは紳士の嗜みだ。

 しかし、早海さんのこういう率直な反応は、変に取り繕うよりは好感が持てる。

 いつも笑顔の女の子は、裏で何を考えているんだがわからないからな……。

「まあ、本当は今朝景気付けにコンビニ買ったやつだから」

「あっ。本当に栄養ドリンク……あっ! これオロナミンEじゃん!」

「ん? な、なに怒ってるんだ? 立派な栄養ドリンクだろ?」

「Eなんか栄養ドリンクじゃないもん! お子ちゃまが飲むジュースだもん!」

「テメェ! Eを馬鹿にしてるんじゃねぇぞ!」

 何故かこいつEを下に見てやがる。もんとか言う女が大人を語るな。

「いいから早くユンケル買ってきて! 薬局で一番高いやつ!」

「それは日々疲れた五十代サラリーマンしか飲むことを許されない至高! お前如き若輩が飲むことなんて許されない!」

「あぁーあぁー。いいのかなぁ~。川島君にセクハラされたってネットに書くよ?」

 悪戯っぽい顔でナチュラルに脅してくる悪魔。お前もう自分で買いに行けよ。

 結局この後、Eの尊さと美味さについて議論に議論を重ね。Eで妥協させた。

 まあ、変人とはいえ可愛い子の喘ぎ声を聞けたのだから安い物だろう。

 その値段プライスレス。


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