カインとアベル
「カイト君?カイト君?起きて!」
なんだよ…せっかく寝てたのに。
「もう十分寝ただろう?一週間だよ?」
俺はそんなに寝てたのか…
起き上がるとそこは病院のベットではなかった。
ココは…
「僕たちの舟の中さ。ついさっきエノクへ移動したんだよ。君を外に放置しておくわけにはいかないから、舟の中に入れたのさ。」
寝てる間に移動したのか。
「ちょっと何なのコイツ!!私の舟に部外者をのせないでよ!」
金髪の少女に怒鳴られた。
最近は怒鳴られる事が多い…
誰だコイツ…
「誰とは失礼ね!こう見えてもあなたより何百年と長く生きてるわ!それに、ココは私の舟よ!なんであんたみたいなのが入ってきてるわけ!?」
「ノア、落ち着いて。彼は種を植えてくれた大切な人だよ?」
コイツがノア…
こんなに幼い容姿なのか…
「種なんて植えてくれない方が良かったわよ!この舟を動かすのは大変なの。私はあんたが来た事で迷惑してるのよ!」
そんなの知るか。
それより、エノクに着いたんだろ?早くカインに会って種を植えさせてもらわないと。
「そうだね。その為にはバベルに行かないと。」
バベルってバベルの塔?
神に近づこうってか?
「近づくというか、カインは神を殺したいんだ。」
殺したい?なんで?
「彼は神によって善と悪の戦争により全てが滅びた世界に送られたんだ。元々はミデンで僕たちと仲良く暮らしてたんだけどね…。」
なんで?仲良くしてたんじゃないのか?
「少し長い話になるけど大丈夫かい?。」
ああ、むしろ詳しく説明してくれた方がコッチとしてはありがたい。
「僕とカインはアダムとエバの子孫としてミデンに送られたんだ。その時に僕には命の種を。カインには善悪認知の種が渡されたんだ。それによって僕は生命を操ることができ、カインは善悪を認知できるようになった。僕は多種多様の生命を生み出した。カインはそこから生まれてくる悪という特異点を取り除くことでミデンの平和は保たれていたんだ。しかし、神は彼の力を利用して悪によって滅びた世界を再生させようとして彼をバベルへ強制的に送ったんだ。悪しか存在しない世界なら悪を善に書き換えれば再生できるってわけさ。でもそれは簡単なことじゃない。彼の作り出した善と元々いた悪で戦いが起こった。彼はかろうじて勝ったけど多くの犠牲がでたんだ。信頼していた仲間さえ失った。それから彼は神を恨んでいるってわけさ。」
すごい話だな。全体的にぶっ飛んでる。
「そうかもしれないね。でも神は善悪認知と命を操る力を共に置いておくことで世界が滅んでしまうと思って僕たちを二つの世界に分けてミデンを救ったんだよ。そしてカインは疑心暗鬼になってしまってね。自分以外は悪だと考えてこの世界を滅ぼしてしまった。」
神なんて存在が本当にあったとはな…
それより、俺たちはココにいて大丈夫なのか?
「わからない。でも、カインに会わないと全てのコトは進まないだろう?」
そうだけど…
神を殺そうとしてるヤツなんて…
俺は生きていられるだろうか…
舟はゆっくりとバベルに向かって動き出した。