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プロローグ

初投稿です、よろしくお願いします

 遂に長い旅の末、僕らはドラゴンを倒すことに成功した。

 これでようやく元の世界に帰る事が出来るのだ。

 まばゆい光に包まれて、これが話に聞いていたゲートだと確信する。

 次第に指先から感覚が消え去っていき、意識だけが真っ白な空間を漂っていた。


 懐かしいあの世界の記憶が蘇る。

 まず帰ったら何をしようか。

 そうだな、まずは寿司を腹いっぱい食べる事にしよう。

 そして好きなアニメを存分に楽しむのだ。


 もしかしたら、僕がいない間に随分と時間が経っているかもしれないな。

 それならその間に新しい出来事が起こっているかもしれない。

 総理大臣が変わっていたりとか、新作のフィギュアが発表されていたりなんかしてさ。

 更にもしかすると、思っていたよりも時代は進んでいるかもしれない。

 空飛ぶ車なんて物も、十分にあり得るのだ。

 ちょっとした浦島太郎の気分だな、これは。


 次の訪れたのは、真っ暗な世界。

 まるで深海の中にいるようだ。

 苦しくて息が出来ない。

 やがて目の前に閃光が広がり、眩しさに目が霞む。


(やった、これで遂に元の世界に戻れたんだ!)


 ようやく息ができるようになり、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

 そして歓喜の雄叫びをあげる。


「おぎゃああぁぁ!」


 あれ、何かがおかしい。

 確かに僕はやったぞと、そう叫んだはずだった。


「ふえぇええああぁ! んぎゃあああああっ!」


 何度言い直しても、それはまるで赤ん坊の泣き声にしか聞こえない。

 いや、これはどうやら僕が本当に赤ん坊になってしまったようだ。

 なるほど、どうやら僕は生まれ変わってしまったようだ。

 僕が異世界に召喚された時の事をよく思い出してみる。


 土砂降りの中必死で自転車を漕いでいた。

 そして運悪く転倒したところで、目の前にトラックが迫ってきたんだっけか。

 確かその次の瞬間には、見た事も無い場所に立っていた。

 そこが大聖堂の召喚陣のど真ん中だったのは、今なら分かる。

 なるほどなるほど、もしかすると僕はあの時既に一回死んでいたのかもしれないな。。


 そうなると、こうして生まれ変わったのも頷けるものだ。

 人生のやり直しだなんて、最高じゃないか。

 この通り僕には前世の記憶がしっかりと残っている。

 その知識を活かせば恵まれた生活を送れるに違いない。

 天才児と呼ばれ、バラ色の青春だって夢じゃないのだ。


「やったぞエルシア! よく頑張ってくれた!」


 どこかで聞き覚えのある声に、僕の思考は停止した。

 そしてエルシアという名にも、心当たりがありすぎる。

 視界が勢いよく流れ、それが抱きかかえられたのだと理解する。

 覗き込んでくる顔は、ああ確かに見覚えがある。

 ついさっきまでドラゴン退治の旅に同行していた魔法使いだ。


(おい! なんでお前がこんなとこにいるんだよ!?)

「ほぎゃ! ほぎゃああ、んぎゃああああ!?」


 風と炎を操るエルフの魔法使いで、名前はゼフィール。

 パーティーの中では大人しいというよりも気が弱く、しょっちゅう泣いていた奴だ。


「ちょっとゼフ、落ち着きなさいよ」


 いくらかぐったりとしたような声だが、この声は僧侶のエルシアに違いない。

 水と土の魔法で回復や強化を担当していた、パーティーの大黒柱のような存在だ。

 僧侶と言ってもその性格のせいか、武闘僧と言った方が正しい。

 またしても視界が流れると、こんどはいくらか柔らかい感触に包まれた。

 ああ、確かにこのまな板のような感触はエルシアの物に違いない。


 ふと、何か温かいものが落ちてきた。

 見ればエルシアの目からは涙が溢れている。

 ただ、その表情はとても幸せそうだ。

 あの撲殺マシーンがこんな顔も出来るんだなと、妙に感心してしまった。


 さて、少し状況を整理しよう。

 どうやら僕は、元の世界には帰る事が出来なかったようだ。

 生まれ変わったのは同じ異世界で、母親はエルシア。

 そしてこの状況から察するに、父親はゼフィールだと思われる。

 そんな素振りは一切見受けられなかったのに、こいつらできてたのかよ。


「なんだか変な顔してるわね」

「泣く子も黙るエルシアだからなあ」


 次の瞬間、一気に空気が凍り付いた。

 ゼフィール、言って良い事と悪い事があるだろうに。

 相変わらず空気の読めない性格をしているようだ。


「ところでゼフ、名前はもう決めてあるんでしょうね?」

「ああ、もちろんだ…男の子ならレイジで、女の子ならロニア」


 どうやら僕の名前はレイジになるようだ。

 それにしても前世の僕の名前を付けてくれるだなんて、随分と素敵な事するじゃないか。


「じゃあこの子の名前はロニアね」

「ほぎゃあ!?」


 思わず耳を疑ってしまった。

 おいおい、それは女の子に付ける予定の名前だろうが。


「そうだな、次は男の子がいいね」


 意識が遠のいていくのを感じる。

 まさかこんな事になるだなんて、誰が予想できただろうか。

 僕の名前は今日からロニア。

 かつて旅を共にした仲間のうち二人の間に生まれた女の子だ。


(う、嘘だああぁぁぁ!)

「お、おぎゃあぁぁぁ!」


 異世界勇者は帰れない。

 僕の三度目とも言える人生は、こうして幕を開けた。

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