幕間:Father and Son Ⅰ
叫び声がする。
目の前の交差点には血だまりと、真っ赤に染まった父と母。
僕は学校指定のカバンを持ったまま、夏の夕焼けを背に立ち尽くしている。
あれ? 涙が出ないよ。こういう時は悲しいって感情のはずなのに。
近くにいた大人たちは僕の安否を気遣ってくれる。
大丈夫?
死んでないから、大丈夫。
怪我してない?
見ればわかるだろ。
気をしっかり持って!
しっかり持っている。揺るがなさすぎて怖いくらいだ。
雑音は救急車の音に侵食されていく。
救急車が停車すると、数人の男たちは死体になりかけているであろう父と母に駆け寄った。
止血のための応急手当をしていた人達が救急隊に状況を説明する。
彼らはそれが終わると手際よく、血まみれの人体を救急車に運び入れた。
君が息子か?
そんな問いが救急隊の一人によって僕に投げかけられた。
はい、そうです。
一緒に来て。
そうするのが普通なんですよね。
僕は促されるままに救急車に乗り込んだ。
父と母は死んだ。
葬儀でも僕は泣かなかった。いや、泣けなかった。
こんな感情は人としていけないことだ、こんな感情は見せてはならないと必死に自分にプロテクトをかけた。
この感情はイレギュラーなのだ、と。
高校生だった僕はこうして一人になった。
何のことはない。ただ、両親がいなくなっただけだ。ひとつのピースが欠けただけで、今までと同じような毎日が続いていくのだろう。予定された大学に入り、予定された職業に就く。両親がいなくなっても僕は動くようになっているのだ。
そう思っていた。
でも、運命とやらは僕にそれとは違う道を示した。
それは警察署で一時保護されていた時のこと。
私が君の養父になろう。
そう申し出た酔狂な男が現れる。
こんなロボットのような人間を引き取ろうという奇特さに驚いた。
男は優しく僕を見て笑った。
もう怖がらなくていいんだよ、と。
そして、僕の姓は“秋月”から“十六夜”に変わった。
男は僕を道具として扱わなかった。しかるべき投資をした結果、道具としての成果を要求しなかった。道具としての利益も要求しなかった。
ただ、彼は僕を見守っていてくれた。
怒鳴り散らすことも、折檻することもなく。
見下したり、邪険にしたりすることもなく。
男は僕に恐怖を与えなかった。
代わりに慈愛と知識を与えてくれた。それ以外のたくさんのものも。
こんばんは、怒涛の休日出勤(?)を乗り切りました。
ええ、あんなクソ暑いところで待たされまくり、出てきたオッサンの顔にショートケーキをぶつけたくなりましたが、そこはぐっとこらえました。いや、そんなことしたらクビですからね。
さて、今回ですが過去の回想です。
ちょっとした凛の過去を描いてます。
それにしても、あらすじ……何とかならないものか。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……