早めの冬休み
「十六夜くん、ご苦労だった」
「いいえ、仕事ですから。それに僕は何もしていません。ほぼ全てエルクロス司祭のおかげでしょう」
「しかし、この町は君のような若者には退屈だろう。一応観光地とはいえ、特産品が鍵くらいしかないからね」
「いえいえ、そんなことありませんよ。それより、他の刑事さんたちは教会に行かないんですか?」
「ああ。私一人だ。特に何もしないだろうな」
臨月署の休憩室にあるソファに腰掛けて、僕たちはコーヒーを飲んでいた。時間は午前十時。
十時半から河原田の取り調べを行うという。
「権藤刑事、少し失礼します」
コーヒーを飲み終えると、僕は携帯を取り出した。
これから犯人の取り調べが始まることとこれから本庁に帰投することを次長に報告すると
「取り調べ完了まで付き合え。それで新たに分かった事実があれば、こちらに報告しろ。まあ、凛が報告してくる内容まであたりはついているがな、はっはっは」
と宣った。僕は完全に次長の駒らしい。
「それから小雪くんはいるか? もし近くにいるなら伝言がある。代わってもらえるかな?」
僕は立ち上がって、もうひとつのソファで寝転んでいる不良先輩刑事に携帯を手渡す。
「小雪さん、次長から伝言です」
「はいはい」
気だるそうに携帯を受け取った小雪さんの表情は一瞬で変わった。もちろん、出来るキャリアウーマンの顔に。
「はい。間違いありません……証拠は掴めていませんが。間違いなく次長が追っている事件と関連性はあるかと思います」
小雪さんとは思えない、きちっとした受け答えだ。
十数秒の沈黙の後
「はい、気をつけます。それから私からお願いが……。ええ、必要とあらば。では、また報告します」
重い口調で会話を終えた。
使い終わった携帯を僕に放り投げて返す小雪さん。
「凛ちゃん、取り調べ。ほら、行こうよ。権藤さん、よろしくお願いします」
空き缶を放り投げてゴミ箱に入れると、小雪さんは立ち上がった。
やる気を取り戻したらしい。
「小雪さん、昨日の酒が残ってるなら、僕がやりますよ?」
「何言ってるの。私が酒に強いってこと知ってるでしょ?」
「そうだったんですか」
やっぱりこの人は分からない。
「ええ、やはり河原田はいかがわしいカルト教団に属していたようです」
取り調べを終えてから、僕は臨月署のロビーにあるソファに座って、次長に報告する。
反応はというと、電話口からニヤニヤという擬態語が聞こえるようだった。
「うむ、そうか。ご苦労だったな。私の予定通りだ」
「でも、疑問点もあるんです。なぜ、河原田は取り調べ中もあんなに落ち着き払っていたのか?」
「ふむふむ、そうか」
「これも想定済みですか?」
「もちろんだ。河原田が慌てふためいていたら、私も同じように慌てふためいていただろう。私を誰だと思ってる?」
偏屈で怠惰でいい加減だが刑事の才能だけはやたらと恵まれている不良中年オヤジ。
「まあともかく、お疲れ様。これにて、一件落着だ。一応は」
何だか含みのある言い方だな。
「せっかく、中部日本の田舎町まで来ているんだ。一週間の休暇をやるから、のんびり過ごして来い。もうすぐクリスマスだから、いい休暇になるはずだ」
「どういう意味ですか?」
「何も意味はない。言葉通りだ」
「はあ」
「小雪くんも一緒にな。ああ、女性の扱いには気をつけるんだぞ」
「あの人を普通の女性と思わない方がいいと思います」
「はっはっは、女性はちょっと癖が強いくらいがいいんだぞ。それこそが非常に魅力的なのだ。それが分からないなら、まだまだだな。もっと女性を見る目を磨くのだ」
わはははと電話口で笑ってやがる。この人の部下になるということは仕事よりもストレスとの戦いだろう。間違いない。
「休暇が楽しめないなら、権藤刑事の手伝いでもしてやってくれ。彼一人では大変だろう。何なら私がお前の分の休暇を消費してやってもいいぞ」
「いいえ、結構です。休暇を取ってリフレッシュするのも仕事のうちですから」
「仕事人間にはなるなよ」
「なりませんよ。仕事人間というのは、いついかなる時でも仕事最優先って人でしょ。ありえません」
「よろしい。では、よい休暇を」
こんばんは、jokerです。
色々変更しました。あらすじに本編に。
さて、明日もお仕事です。
頑張ります。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……