ピッキングウーマン
「り~んちゃ~ん、帰ったぞぉー」
酔っ払いの奇声で目が醒める。
夢はそこで途切れてしまった。
ベッドから身を起こすと、そこには日本酒の一升瓶をラッパ飲みしている女性がいる。刑事のイメージブレイクも甚だしいが、何を隠そうこれが小雪さんのもう一つの顔だ。女性は複数の顔を持つのであるというのが彼女の持論。酔っぱらって居酒屋を半壊にしたといううわさもあるくらいだ。
酒臭い息さえなければ、あの不快な世界から引き上げてくれたことに感謝したかったのだけれど。
「ねえねえ、凛ちゃんも飲まない?」
「飲みません」
「ええ~、お姉ちゃんの相手してよぉ」
しなを作るのはよしてくれ。僕を誘惑してどうする?
「酒癖悪いの自覚してます?」
「大丈夫よぉ。凛ちゃん可愛いから、たっぷり×××して――」
聞こえない。聞こえてないぞ。まさか、あの小雪さんが下ネタ連発するとは。
「聞いてるのぉ。こうなったらお姉ちゃん、襲っちゃうぞ」
男の部屋で脱ぎだすのはやめてくれ。というか、このままだと僕が懲戒免職になる。理性がリミットブレイクして。
「そんなことはどうでもいいです。どうやってオートロックぶち破ってきたんですか?」
「あら、顔が赤いわね? 熱でもあるの?」
意地悪く、にやにやとしている。
「何でもありません。それより質問に答えてください!」
「仕方ないわね。あんなのお姉ちゃんにかかったら、朝飯前よ」
ほら、とピッキングツールを左手で僕に見せるように、差し出した。
駄目だ。手がつけられない。
この酔っ払いとのやり取りはエイリアンと会話しているのと同じレベルだ。
こうなったら、三十六計逃げるにしかず。
僕はスーツをひったくるように手に取ると、そのまま部屋の外へと駆け出した。