幕間:ある夜の出来事
俺たちの密会に招かれざる客が訪れた。
こんな夜更けの森の中に出張ってくるなんて酔狂なヤツだ。ましてや今日は月が雲に引きこもっている。こんな場所に足を踏み込んでくるなんざ、殺してくださいといっているようなものだ。
俺は飲み終えた缶コーヒーを近くのゴミ箱に投げ入れる。
禿頭の相方は
「私が誘い出しておいたのだ」
と胸を張っていたが、その浅慮さにあきれた。こんな話をしている時に誘い出すなど、よっぽどのバカか間抜けだろう。
「やれやれ、俺が出迎えるのか? テメエがやれよ。テメエが仕組んだんだからよ」
ヤツはグレーのスーツを纏った、でっぷりとした体をけだるそうに動かして、厭味ったらしく言いやがった。
「おや、君が私をこき使うのかね? 万が一、私が取り押さえられたらどうなると思う? 君の行いもすべて白日の下にさらされるのだよ。私は失礼させてもらう。役目は果たしたからね」
「ケッ、上流階級の方は違うね」
仕事のできない相方が撤退したのを確認して、その珍客を出迎える。
「君がどうしてここにいるのだ? 私は議長に会いに来たんだが?」
巨躯の刑事――確か権藤とかいう名前だ――が目を細めている。
ああ、きっと驚いているんだな。この場に俺がいることに。
「まあどうでもいいでしょう? さあ、議長ならこちらですよ」
丁寧に彼を誘おう。いつも通りに。
すぐに楽にしてやる。
「君、議長とはどういう関係なんだ?」
「別に。ただの知人ですよ」
「それだけでこんな夜更けにこそこそと何をしていたのだ?」
「話の内容聞かれました?」
「ああ。あの指名手配犯、函南雄一の潜伏先もな。観念しろ、油断したのが君たちの最大の失策だ。諦めて――」
「投降しろ、とでもいうのかよ。このクソ野郎が!」
「悪いね、権藤君。我々は理想のために、ここで捕まるわけにはいかないのだよ、ぐふふ」
わざわざ引き返してきやがったのか。暗がりでよく見えないが、慢心してにやついているのだろう。
とことんムカつく野郎だ。多分、俺とこいつは徹底的に馬が合わない。この一時的な協力関係が解消されれば、すぐにでもこの場で襲いかかって、この豚野郎をナイフで抉り殺すだろう。
「我々は! 人類を新たな世界へと誘う者だ!」
その声は今まで聞いた中で一番気に食わない。あれだ。虎の威を借る狐。まさにそのものだからだ。
「おい議長。そこまでにしとけ。部外者に情報くれてやる義理はねえよ。テメエはとっとと帰るんだろ。俺はこいつを始末してから合流するからよ」
「ぐふふ、そうだったな。権藤君とかいったか、警察の分際で真の支配者にたてついたことを後悔するといい」
テンプレ通りの悪役の台詞を吐くんだな、この間抜け議長は。
まあ、お似合いだ。
「では、頼んだよ。後始末もな」
「委細承知だ。テメエは捕まるなよ。いくら警察を木偶にしたからって、警視庁から派遣されてきた野郎がいるだろ。そう十六夜凛だよ。あの奇術師の部下だよ」
「そんなものは権力でどうにでもなる。警視庁とはいえ私を止めることはできん」
ああ、そうだな。
止めるのは俺だ。テメエの息の根を。
それが俺にこの後で果たさなければならない使命。
議長は脂肪が主成分ではないかと思う足をせかせかと動かして、舞台から降りる。
さてと、これでこいつの処分に集中できそうだ。せいぜい、俺を楽しませろや。
「というわけだ。権藤刑事、悪いが死んでくれや。私服ってことは拳銃も持ち歩いてねえんだろ?」
権藤の顔が歪む。
まあ、肯定とみていいだろう。
「なぜ、こんなことを……」
呻くような権藤の問いかけ。いいねえ、ゾクゾクする。困惑と憎悪が交錯するその表情。
「なんでって? なんでだろうな?」
くつくつと笑いがこみあげてくる。自分の立ち位置を理解していない滑稽な男に対して。
「操り人形に言っても仕方ねえけどさ、バカみたいに踊ってろ。ま、踊ってることすら気付かねえだろうけどさ」
「何だと?」
「テメエとお話しするほど俺も暇じゃないんだよね。ま、冥土の土産ってヤツを一個だけならくれてやってもいいぜ?」
「最終的には何をするつもりだ?」
「それでいいのか? ああ? 返品不可だぜ?」
「構わん。答えてもらおうか」
「いいね、いいね。最後まで真実を追い求めるってやつ? 刑事の鑑だよアンタ」
権藤は俺の哄笑に応じない。
「最終的にはクリスマスに、あの駅前のバカでかいビルを爆破して、クソ議長とレイプ魔の函南をぶち殺して終わりだ。いい打ち上げ花火になるだろ? ま、臨月町での殺しはこれで最後」
「……そうだったか。新しい教会職員を雇ったのは函南の潜伏のためか」
「お、ご明察。いいカンしてんじゃん? コネと金で警察入ったってわけでもなさそうだねえ」
「見くびられたものだな。それで――」
「説明はいらねえよ。テメエはもうじき天に召されるんだ。警視庁の奇術師でも知らねえようなことを喋ったところで意味ねえよ」
引き金に手をかける。
ワンアクションで権藤は退場するだろう。この世界から。
「めでたいな……あの彼が気付いていないはずないだろう。でなければ、十六夜くんをここに送り込むようなことはしない」
「はあ? あのアンダードッグ如きが何だってんだ?」
「我々はきっと彼の掌で踊っているに過ぎないと思うのだ」
俺が? あの奇術師に踊らされている?
ああ、ムカついた。殺害方法変更。肺に穴を空けて殺してやる。
精々苦しんで死ねや。
俺は逃げられないように、権藤の腿を銃で撃ちぬいてから、ヤツの肺めがけて鋭利なナイフを突き出した。
こんばんは、jokerです。
暑いですね。何度書いたかしれませんが、暑いです。
夏「一か月延長お願いします」
俺「当店では延長プレイは受け付けておりません」
なんていってお帰りいただきたいところです。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




