第3話 夢への決意
NSUに入学して初めての休日。まだ学業にもなれてなく、初めての寮生活には少しだけ慣れてきた頃。アダムはリタと待ち合わせをしていた。
「リタ遅いな。道が混んでいるのかな?」
アダムはリタが約束の時間になってもなかなか来ないので、時計を何度か見る。その時アダムの上空からヘリコプターのローター音が聞こえた。アダムは突如近づいてくるヘリコプターに戸惑う。
「ごめーん。遅くなって」
ヘリコプターの中から現れたのはリタだった。
「リタ? え? まさかこれで行くの?」
「そうよ。彼女の家はロサンゼルスの郊外にあるんだもの」
ヘリコプターで移動するとは思っていなかったアダムは戸惑った。なにしろヘリコプターに乗るのはこれが人生初だからである。人生初のヘリコプターに乗り込むとヘリコプターは上昇を開始した。しばらく飛行するとアメリカの広大な大地が広がってきた。さらにしばらく進むと、小さな集落とも呼べる場所が見えてきた。
「アダム。そろそろ着くわよ」
ヘリコプターはゆっくりと下降しながら進んだ。そしてとある家の横に降り立った。見た目は普通の家である。
「さ、着いたわ。降りて」
アダムはリタに促されるがままヘリコプターを降りた。ヘリコプターのローターで砂埃が舞っている。
「着いてきて」
「え、うん」
リタはドアの前に立つとドアをノックして言う。
「レイラ、居る? 連れてきたわ」
するとドアが開き、中から女性が出てきた。雰囲気的には物静かで優しそうな少し小太りな中年の女性であった。
「ようこそ、待ってたわ。さぁ中へどうぞ」
アダムとリタは招き入れられ家の中へと入っていく。レイラはアダムとリタを居間へと案内すると、紅茶をテーブルへ置いた。そして自身も椅子へと座ると話はじめた。
「ようこそ久振りね。アダム」
レイラのその言葉にアダムは驚く。
「どこかで会いました?」
「まぁ憶えていなくて当然ね。あなたに会ったのはあなたがまだ赤ん坊の頃だものね」
「赤ん坊の頃に?」
「ええ、あなたの母親のリアとは知り合いなの。まだ私たちが学生だった頃出会ったのよ。リアは卒業した後、故郷のイギリスに帰ったんだけどね。葬式にはいけなくて御免なさいね。今度お墓参りに行かせて頂戴ね」
「ええ是非。母も喜ぶと思います」
アダムは微笑みながら答えた。
「ところでリアが亡くなる前、あなたに何か変なことを言っていなかった?」
「変なこと?」
「そう、例えば……とても大きな使命を課せられるとかなんとか」
アダムは母親の言葉を思い出していた。あの事故の日、母親が死んだ日。確かに口にしたその言葉。
「言ってました」
「そう、やっぱりリアは死ぬことを分かっていたのね」
「死ぬことが分かっていた? どういうことです?」
レイラはアダムの方をジッと見つめると少しの間沈黙した。
「単刀直入に言うわ。あなたは人類の味方にも敵にもなる」
「え?」
レイラの突然の言葉にアダムは理解できずにいた。
「あなたが7歳の誕生日に経験したアブダクション。そこで彼らを見たわね。彼らは通称"グレイ"と呼ばれる生物。起源は私たちと同じ地球。地球で生まれた第三種の生物よ。開発はアメリカ、ロシアそしてノルディック達」
「アメリカ? ロシア? ノル……?」
「ヒトゲノムを使った遺伝子配列の組み換えによって人工的に造られた生命体。ヒトが神の域に達した瞬間。そしてその為の指揮、技術を与えたのがノルディックと呼ばれる異星人。彼らがはじめて地球を訪れたのは今から約40億年前。その後、自分たちの遺伝子と地球のホモ系の生物とを遺伝子操作で融合させて造られたのがホモ・サピエンス。つまり"人間"よ」
アダムはかつて聞いたことを思い出していた。レイラが言う事と彼らから聞いたことは同じだった。
「はるか昔彼らは一度地球の生物を一掃した。そして再び繁栄させた。けど彼らは再び全てを滅ぼそうとしている。アダム……あなた以外の生命体全てを」
「……つまりあの時彼らが言ってた人類を含む地球上の生物を絶滅させるっていうのは全て本当だってこと?」
「そう。そして恐らくリアはそのことを知っていた」
「母さんが?」
「リアも私も彼らには何度も誘拐されているの。たぶん、あなたという存在の母体に選ばれたのがリア。リアはそれを知っていてあなたをアダムと名付けた」
「母さんが……異星人に誘拐されていた」
アダムはリアが死んだ時の事を思い出していた。リアの言葉"アダム、あなたはこれから先、とても大きな使命を課せられる。それは今まで人類が誰も体験したことが無いような、とても大きくて恐ろしいもの"それは、レイラの言うこと。彼ら異星人による人類の抹殺計画。そしてアダムは種としてただ唯一生き残る生命体。
「これは憶測でしかないけど、リアはもしかしたら彼らに殺されたのかもしれないわ。あなたに迷いを与えないために。母親が生きていたらあなたは何が何でも地球に残ろうとする。そうなれば彼らの計画に支障がでかねない」
もしそれが事実ならアダムにとって絶対に許しがたいことである。彼らからすればたかが一人の人間だとしても、アダムにとっては唯一無二の母親だからである。
「……俺はどうすればいいんだ?」
「それは、あなたが決めることよ。私の役目はただあなたに事実を伝えるだけ。世界中にいるコンタクティーがなにかしらあなたに伝えるべき情報を持ってるわ。世界中にいるコンタクティーに会って話を聞いてみるのもいいかも知れないわね」
アダムは沈黙した。
夕暮れ時――。
「アダム」
「リタ……俺どうすればいいのかな?」
「あたしには分からないわ。ただこのままだと地球上の全ての生物が全滅する。それは確かだわ」
「俺、この星を守りたい。母さんが好きだったこの地球の全てを」
「なら答えはひとつしかないんじゃない?」
「そうだね。俺は……」
そこまで言うとアダムはレイラの元へと向かった。
「レイラ。俺はこの星を守る。最後まで抵抗するよ」
「そう。なら出来ることはひとつだけよ。彼らに人間のすばらしさを分からせるしかないわ。それはとても難しいことだけど、あなたなら出来るはず。彼らが認めたあなたなら」
「俺、やるよ。その為には、宇宙にいかなくちゃね。航空大学でいっぱい訓練して早く宇宙に行ける様にがんばる」
こうしてアダムの決意は固まった。宇宙への夢を抱いて。