第2話 遥かなる存在
「第一期生、学生番号0001番。アダム・ユリシス」
名前を呼ばれて壇上に立ったのはアダムだった。アダムは壇上で、一礼をして学生証を受け取る。この学生証は、ここ航空宇宙大学(National Space University、通称=NSU)に進学した証となる。
人類初の有人火星飛行を成功させた2030年、この学校は開校された。
2010年、当時のアメリカ合衆国大統領であるオマヴァ大統領が、打ち出した有人火星飛行計画は、ほぼ同時期に起こった世界金融危機の影響を受け、廃止の可能性が高くなっていた。それは、『世界経済が破綻の危機にある時に、火星に行った所でなんの意味がある』という国民の意見が多く、それを無視出来ないのが、現状だったからである。
しかし、アメリカにとっては幸か不幸か、時期を同じくして中国が月周回探査機を打ち上げ、さらにアメリカ、ロシア以外の達成がなかった有人月面探査を成し遂げ、世界の興味は一気に宇宙へと広がった。そして、それをきっかけとして宇宙関連の事業が業績を伸ばし、世界の経済は一気に回復した。
こうして世界は、宇宙関連業を中心に発展していき、アメリカは当時の予定であった有人火星飛行をも成功させるに至ったのである。そしてNSUは、有人火星飛行が現実的となった年2025年に着工され、2030年に開校となった。
NSUは宇宙関連の様々な専門分野に特化した学習が出来るように、造られている。例えばアダムの通う学科は、航空宇宙士専攻である。余談だが、アダムの学生番号が0001番なのは、偶然にもアダム・ユリシスの頭文字がアルファベットの『A』だったからである。
他にも、航空情報学科や、宇宙物理学科など全部で8つの専門学科が存在する。教授は宇宙関連の第一人者が名を連ね、世界で最も多種多様な人種と共に、最も広大な土地を所有し、最も頭脳明晰な人間が集まる場所でもある。
各人が学生証を受け取り終わると、壇上に一人の女性が上っていった。女性は、アジア系の顔つきではあるが、ハーフだと一目で判別が可能な顔つきをしている。目はクリッと大きく、肩まで伸びた綺麗な髪が印象的だ。どこかのモデルのような風貌にアダムが一瞬目を奪われたのは言うまでもない。校長がその女性について簡単に説明している。校長の話によると女性の名前は、リタ・セレシス。入試にてトップの成績を叩き出した女性のようだ。その為、学生一同代表として挨拶の為に、壇上に上がったようだ。
挨拶が終わり、式典も終わり、アダムは昼からさっそく始まる授業に備えて準備を始めた。今日からいよいよ始まる授業にアダムの内心は心臓が飛び出そうな程、ドキドキしていた。母の死を乗り越え、自らが希望していた宇宙への旅立ちへの第一歩が今、まさにここから始まるのだ。
それでも宇宙飛行士になれるのは、このたくさんの学生の中からほんの一握りしかなれない。アダムの心は期待感と不安感が入り混じった模様をしていた。しかし本日の授業は、簡単な設備の紹介等だけであった。本格的な授業は明日からだということだった。授業を終えたアダムは、設備の紹介で学校を回っているときから気になっている場所に行く。そこは学校の最上部。屋上にある天体観測上だった。世界第3位の大きさを誇るこの大展望台は、最新鋭の装備を備えている。星が好きなアダムは、その場所をどうしても良く見ておきたかったのだ。アダムがその場所に行くと、すでに一人いることに気が付く。すると向こうもアダムの存在に気が付いた。
「あら、こんにちわ」
アダムはそこにいた人間に見覚えがあった。それは先ほど学生代表として壇上にあがった女性だった。壇上で見るのより間近で見たほうが、なお可愛いその姿にアダムの心臓のスピードは速くなっていった。
「こ、こんにちわ。こんなところで何してるの?」
アダムは緊張の為か、少し声が震えていた。どうやらアダムは美人が苦手なようだ。女性はニッコリ笑うとアダムの方を向いた。
「あたし星が好きなの」
「え?」
「小さい頃からずっと星を眺めてた。一番好きな星は恒星シリウス。小さい頃にいろいろあったけど、この学校のことを知ってからこの学校に入学することを目指したの。でもお金が足らなかったから自分でバイトして、資金を貯めた。それでやっとこの学校に入学できるようになって試験も受かって、これでやっと宇宙を目指せる。専攻は航空宇宙士」
アダムは呆然としていた。彼女が話す境遇は自分の境遇とそっくりだと思ったからだ。彼女を身近に感じたアダムは彼女に言葉を返そうとしたが、次に出た彼女の言葉にそれを思いとどまった。
「幼い頃、誰にも話せないような驚異的な体験をしている。その理由は不明だけど、宇宙にいけば答えがあると信じている。そうでしょ? アダム・ユリシス」
彼女が言っていたのは自分のことではなかった。彼女はアダムの境遇を語っていただけだった。
「いきなりすぎて何が何だか分からないって顔ね。まぁ無理もないけど……。単刀直入に聞くわね。アダム、あなたの体験した脅威の出来事を、あなたの口から直接聞かせてほしいの」
「な、なんのことを言ってるの?」
「隠さなくていいわ。あなたが7歳の誕生日に経験した未確認飛行物体による誘拐事件。あなたはこの地球上から30分間姿を消した。彼らは何者なの? 何を言われ、何を見たの?」
アダムは察した。この女性が何者なのかすら分からないが、確実にアダムの身に起きた出来事を知っている。過去の経験からこの事件のことはただひたすらに自分の中に秘めてきた。誰にも話すまいと心に仕舞い込んで。
「キミは何者なの? 自己紹介くらいしてよ」
「そう言えばそうね。あたしの名前は、リタ・セレシス。19歳。この学校での専攻は宇宙物理学」
「この学校での?」
「Harvard University(ハーバード大学)、Princeton University(プリンストン大学)、Yale University(エール大学)の三校にも在籍しているのよ。本来は認められてないんだけど、あたしは"別"なの。なんでか分かる?」
リタは微笑むと続けた。
「Someone who has exceptional intellectual ability and originality(ずば抜けた知的能力と独創性を持つ人)だから。まぁ一言で言うなら"万能"だからかな。あたしの紹介はそんなとこね。まぁ追々あたしのことも話していくとして、今あたしが知りたいのはあなたの過去」
リタは話しながら距離を詰めて来る。
「どこでその情報を手に入れたのか知らないけど、そこまで知ってるならわざわざ俺の口から言わなくてもいいんじゃないか?」
「確かに、知ってるけどあたしはあなたの口から直接聞きたいの。文面なんかじゃ分からないその時あなたが何を思い、何を感じたのか、そしてどうしようと思ったのか、それを知りたいの」
「文面?」
「そうよ。あたしはあなたのその事件のことをある資料で偶然知ったの」
「なんだよ。資料って。誰でも見れるのか?」
「見れるわけないじゃない。あなたのその事件は認識はないだろうけど、アメリカ合衆国におけるAAAのトップシークレット。例え官僚だろうとそれを見るには、最低でも上位官僚5人の承認が必要となるんだもの」
「え? なんだよそれ」
「それだけその事件は歴史的に見ても大きな事件だったってこと。さぁそろそろいいでしょ? 早く聞かせて頂戴」
アダムはしばらく沈黙する。突然現れた女性。トップシークレットの事件。アダムの頭の中は混乱していた。それを整理するにはあまりにも時間がなかった。
「……分かった。話すよ」
「ありがと」
リタは笑顔で答えた。
「今でも鮮明に憶えてる。あれは7歳の誕生日に起きたこと。俺は近所の公園で一人で遊んでたんだ」
アダムはそう言いながら過去の出来事を振り返った。
-----------10年前---------------
「それ!」
アダムはソフトボールを公園にあった木にぶつけて遊んでいた。木に当たり跳ね返ってきたボールを捕って、再び投げてはを繰り返していた。しかし勢いあまってボールは明後日の方向へと飛んでいったので、アダムはそれを捕るためにボールを追いかけた。遠くまで転がっていったボールを見つけアダムは手に捕った。その瞬間アダムは何か輝くものが空にあることに気がついた。ボールを手に持ったまま光のほうを見たアダムは幼いながらに驚いた。
目の前にあったあまりにも巨大で青白く輝く物体だった。それは地上からおよそ5メートルの付近に浮いていて、擦れるような金属音を放っていた。子供のアダムですらそれが異質なものであることにすぐに気がついた。だが、あまりの綺麗さにアダムは見とれてしまい、身動きを取ることができなかった。するとそれは突然輝きを増し始めた。あまりの輝きにアダムは目を開けていられなくなってしまった。突然強風が吹き荒れアダムは飛ばされまいと身構えた。
気がつけばそこは白い空間――。
見渡す限り何もなく、自分が立っている所ですら地面なのか空中なのか分からないくらいに、白く何もない空間。ただ不思議と恐怖はなかった。まだ7歳という年齢のアダムが見知らぬ場所で上も下も分からないような空間で、恐怖を感じないくらいそこは温かく、まるで母体の中にいるようなそんな気分にさせる場所だった。
そんな空間に影があることにアダムは気が付いた。それはアダムの正面から少しずつ近づいてくる。そしてそれはゆっくりと姿を現した。その姿はまだ7歳という年齢のアダムからすれば、あまりにも経験のない……いや、例え大人であったとしても、その姿を見れば誰しもが冷静ではいられない姿であった。
身長はアダムとほぼ同じ大きさだろう。しかし頭はアダムの……人間のそれを超える大きさをし、さらに大きく吊り上った黒い目、小さな鼻と口。そしてその頭の大きさの比重を考えるとあまりに小さな手と足。肌の色は灰色に近い色をしている。二本足で直立してはいるが、明らかに人間ではないその姿。本来ならあまりの恐怖に、失神してもおかしくないはずなのだが、不思議とアダムに恐怖はなかった。見た瞬間にこそ恐怖に近い驚きを感じたが、次の瞬間にはその恐怖は消えていた。よくよく見るとその存在はアダムの正面に全部で3体存在している。
「ようこそ。アダム我々の船へ」
アダムの脳に直接声が聞こえてくる。普段耳から聞こえてくる声とは違う。聞こえるというよりは、分かるという感覚に近い。そして、その存在は続けた。
「時は来た。アダムが生まれてから地球の時間で2555日。覚醒の為の第一施行段階を迎えた。今より我々はアダムの覚醒に必要な処置を施す」
7歳のアダムには意味のよく分からない単語が並んではいるが、アダムはその存在が言っていることを全て理解できた。脳に直接伝わってくるその言葉は言語も意味も必要のないものだった。思考が直接伝わるのだから。
次の瞬間アダムの正面に窓が出現したように空間が開け、外の様子が映し出された。そこは地球の空だろうか。雲と青空が映し出されている。
「アダム。決して目は閉じないことだ。この光景をしっかりと脳に記憶しておくのだ」
突如、アダムの目の前の空間が動き出した。それは、明らかに超高速というべきスピードだった。動き始めた瞬間にこそ空は青かったのだが、瞬く間に空は黒くなりだした。一瞬赤い閃光が走ったかと思えば辺りは完全な闇に覆われた。そしてアダムの目には驚くべき光景が映し出された。それはよく母親と天体望遠鏡で観察しているもの……地球の唯一の衛星、月であった。だが、地球で見るものとは違い遥かに大きい。まるで天体望遠鏡で見ているかのような大きさだ。アダムが驚いている間にも月は徐々に大きくなっていく。それは月に近づいているという証拠でもあった。体感時間にして約5分。月は真下に来ていた。アダムはこれほど近くで月を見たことはない。月の表面がよく見える。月のクレーターも色もよく見える。
地球と月の距離約38万キロメートル。仮に時速200キロメートルを誇る新幹線であったとしても月への到着には約80日かかる。たった5分での到着がどれほどのスピードなのかは容易に想像できる。
さらにアダムの目には次の光景が映し出される。月の裏側を通り月を約1周して映し出されたのは、太陽系最大の惑星、木星だった。月を通り越し木星を正面に捉えるとそれはさらに加速した。地球から木星への距離約6億3000万キロメートル。地球から月などとは比べ物にならないほどの驚異的な距離。途中にある天体火星をも超え、さらに遠くへ。その所要時間約30分。明らかに地球と月間のスピードですら凌駕している。
木星をこれほど目の前で捉えたのは人類史上アダムが始めてである。そのあまりにも巨大な天体にアダムは息を呑んだ。しかしそれは徐々に減速して行き、木星を正面に捉えたまま完全に停止した。アダムの目の前には木星が映し出されたままになっている。木星の特徴である大赤斑もよく見える。アダムがその光景に見とれていると再び声が聞こえた。
「美しいだろう」
アダムはその存在を見た。
「この星は地球では木星と呼ばれている。我々の言葉ではジゥミディゥヘルと呼んでいる。意味は死の星だ」
「死の……星?」
「そうだ。太陽系の惑星の中で唯一テラ・フォーミング。つまり惑星の改造ができない星だ。この巨大なガス惑星には生命体は絶対に住めない」
アダムは無言で聞いている。
「太陽系の他の惑星ではテラ・フォーミングにより生命体を住まわせることは出来る。だが、生命体が自主的に進化し、多様化できる星は我々の知る宇宙でも僅か。太陽系に置いては地球だけだ」
「地球だけ……」
「遥か古代。地球には独自の生命体が存在した。生命体は多様化し、その種類を爆発的に増やしていったのだ。しかし、海の中では多様化こそすれ一向に陸に上がる気配はなかった。そこでDNAを操作しキッカケを与えることで生命体はようやく陸にあがった。しかし第二の問題が起きた。一般に地球で霊長類と呼ばれる生物の進化だけが止まったのだ。原因はDNAの操作にあった。生物の多様化の為に操作したDNAが結果として生物の進化を止めてしまった。そこでさらなるDNAの操作を行った。そうして生まれたのがヒトであった。そうして進化し多様化してきたヒトに技術を与えた。だが、ヒトはその技術を使い、戦争をはじめた。戦争は本来の生物の多様化とはまったく逆の結果を生む。そこで一度全生物の対となる存在、雄と雌を集めそれ以外の生物を地球の海の水を使い一掃した」
その存在が語るそれはまるでノアの箱舟伝説である。存在は続けた。
「そして全てが新しく生まれ変わった地球に再び生物を降ろし、ある一定期間の監視を終え一度は地球を去った。だが……ヒトは再び戦争を起こし、さらには進化した科学を地球の破壊の為に使い始めた。そして、地球が使い物にならなくなると感じると宇宙に進出し、新天地を求めはじめた」
あまりにも壮大なその語りに、アダムは言葉を発することも出来ずに聞き入っていた。
「我々はようやく気が付いた。ヒトは失敗作だと」
アダムの脳にその存在の言葉だけではない感情も共に入ってくる。アダムはここで始めて少しばかりの恐怖を感じた。
「そこで我々は再び全生物を地球から排除することを決定した。もはや地球をヒトに任せては置けない。だが地球に存在する全生物の種類を消滅させる訳にもいかない。アダム……君はヒトで唯一ただ一人生き残るのだ。そして覚醒し"種"を開花させ、全生物の親となる。そうして新しく生まれ変わった地球にて、今度は我々の徹底的な管理化の下、未来永劫を地球で生きるのだ。地球をジゥミディゥヘルにしない為には最早この方法しか存在しない」
彼らの言葉はヒトを想ってのことではない。地球という"遥かなる存在"を守る為の言葉だった。いや、彼らは二度もヒトにチャンスを与えている。だがしかし、ヒトはそれを生かすことなく地球を破壊しはじめた。ヒトは過ちを犯し、更正のチャンスすら自ら放棄した。ヒトの排除は当然……。だが幼きアダムの心には別の感情が浮かんだ。
「みんないなくなっちゃたら、お母さんも友達もみんないなくなったら悲しい」
まだ7歳の年齢のアダムには当然の感情であった。その存在とアダムは見つめ合う。
「今はまだ理解しなくてもいい。いずれ我々の言っていることの本当の意味を知る時が来る」
この時アダムに流れてきた感情は"悲しみ"だった。アダムはその感情を受け取り、一粒の大粒の涙を流した。それに気が付いたその存在はアダムに語りかける。
「美しい。地球は生命体を最も多様化させる星だが、ヒトは最も多様な感情を持っている。我々にはない感情をも。それゆえの失敗作なのだな。さぁアダムもう帰る時間だ。再び地球へ戻り、さらなる経験を積み重ねると良い。我々が再び迎えに行くその時まで様々な知識を学び、感情を学び、見識を広げ、理解し、そして記憶するのだ。それらは全て種の開花の手助けとなる」
「二つだけ聞いてもいい?」
「……いいだろう」
「どうして僕なの? 君たちは宇宙人なの?」
「順番に答えよう。まず一つめの問い。それは我々の知る所ではない。アダムの存在は遥か昔より決まっていたこと。我々の見識の外の話だ」
答えが不明瞭なことにアダムも気が付いた。
「二つめの問い。答えはノーだ。我々の起源はヒトと同じく地球だ」
その答えはアダムにとって予想を裏切る答えだった。アダムが追加の質問をしようとした時、辺りが激しく輝き始めた。
「アダム。この出来事は夢ではない。それを決して忘れるな」
アダムは周りの輝きに目を開けていることすら困難になった。さらに激しい耳鳴りによりアダムの意識は消失した。
次にアダムの意識が覚醒したのは公園の砂場の上であった。意識の覚醒と同時に目に飛び込んできたのは、青白い光を放つ巨大な物体。それは、刹那というのに遜色がない程のスピードでアダムの目の前から消えた。辺りは静けさを取り戻していた。我に返ったアダムは、そこが近所の公園であることに気が付くと、急ぎ足で帰宅した。
アダムは憶えていることを出来る限り詳細に話した。リタもその話を真剣に聞いていた。
「よーく分かったわ。聞かせてもらえてよかった」
「実を言うと、今でも信じられなかった。俺の身にあんなことが起きたなんて。あれが夢じゃないって証拠がなかった。でも今キミがその証拠を持ってきてくれた。俺は地球上から姿を消し、そしてそのことがアメリカのトップシークレットとして資料化されている。これ以上の証拠はないよ」
「そうね。あなたが経験したことは紛れもない事実。一般にあなたが経験したことはアブダクション(異星人による誘拐事件)と呼ばれるもの。実はあなたのような経験をした人は世界中にたくさんいるの。あたしはそんな事件を追っていてあなたに辿り着いた」
「追っていて? どういうこと?」
リタは胸ポケットから手帳を取り出すとそれをアダムに軽く放り投げた。アダムは咄嗟にそれを受け取った。そして手帳を見て驚いた。
「NSA?」
「そう、あたしはNSA(国家安全保障局)の人間よ。シギント(Sigint、signal intelligence)と呼ばれる電子機器を使った情報収集活動とその分析、集積、報告が主な任務。エシュロンと呼ばれる巨大データーベースでの監視中にこの事件のことを知った。そしてある人に接触をしてアダムのことを知ったの」
「ある人?」
「あなたにその人に会ってほしいの。あなたが抱いているあの事件の疑問をある程度解決してくれるはずよ」
「それは大丈夫だけど、どうしてキミはそこまで……」
「この国は何か巨大なことを隠している。あたしはそれを知りたいの。そしてそれを知る為にはあなたの協力が不可欠。あなたもあたしと同じく知りたいはず。お互いにメリットがある。そうでしょ?」
アダムは静かに頷いた。
「分かった。行こう。それで疑問の解決になるならいくらでも協力する」
「そうこなくっちゃ。じゃあさっそく手配するわね。次の休みの日でいいわね?」
「うん」
こうしてアダムは自らの疑問を解決するために動き出した。
しかしそれは地球全体を巻き込む、あまりにも巨大な陰謀のはじまりになることはまだ知る由もない。