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第1話 少年の夢と母親の覚悟

空想科学祭2011参加作品です。全3話です。よろしくお願いします。

 この世界は宇宙があり、銀河があり、星があり、生命がある。


 遥かなる昔、全てはたった一つの光から始まった。全ての源である大きな爆発と共に。それから幾億もの月日が流れ、世界は構築されていった。350億光年にも及ぶ宇宙には、大小様々な凡そ1000億個からなる銀河と1000兆個にもなる恒星、無限とも思えるほどの惑星が存在し、そして生命もまた惑星に無数に存在する。


 地球もそんな惑星の中の一つであり、生命が多様化している星である。




 地球が自転し、影の部分になるとそれを夜と呼ぶ。夜になると日中太陽の強烈な光によって遮られている星々が姿を現す。そしてそれを人は眺める。遥か太古からそれはずっと変らず行われてきた。そして、人類はいつかその星に少しでも近づこうと空を飛ぶ為の道具を開発し、そしてそれは地球をも飛び越え宇宙へとの道を示した。宇宙への憧れは古代より人間が抱いてきたこと。


 そして、ここにも一人宇宙への憧れを抱く少年が一人存在する。



「お母さん、あの星は何?」

 天体望遠鏡で空を眺める少年が言う。それを聞いた母親は天体望遠鏡を覗く。

「あれは、シリウスね」

「シリウス?」

「そう、地球から見える星の中で太陽に次いで二番目に明るく見える星よ」

 それを聞いた少年は再び望遠鏡を覗きシリウスを見る。

「どうして明るく見えるの?」

「それは太陽よりもずっと大きくてその分、輝きも大きいからよ」

「じゃあ、もっともっと時間が経ってもっと大きくなったら、もっとずっと明るくなるのかな?」

「残念だけど、それはないの」

「どうして?」

「シリウスだけじゃないけど、全ての星はいつか命の終わりがやってくるからよ。命が終われば輝きは失われる。それは星だけじゃなく、この世の全ての生命いのちに言えること。私も……アダム、あなたもそれは同じことよ」

「ねぇお母さん。僕、あの星に行きたい。どうやったら行けるの?」

「うーん、そうねぇ。宇宙飛行士になれば行けるわよ」

「宇宙飛行士?」

「地球を飛び立ち宇宙に行く人達のことよ」

「じゃあ僕それになる!」

「そうね。夢を持つことは大切なことよ。そして、夢を見つけたならそれを絶対に諦めないことも大切」

「うん、僕絶対諦めない。必ず宇宙飛行士になる。それで、シリウスの命がなくなる前に絶対に行くよ」

 それを聞いた母親はニッコリと笑う。

「さ、アダム。今日はもう寝ましょう」

 少年の母親とアダムと呼ばれた少年は部屋の中へと入っていく。そして、寝床についた。


 母親は、アダムが寝やすいように話を始める。その話はおとぎ話。その話は、月に纏わるおとぎ話。


 はるか昔、月から美しい天女が舞い降りました。その天女は美しい羽衣を纏い世の人々を魅了しました。人々は天女に気に入られるために様々な贈り物をしました。しかし天女は人々に無理難題を出し、それを達成したものは月の世界へと誘うと約束しました。

 しかし、天女の出す無理難題を達成できるものは現れず、月日が流れ誰も天女を相手にすることがなくなりました。そこに一人の男が現れ、今まで多くの人々が無理だと諦めていた難題を次々に達成していきました。やがて天女はその男を月へと誘い、そして結婚しました。


 そこまで話すとアダムは眠ってしまっていた。母親はアダムが寝たのを確認すると部屋を静かに去っていく。一階に降りた母親はコーヒーを入れると椅子に腰掛けた。

「宇宙飛行士になる……か。やっぱり、あなたの子ね」

 そう言いながら、棚の上に置いてある写真を眺める。その写真にはアダムとアダムの母親であるリア。そしてアダムの父親が写っていた。写真に写っているアダムの手にはスペースシャトルがしっかりと握られている。アダムはこの頃から宇宙が好きだったということが伺える写真である。


 翌日アダムが学校から帰ってくると、母親のリアが部屋の掃除をしていた。

「お母さん、僕も手伝うよ」

「ありがとうアダム。じゃあそっちの棚から本を出してくれる?」

「うん」

 アダムはリアに言われた場所から本を出し始めた。すると本の間から一枚の紙切れが出てきた。そこには無数の0と1の数字が書かれていた。一見すると意味不明な数字の羅列。まだ6歳のアダムにとってはもちろん意味不明なものだった。しかし、それをずっと眺めていたアダムは呟く。

「全ての終わりは全ての始まり。今、再び新しき世界の再生を……」

 アダムはさらに呟きを続ける。それに気がついたリアはアダムの所へ駆け寄る。そしてアダムが見ているものを見て驚く。それはリアが数年前に無くした紙切れだったのだ。

「アダム、それを貸しなさい」

 アダムはリアの言葉に気がついていないかのように呟き続ける。

「アダム!!」

 リアはその紙切れをアダムの手から無理やり奪い取った。

「あれ? お母さん? どうしたの?」

 その紙切れを話した瞬間アダムは何事もなかったかのように正気に戻った。


 翌日、リアはアダムが学校に行っている間に紙切れを持ってある場所に行った。そこはリアの夫であり、アダムの父親である人物の墓。

「あなた、アダムもこれを読んだの。やはりあの子は選ばれた子。私はまた選択を迫られる。あの時、あなたを死に追いやったように……」

 リアは涙を流しながら墓の前で呟く。

「あの子を殺さなければならないの? それとも……」

 リアはそこまで言って言葉を濁した。

 

 その頃、アダムは学校を終え近くの公園で遊んでいた。その時、アダムの身体が突然硬直した。そしてアダムは目の当たりにする。アダムの目の前には青白く光る巨大な物体があった。それは、今まで見たこともない、感じたこともない美しさを秘めていた。アダムはソレに心を奪われ身動きをすることもままならなかった。突如その物体の輝きが強烈になり、アダムは目を開けていられなくなった。その瞬間、強風が吹きアダムは身構える。そしてアダムが再び目を開けた時、すでにその物体は消え去り辺りには元の静けさのみが残っていた。


 辺りの様子が変わっていることに気がついたアダムは、急いで帰宅した。


 その夜、アダムはリアに昼に起きた不思議な現象を話した。

「それは本当なのアダム?」

「うん、僕ね本当に驚いたんだ」

 アダムの話にリアは覚悟を決める。

「アダム、少しここで待っていて」

「え? うん」

 そう言うとリアは台所に行き、包丁を取り出した。そしてそれを持ってアダムの所へと行く。アダムの前に立ったリアはアダムをジッと見つめる。

「どうしたの? お母さん」

 リアはアダムを見つめたまま動かない。すると突然手に持っていた包丁を落とした。

「出来ない。出来るわけがない。……アダムごめんね。例え人類全てが滅んだとしても、私だけはあなたを守らなきゃね」

 そう言うとリアはアダムを思いっきり抱きしめる。

「何言ってるの? お母さん。意味がよく分からないよ」

「なんでもない。なんでもないの」

「どうして泣いてるのお母さん」

 リアが泣いている理由。アダムにはそれが分からなかった。

「アダム。一緒に買い物に行きましょう」

「え?」

「あなたにプレゼントしたいものがあるの」


 そう言うとリアはアダムと共に外へと出た。外は雨が降っていた。リアは空を眺めている。

「お母さん?」

「なんでもないの。さぁ行きましょう」

 リアとアダムは傘をさすと歩き出した。しばらく歩くとリアはアダムに微笑みかける。

「アダム。どんなに離れてもずっと一緒だよ」

 そう言うとリアはアダムから少し離れる。そしてある程度距離を開けると言う。

「ありがとうアダム。私の子供に生まれてきてくれて」


 リアがその言葉を言い終わったその瞬間、リアにトラックが接触した――。


「お母さん! お母さん! お母さん! 死んじゃ嫌だよぉ!」

 リアは朦朧とする意識の中でもアダムの泣き叫ぶ声だけは、ハッキリと聞こえていた。リアは動かない身体を必死に動かそうとする。何とか辛うじて動かすことの出来た手をアダムの頭の上に置く。そしてアダムの頭を自分の胸に抱きこんだ。

「アダ……ム。聞きな……さい。お母さんは……もう助から……ない」

「嫌だよ! 死なないでよ、お母さん!!」

 アダムの顔は溢れ出して止まらない涙と鼻水で、グジュグジュになっていた。さらにそこへ追い討ちをかけるかのような雨に全身はずぶ濡れだった。リアの頭から流れている血は、致死量を超えていた。雨によりその血は、地面を赤く染めていく。

「アダム!」

「……お母さん?」

 リアの命をも賭けた必死の叫びにアダムは泣き叫ぶのを止めた。

「アダム、あなたはこれから先、とても大きな使命を課せられる。それは今まで人類が誰も体験したことが無いような、とても大きくて恐ろしいもの。きっと様々な困難にも陥るでしょう。でも約束して」

「やく…そく?」

「どんなことが起きても決して諦めては駄目。どれだけ辛く悲しい困難にあっても、絶対に諦めないで。それをお母さんと約束してほしいの」

「諦めない……こと?」

「そう……出来る?」

「約束……するよ。約束する。絶対に諦めない。だから……お母さん! 死なないでよっ!」

 アダムの約束すると言う言葉を聞き、リアはニッコリと笑う。

「アダム……愛してる。私の世界で一番大切な……子」

 アダムはこの時感じた。アダムの頭を押さえるリアの手が、弱々しくも力強く押さえていたリアの手の力が緩んだことを。そして、幼いながらに理解した。


 それは、"死"だと言う事を――。


「お母……さん?」

 アダムの頭の中では過去の母親との思い出が光速でフラッシュバックした。

「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁああああ!!!」

 アダムの叫び声は雨の音にも勝り、遥か遠くの空に聞こえるのではかという程に大きく木霊した。




――12年後――




「それじゃあ行ってくるよ。おばあちゃん」

 男は玄関で靴を履く。

「忘れ物はないかい?」

「うん、必要な荷物は先に大学の寮に送ってあるしね。年末には帰ってくるよ」

「帰ってきた時には、豪勢な食事を用意してるよ」

「やだな。おばあちゃん、恥ずかしいじゃん。でもありがとう」

 男は立ち上がり玄関のドアを開ける。

「アダム」

「うん?」

 アダムは振り返る。

「きっとリアも喜んでるよ。こんな立派に育ってくれて。本当に宇宙を目指せる立場になったんだから。アダム、男だったらとことんやりなさいね」

「うん、分かってるよ。俺は絶対にどんなことも諦めない。その気持ちさえあれば"夢"は必ず実現できるって信じてるから」

 アダムは玄関より一歩を踏み出した。


 この一歩は人類にとっては小さな一歩だが、アダムにとっては大きな一歩となる。


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