人生最大についていそうな日
あの事故にあってから二週間後、俺は病院のベットの上で目を覚ました。勿論だが笹川はもういない。
返事が聞けず、目の前が真っ暗になったときはさすがに死んだと思ったが、合格条件は好きな人に告白すること。実るか玉砕するかは別問題――と笹川から聞かされた。目の前が暗転して、目覚めたときは前と同じプラットホームに立っていた。目の前に立った笹川にそこで試験合格を言い渡された。
試験が終了し、あの日俺が関わったことは殆んど無かったことか、捻じ曲げられている。あの日、俺は事故で学校を休んでいたことになっている。菜々美宅の火事は事実だが、俺がその場に居合わせて、救出したこと。そして告白したことは揉み消されている。菜々美は駆け付けた消防隊員に助け出されたことになっている。そして、あの事故は試験の前日だったので、俺は一日のタイムラグを置いて重傷を負うことになった。目が覚めたときの予告なしの激痛は耐えがたいもので、年甲斐もなく号泣しそうになった。
なんだか、空しさが残る終わり方である。あれだけ頑張った事実が気泡に帰すとは納得がいかないというか。まぁ、勢いで告白したみたいになったから、退院したら今度はちゃんと告白することにしようと考えている。
噂をするとなんとやら、制服姿の菜々美がやってきた。火事の後は精神が安定しないこともあったが最近はすっかり落ち着いたようだ。
俺が軽く手を挙げると、菜々美は笑顔を返してくれた。相変わらずその笑顔に癒される。
「例の犯人がやっと捕まったみたい」
例の犯人とは菜々美の家を燃やした放火魔のことだ。ようやくと言えばようやくか。
「やっとか、よかったじゃんか」
「それで、あの手紙のことなんだけど……」
あの手紙? 自分に覚えのない話題に曖昧な相槌を打つ。菜々美はなぜかたった今全力疾走をしてきたように、顔が熟れたトマト状態になっている。
「家のごたごたとかもようやく収まってきたし、気持ちも落ち着いて、きたから、その、返事を……しようとお、思い、まして」
菜々美の言葉の歯切れが悪くなり、最後は敬語になっている。
手紙、手紙、手紙。頭をフル回転させて記憶を巡らせるとある一つが引っ掛かった。ま、まさか菜々美の言っている手紙とは俺があの日菜々美の下駄箱に入れたラブレターのことか!! それがわかった途端俺の顔が菜々美そっくりに染まる。
こんな状況下で笹川が最後に言った言葉を思い出す。――近々いいことがあるそうなので期待していてください。
どうやら今日は良いことがあるようだ。
最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。
火事の中での焦燥感とか疾走感がうまく書けませんでした。わかりにくてすみません。
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