表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

『お姉ちゃんにおまかせ♪』 (その4)

【続・○○○姉さんに花束を♡】


『お姉ちゃんにおまかせ♪』

(その4)


4、


ここは、ある建設会社の社長室。

社長室と言っても、2階建ての建物の上階にある小部屋を便宜上「社長室」と呼称しているだけで、今そこの質素な事務机に座って居る「社長」も、30代半ばほどの若い男性だ。その服装もビシッとしたスーツを着用…などでは無く、従業員と同じ量販店で買い揃えた作業着を着込んでいる。


つまり、この地元に住んで居る青年が、数年前に起こしたばかりの若い建設会社でありました。


「社長っ!!大変ですっっ!!

うちの会社が請け負い、先月から現場の開発をスタートさせた、例の『大学施設の建設用地』に持ち込んであった弊社の建設用重機が、昨日の作業休止日のうちに全て破壊されており現場が大混乱していますっ!」


その社長室に、突然ヘルメット着用の男性が飛び込んで来るなり、そんな言葉を捲し立てた。

扉をノックをする事も、社長に入室の申告をする事も、ヘルメットを外す余裕すらも無く慌てている彼も、社長とほぼ同年代であろうか。


「あ、破壊と言いましても爆薬などの使用は一切行わずに、まるで重機を激しく地面上で転がして破損させた様な状態なのです。

何故、あの現場には警備員や監視員を置いて居なかったのですか!

あんな破損状態にする破壊行為を、あれだけ大規模に、しかもわずか昨日一日だけで作業を完遂させるのであれば、かなりの人数とそれなりの機材が必須かと思いますが、しっかりと現場の管理が出来ていればそんなものを準備させる余裕は無かったはずです!」


彼の勢いは止まらない。


「判ったから、少し落ち着きなさい!

君は現場監督だろう? 人を指揮する立場の人間がそんなに取り乱していたら、君の下で、君の指示で動く者たちにも、その動揺が伝わってしまう。

それでは、現場の混乱をさらに酷い状況にしてしまうぞ!

その混乱状態に冷静に対処をして鎮めるのが君の仕事だろう?」


「社長の仰っしゃる事は判りますが、しかし、起きている状況が私の理解度を超えていまして……」


「まずな。その現場の状態ならば俺も朝イチで確認している。

君の言う通りかなりの被害状況で、現場の復旧や重機の修理や交換に必要だと思われる費用を用意する事は、正直、現在の我が社の経済状況では難しいかも知れない」


「そもそもの話し、我が社は被害者なのです! この犯行を行なった人物、或いは何らかの組織や団体かも知れませんが。を特定し捕らえて弁済させるのが、最も速い手段なのではありませんか?

もし、その者に弁済出来るほどの 現金資産が無いのであれば、本人、または全ての関係者の全ての財産を売却してでも……」


「実はね、工事の進行具合を自身の眼で確認するために、俺は昨日もあの現場に行っていたんだ。

そして、あの状況となった瞬間も見てしまっているんだ」


「な、なんですって!?ならば直ぐにでもその犯行を行なった者を捕らえて」「それは無理だな!」


自分の発言に被る様に否定の言葉を社長から受けた彼は押し黙った。


「ひとつ聞いておきたい。君は、あの『土地』の調査・確認を完全に終えてから開発作業に着手したのかね?」


「は?何をいまさら仰言っていられるのですか? もちろん、測量や地質調査など全ての状況を確認し終えております。作成した現地調査書関係の書類も既に提出しております。社長もご覧になっていられるのでは?」


「いや、そう言う事を言っているのでは無い。俺は、その『土地の存在』そのもの。の調査をしたのか?と聞いたのだがな」


「う、そう言われましても…。あぁ、そういえば。あの地域は、かなりの昔には田んぼを中心にした広大な農地であった。そうですが、しかし我々が開発に着手した時点では、永年放置されていた単なる荒れ地でありましたし…」


「どの様な場所であっても、その土地には必ず守護をしている存在が居ると思って良い。

『神様?精霊?妖怪やあやかしの類い?』など、その土地々々の様々な事情を抱えて、何かしらの者が守護者として存在しているのだと、土地の開発や建築に携わる人間には思っていてもらいたい。

そして、その状況に応じた対処を行なった上で、実作業に入って欲しい。


今回の件はね。それが出来ていなかったために起きた事なのだよ」


「一応、現場の複数箇所にて、地鎮祭は実施しておりますが……」


「うむ。しかし、それでは不十分であった様だな。

俺が昨日あの場所で見たモノはね、その「地鎮祭を実施した土地」の地面から現れた『巨大な泥の怪物』と『九本の尻尾を持った白狐』だった。

その怪物が重機を蹴散らし、その白狐が止めようとしていた様だった」


「そんな?! 漫画やアニメではあるまいし、そんな事を信じろと仰っしゃるのですか!」


その時、突然、社長室に現れた人物が二人の会話に割り込んできた。


「それは、信じてもらうしか無いのう」


ぬら爺だ。ただ、彼にしては珍しく柔和な表情では無かった。


「なんですか、あなたは?! 突然どうやってこの部屋まで来れたのですか?!

社長に面会するために来社されたのだとしても、1階の受け付けや途中のフロアに居る多くの従業員達から何の連絡も入って来ていませんよ!」


「いや、良い。この方には、そんなモノは何ひとつ意味の無い事なんだよ」


社長は、ぬら爺の前に立って、(一応)自分の壁になってくれている現場監督氏にそう告げた。

そして「え、それはどういう…」と振り返る彼の前を抜けてぬら爺の前に進んだ。


「ご無沙汰しております。本日ここにいらしたのは、やはり昨日の一件について。ですか?」


「うむ、今回はすまなかったのう。あ奴があんな場所で眠りこけているなぞ全く気付かんかった。

自分が住んでおる土地だと言うのに、本当に不甲斐ない事をしてしもうた」


突然の『謎の来訪者』と親しげに話す社長に動揺しながらも、社長の言う『彼』の説明や二人の会話内容が全く理解出来ない現場監督氏は恐る恐る尋ねた。


「その方は社長のお知り合いだったのですか? しかし、自分には今お二人が話されている内容が良く判らないのですが、それとこの方はいったい何者でいらっしゃるのですか?」


「この方は、表向きは俺が住んでいた大学の学生寮で管理人をされていた『杉田さん』だ。俺の学生時代に大変お世話になった恩人だな。しかし、俺が大学卒業後にも別のカタチでお世話になった方でもある。この会社を、まだ若かった俺が何とか立ち上げられたのも、この方のおチカラあっての事だったんだ」


「…えと、表向きは杉田さん。とは? つまり、どういう方なのです?」


「君は『あやかし』と言う存在を知っているかい? あぁ『妖怪』と言ったほうが判りやすいか。


この方はね「ぬらりひょん」と呼ばれている『あやかし』なんだよ。自分の存在を認識障害させ、さらにあらゆる物事まで欺き、置き換え・書き換えてしまうチカラを持っているお方なのさ。


つまり、学生時代の俺にとっては『管理人の杉田さん』で、その後の俺の窮地の際には、その正体を明かして助力してくださった『あやかしのぬらりひょん様』と言う事になる」


「こらこら『ぬらりひょん様』は止めて欲しいの。

今は、アパート住まいのただの老人で、若い連中からは『ぬら爺』と言う名で呼ばれておる」


「学生時代のノリで突っ込んで良いですか?あなたから見たら大抵の者が『若い連中』でしょうに!

それから、ドコが『アパート住まいのただの老人』なんですか!」


「ほっほお。学生時代同様のキツイ突っ込み、感謝するぞ♪

おかげで多少気持ちも楽になったわい。

さて、では本題じゃ。まずあの泥の怪物は、ワシの旧い友人で『泥田坊と言う名のあやかし』じゃ。

田んぼや農地を保護しており、時には『土神』等とも呼ばれておる様だの。

しかし、自ら保護していた田んぼが枯れて荒れ地となってしまった後は、地底深く潜ってふて寝しておったみたいじゃな。ワシに妖気を気取られぬほどに、深い眠りについてのう。

そして、自分が保護している土地が、あれ程までに掘り起こされてしまった事で眠りから覚め、怒りのあまり暴走している あ奴 を止めようとしていたのは、やはり旧い友人の『九尾の狐と言う名のあやかし』じゃ。

ちなみに、本来の二人はとても仲の良い間柄でな。しかし、泥田坊はそれすら想い出す事も無く、精神を怒りに支配されていたみたいであったらしい」


「…そうだったのですか。それ程までにお怒りに」


社長は思う。この事態を引き起こした張本人は、現場監督をはじめ作業に関わっている全ての従業員では無く、自分なのだと。

自分の立ち上げた会社に初めて舞い込んだ「通年に渡る大仕事・大事業の依頼」に舞い上がり、細やかな指示や確認等を自分では行わず、ほとんど全てを現場に任せ切りにしていた。

社長の自分は全体的な管理に専念していた方が、従業員の成長にも 繋がる。…と考えていたのだ。


その考え方は、ある意味では正しい。しかし、彼の会社はまだ若い。そこで働く従業員も、多くは経験の浅い若者達だ。

「いや自分だってまだまだ経験値が少ない未熟者じゃないか!」

と彼は今更ながら思い直した。

彼の考えは、彼の会社では『まだ早かった』のだ。


「とりあえず、泥田坊と九尾の狐が関係する『あやかし』絡みの騒動は、その場に居合わせておったワシの知り合いの『若いあやかしの二人』が上手く収めてくれたので、そちらはもう問題ない。

騒動を聞いたあと改めてワシが確認して廻って見たが、あの一帯の土地には今回の様なややこしい存在はもう居らん。安心しなされ」


「ありがとうございました。

それを聞けただけでも、今後の対応を円滑に進める事が出来ます!」


「そう言ってもらうと、ワシも己の不甲斐ない気持ちが多少なりとも和らぐよ、ありがとう。

……さて、大事な会話をしていたと言うのに邪魔をしてしもうた。

ワシは相変わらず『あの学生寮』であった旧い建物で暮らして居るから、また何かしらあれば連絡を寄越しておくれ。ではの」


ぬら爺はそう言うと、今度は『あやかし』らしくフッとその場で姿を消してしまった。


現場監督氏は、今自分の目の前で起きた事全てが信じられず呆然としていたが、さっきまでぬら爺が立っていた場所に何かの箱が置いてある事に気付いた。


もちろん、彼が現れるまでソコにはそんな物は無かった…はず。

まさか爆発したりとかの危険物では無いよなあ? と思いながらも、社長と親密な関係にあり『あやかし』としても助力してくださった方が置いて行った物だ。

何かしら意味のある代物であろうと、机の上にあげてみた。


………何かえらく重い!あの人はどうやってコレを持って来ていたんだ? 少なくとも両手には何も持っていなかったと思う。

社長も興味深くその箱を見つめていた。


「これは確か時代劇とかで良く見る千両箱ってヤツでは無いのか?どれ開けてみるか」


と、社長が手を伸ばそうとするのを監督氏は遮った。

いくら社長と親密な存在が持って来た箱であろうと、何が起きるか判らない箱の蓋を開けるのなら自分がやるべきだと思ったのだ。

で、開けてみたのだけど……。


「社長、コレ本物なんでしょうか? もしコレが全て本物であるなら、然るべき手続きをして対応処理をすればトンデモない金額に化けますよ!今回、我が社が被った被害金額なんか遥かに超えるのでは!?」


その箱の中に入っていたのは、千両箱の名前の通り数百枚の(おそらく純金製の)大判小判だった。ぬら爺が今回の被害への弁済金として置いて行ったのだろう。

昨今、金の価値・価格は高騰している。確かにコレだけあるなら現場監督氏の話し通りになるだろう。


「それにしても、大判小判というのが如何にも『伝説的存在のあやかし』の彼らしいな」と、社長は思った。そして、良くよく考えてみると、別に彼自身が被害の弁済をしなければいけない理由など、何ひとつ無い。


あぁ、本当に彼には学生時代からお世話になりっぱなしだ。

俺はとにかく様々な事で失敗する事が多かった。そして、その度に彼は俺の仕出かした失敗を取り繕い、再起する様に発破をかけてくれた。もちろんそれだって、彼に一切のメリットが無い。


ある時「何故そんなに俺に良くしてくれるのか?」と尋ねた際に彼はその理由として、こう言ってくれた。


「若者は未熟じゃ。だから失敗する事で学び、己を成長させる糧とするのが仕事なのじゃよ。

そして、その若者の失敗を取り繕い立て直させるのがワシら大人の仕事、役目じゃな。

若者が、失敗する事を恐れて何もせぬ様になってしまったなら、その若者の側に立っておる大人は、『大人失格』じゃ。

だからの。もっともっと失敗して良いぞ!その分、成長した大人になっておくれ。そして、その時お前さんの側に立っておる未熟な若者の失敗を、今度はお前さんが取り繕ってやりぁええ。

まぁ、それが理由じゃな」


もう俺は立派な大人……のはずでよね。なのに、また俺の失敗を取り繕ってくださりに、こんな所まで来させてしまった。

恥ずかしい限りです。


(すいません、今回は甘えさせて頂きます。

今の俺に付いてきてくれている従業員達が『立派な大人』になった未来の姿を、永遠の刻を生きる未来の貴方にお見せする事で今回は赦してください。

本当にありがとうございました!)


若い社長は、心優しき『大人』が置いていった小判を見つめながら、心のなかで呟いた。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ