『お姉ちゃんにおまかせ♪』 (その2)
【続・○○○姉さんに花束を♡】
『お姉ちゃんにおまかせ♪』
(その2)
2、
「落ち着けっ!泥田坊っ!私だっ!『ここのつ』だっ!とにかく鎮まるんだっ!!」
ここのつさんが泥田坊さんに向かって絶叫した。…しかし、まるで聴こえていない様に見える。
おそらく、怒りのあまり感情がかき消え、精神が暴走状態なんだ!
このままだと工事現場を荒らしただけでは済まずに、街なかや住宅街までも被害が及ぶ可能性がある。
泥田坊さんは田んぼの(土地の)守護をして米や農作物の豊穣を司る『あやかし』だ。
がしゃどくろの様な凶悪なスキルなどは持っていない。暴走したとしても、単に巨体を活かした剛力を振るうだけだ。
つまり彼の本質は「土」であるワケで、本来ならば「砂」である私とはすこぶる相性の良い間柄なのだけど、しかしもし彼と戦わねばならないとなった場合、最悪の相性だ。
私が「砂や土」を使ったどんな攻撃を仕掛けても、同じ「土」の彼には全く効果が無い。というワケなのです。
いや、そんな事はともかくだ。
私は泥田坊さんとは戦いたくない!
彼は何も悪くない。むしろ逆よね?
人間たちは『あやかし』が何故この世界に存在しているのか?をもっと良く考えてみる事が必要なのよ……。
私たちは、あなたたち人間の『想い』から生まれて来たんだからね!
……と、私が愚痴っても仕方が無いわねぇ。
とにかく今は泥田坊さんの暴走を止めないと!
こうしている間にも、ここのつさんは何回も何回も泥田坊さんの横に付き添いながら呼び掛けているんだけど、彼は全く反応をする事無く足元の重機を蹴散らしながら工事現場の囲いから外に出るルートを進んで行く。
そして、遂に、ここのつさんは呼び掛けをやめて立ち止まった。
「ここのつさん!泥田坊さんが街なかに入る前に私が何とか足止めします!少しムチャですが、私が泥田坊さんに抱きついて身体を「土」に同化させ地下深く引っ張り込みますから、巻き添えにならない様に離れてください!」
私が身体同化の術を発動させる態勢を取るために腕を上げると、ここのつさんは私のその腕を優しく掴んで止めさせた。
「ありがとう。でも、あなたはそんな無謀な事はしないで良いよ。
これは私の友人の仕出かした『やらかし』だ。…私が始末をつけるよ」
そう言うと、ここのつさんは泥田坊さんに向け右腕を突き出して静かに呟いた。
「泥田坊。いや泥爺さん。もう限界だ。これ以上時間をかけると、天狗族の烏天狗どもの討伐隊が来て爺さんを寄ってたかって切り刻んでしまうだろう」
ここのつさんの身体が眩いほどに発光したかと思ったら、その姿を別の存在。全身真っ白で大きな白狐の『伝説的な超あやかし』の姿へと変化させた。お尻からは巨大な九本の尻尾が伸び、ザザッと拡がった。
「え?うそっ?!ここのつさんって『九尾の狐』さんだったんですか!! あゝ、この異様に強い妖気は、そういう事だったのか!!」
もう納得するしか無かった。
まさか、こんな所で伝説の存在と呼ばれている『あやかし』と出逢うとは思いもしなかった……。
「爺さんは私の大切な友人だ。とても大切な友人なんだ。だからね、烏天狗どもに討伐されてしまうくらいなら、私がやるよ。爺さんが苦しむ様な事も無く、一瞬で終わらせるから赦してくれね。
爺さんとのひと時は本当に楽しかったよ。楽しか……った……から」
彼女の伸ばした右腕に膨大なエネルギーが集約して輝き出した。
その時だった。
ここのつさんが私の腕を優しく掴んで術の発動を止めさせたのと同じ様に、彼女の伸ばした右腕を優しく包み込む様にしてエネルギーの集約を止めた人物が居た。
それは、たぬちゃんだった。
「ここのつさん、やめましょう。
大切なご友人なのでしょう?あなたにとって本当に本当にとても大切なご友人なのでしょう?
その様な方に、あなたは何をしようとしてるんですか?
ダメですよ。私がそんな事は許しませんよ!」
たぬちゃんに諭された彼女の顔は。〜『白狐』のきつねの綺麗な顔は、先程から瞳から流れ出ていた雫でグチャグチャな状態になっていた。
「しかし、このままでは……」
「大丈夫です!安心なさってください。
私に。この『化け狸』の『あやかし』の私に任せてください。
あなたの大切なご友人は、私がお救いいたしますからね」
そう言うと、彼女は隠していた『耳』と『もふもふの尻尾』を出現させ、その身体を完全な『あやかし』状態へと変化させた。
そして、とても綺麗な澄んだ声で優しいメロディを奏でながら泥田坊に近づいて行った。
………泥田坊の動きが止まった。
やがて彼女は泥田坊の前で立ち止まり、そして天に向かって右腕を上げ手のひらを太陽にかざした。
「『幻視』……あなたを泡沫の夢のひと時へと誘いましょう。それはあなたの心の中に無限に湧きあがる想いが紡いだ優しい世界。あなたを包み込む憧憬の世界。さぁ、参りましょう……………」
たぬちゃんの語る文言を聴きながら、気付くと泥田坊は金色に輝いた広大に拡がる田んぼの真ん中に立っていた。
金色に輝いているそれは立派に米を実らせた稲、稲、稲。
いつの間にか泥田坊の周りには大勢の人が集まり、やがて賑やかに稲刈りが始まり、やがて豊穣を祝う宴が始まり、やがて大量の供物が置かれ、やがて楽しげな祭りが始まり、太鼓が打ち鳴らされ、乙女たちの土神様に感謝する歌声が響き渡り、そして泥田坊が視線を下に向けると可愛らしい童女がひと抱えほどの稲束を持って見上げていた。
そして彼女が差し出した稲束を受け取る。
そして、たどたどしい口調で彼女は話した。
「土神しゃま、ありがとうごしゃいましゅ。土神しゃまだいしゅき!」
泥田坊は一つだけしかない瞳から涙を流していた。
たくさん、たくさん、涙が流れ出ていた。
やがてその涙は大地に拡がって、全ての稲が刈り取られている田んぼを潤していった。
やがて泥田坊はその潤された田んぼの土の中に静かに姿を消していった。もう、心は安らかだった。
泥田坊は田んぼの中で深い眠りに落ちていった………。
ーーーーーー
『九尾の狐』から人間の姿に戻った ここのつ の足元では『あやかし』泥田坊が大地に横たわり安らかな寝息を立てていた。
ただし、その姿は1つ目の巨人では無く優しげな顔立ちの普通の人間の老人の姿だった。
そう、泥田坊は生まれながらの『あやかし』では無く、若い頃から働き者でたった一人で広大な荒れた田んぼや畑を耕し、豊穣な農作物を作るまでに成長させた人間だったのだ。
しかし、そんな彼が病死した後に田畑を引き継いだ自分の子供が最悪な怠け者で、さっさと田畑を他人に売り渡してしまった事に腹を立て『あやかし』として蘇った姿が、泥田坊であった。
ちなみに、ここのつ は泥田坊がこの人間だった頃からの友人であった。
彼女は、久方ぶりに見る事ができた「人間だった頃の泥田坊」の懐かしい姿を感慨深い優しげな瞳で見つめていた。
自分はこの手で、この友人を失う事をやろうとしていたのだ。
化け狸の彼女が居合わせてくれた事に心から感謝していた。
化け狸の彼女の『大切な友人』が、私の友人を救うためにともにチカラを添えて尽力してくれた事に心から感謝していた。
私はふたりの『あやかし』の友人たちに、あらん限りの想いを込めて感謝していた……。
その化け狸の彼女は今、泥田坊を擬似空間に引っ張り込む余裕が無く、急遽、現実空間で幻視を構築させたために超大量の妖気エネルギーを一気に消費して、ぶっ倒れる寸前までになりながらも何とか彼を救えた事に安堵していた。
途中で彼女の妖気枯渇状態に気づいた 砂かけと ここのつ のふたり が、背後から肩越しに自分たちの妖気エネルギーを分け与えて補充してくれたおかげで最後までやり遂げる事が出来たのだったのだ。
「私はこの友を自らの手で失うところでした。そしてその『業』を、永遠に続く一生の中で背負い続ける事になるところでした。
おふたりに出逢えた事に、心から感謝します。
おふたりに救っていただいた事に、心から感謝します。
…………ありがとうございます。
本当にありがとうございました!
この御恩はいずれ改めて御返しいたします。
そして、それとは別に、私が必要となった際にはどうぞ気兼ね無く呼びつけてください。
何処に居ようと、必ず私は馳せ参じます」
ここのつ さんはそう言いながら深く深く頭を下げたのでした。
「この友人は、彼が深い眠りから覚めぬ前に、彼を必要としている新たな土地へと連れて行きます。
今度こそは、彼に、この地の様な不幸が訪れぬ場所へと連れて行きます」
彼女が眠っている泥田坊さんに手をかざすと、フッと彼の姿が消えていった。
「あぁそうだ。……大変申し訳無く思うのですが、おふたりにお願いしたき事がありまして、宜しければ聞き届けていただけると嬉しいのですが」
「ええ、どうぞ。どの様な事でしょう?私たちで叶えられる事ならば喜んでお引き受けしますとも!」
もちろん、もしそれが『私たちだけ』では叶える事が難しい願い事であったとしても、
『私たちの家族たち』がチカラを合わせれば、必ず叶えられる。
………と私は思うのだった。




