ギフト
八月の終わり。
寮でゼミの課題に追われていた和規に、電話がかかってきた。めずらしく弟の尚規からだった。
「シロがね、死んじゃったの。パパもママも携帯つながらなくて」
「……え」
「もう冷たくて、固いの」
相変わらず、十歳とは思えない淡々とした口調だった。弟が泣いたり笑ったりしているのを和規は見たことがない。
「すぐ帰る。二時間かかるけど待てる?」
「うん」
汗だくになりながら、和規は急いだ。
実家に着くと、尚規は窓際のソファで、もう動かない老猫を抱いていた。そこはシロの定位置だった。
「ぼく寝坊しちゃって……、目が覚めたらパパもママも出勤した後で、シロは冷たかったの」
「もう寿命だよ。おばあちゃん猫なんだし――」
いろいろ言葉をかけてみたが、弟には届かなかったようだ。両親が帰ってきても、和規が庭にシロを埋めても、尚規はずっとソファから動かず、食事もとらなかった。
翌日も、その翌日も。
父は「困ったな」と呟き、母は「お兄ちゃん、なんとかして」と視線をよこした。和規だってずっと尚規の傍にいるわけにはいかないのに。
考えた結果、和規は携帯型のゲームを弟に買い与えてみることにした。島で住人を育てるもので、見た目も名前も自由に決められる。
白い長毛、金色の瞳。『シロ』が住むゲーム機を、そっと尚規の手に握らせた。
「似てるだろ?」
「⋯⋯うん」
ひさしぶりに聞いた弟の声。息をついた和規に、尚規は続けて意外なリクエストまでした。
「あのね、エミちゃんもつくれる?」
「え、お隣の?」
「うん。……夏休みまえに引っ越しちゃったんだ」
そんなに仲良かったっけ、と和規は思ったが、黙って『エミ』の髪型や服を選ぶのを手伝った。その後、ふたりで夕飯を食べた。
和規が寮に戻る日、弟はもと通りの淡々とした口調で、「ありがとう」と言った。
あれから、一年が経った。
和規が帰省すると、リビングのソファで眠る弟の横にあのゲーム機があった。ついたままの画面の島はなんだか賑やかになっていた。
手にとってみると、祖母、両親、先生――。そして、和規までいた。『カズ』は、ちゃんと夏服を着せられて、ひときわ凝った家でくつろいでいる。
――なんだ。俺、好かれてるのか。
感情が外に出ないだけで、ちゃんと内には大事にしているものがあるらしい。
「ナオ、……明日どっか行くか? まだ夏休みだろ」
返事はない。弟はすやすやと眠っている。
そのすぐ傍で、『シロ』がうれしそうに駆け回っていた。
了




