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根なしの味わい  作者: 小鳥遊綜一郎
夢幻の光跡
9/70

9

 モンドは群衆の流れに沿って小道を進み、ひときわ品揃えの豊かな屋台に足を止めた。

 干し肉は小さな束となり藁に包まれて並ぶ。

 藁の隙間からのぞく赤褐色が、乾ききった風合いごと朝の光に揺れ、思わず視線を奪われる。

 束の形や厚みを目で読み取り、旅路に耐えうる質かどうかを判断すると、軽く頷き、店主に必要な分だけ告げて手際よく包んでもらう。


 隣には干魚の山が積まれていた。潮の香りを鼻先に感じながら、光に透ける身の薄さや乾き具合を見比べる。

 日持ちを問えば店主はすぐに答え、モンドは満足げに頷いた。

 その眼差しには、口にする瞬間を思い描く慎重さと、旅で培った舌の記憶が宿る。

 選ばれた干魚は、食卓をささやかに豊かにする予感を帯びていた。


 続いて茶葉の棚の前に立つ。深い緑と淡い黄緑の袋が整然と並び、陰影が静かな調和を見せている。

 モンドは店主に香りを確かめたいと願い出て、承諾を得るとそっと袋を鼻に近づけた。

 葉が擦れる微かな音とともに、清らかな香りが立ちのぼる。

 野営の夜をふと思い浮かべ、静かに息を吐いたあと、一袋を迷いなく選んで差し出す。

 その仕草には安らぎが宿り、険しい眉間もわずかに緩んでいた。


 その少し後ろで、ゼフィは別の屋台に足を止める。

 小鍋や折り畳みの火格子、金属製の柄杓やカップなど、旅先で役立つ調理道具に目をやる。

 手に取れば縁や質感をそっと確かめ、掌で重さを軽く感じ取る。

 眉をわずかに寄せ、しばし考えたあと、不要だと判断すれば静かに棚へ戻す。

 その所作には、荷を軽く保ちつつ旅の利便性を損なわない工夫がにじんでいた。


 カップを手にしたとき、朝の光が銀色を瞬かせた。

 微光が瞳に映り、小さな泉の煌めきを覗き込むように確かめる。

 やがて唇の端に淡い笑みを浮かべ、店主に静かに手渡す。

 そのひとつひとつの動きに、慎重さと柔らかな自信がそっと宿る。


 市場の喧騒に包まれつつも、ゼフィの所作は独特の静やかさをまとい、無駄を避け、必要なものを見極めていく。

 戻した道具でさえ、かすかな余韻を残すかのようだった。


 モンドとゼフィ、それぞれが別々の屋台で品を選ぶ姿には、長旅で培われた経験と性格の差が、静かに滲み出る。

 群衆のざわめきの中、二人だけが異なる呼吸で市場を歩むかのように見えた。

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