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モンドは小径を進みながら、菓子店の窓越しに並ぶ色とりどりの小さな包みをじっと見つめた。
ゼフィはそっとその隣に立ち、柔らかく微笑むように彼を見守っていた。
空気には甘い香りが漂い、風に乗って淡雪のような粉砂糖の香気が鼻をくすぐる。
この町の人々は皆、菓子に対する思い入れが深く、それが生活の一部であるかのように暮らしていた。
モンドはその様子を目にして、手記に書き留めるかのように静かに観察を続ける。
「ここの菓子は、ただ甘いだけじゃねえ。誰かの気持ちをそっと包むためにあるって話よ」
彼は小さく呟いた。
ゼフィは頷き、柔らかい声で答える。
「そうですね。どの菓子も人の心に寄り添うように作られているようです」
店の奥には老練な菓子職人が居て、手元で小さなハート型の砂糖菓子を丁寧に仕上げていた。
その手つきは驚くほど滑らかで、見る者の心に静かな安心感を与える。
モンドはその職人の動作を見ながら、自分の胸の奥にある、長く封じ込めていた思いがほんの少し揺らぐのを感じた。
町の子供たちは、菓子を手にすると無邪気な笑みを浮かべ、その瞬間だけは悩みを忘れているかのようであった。
ゼフィはその光景に目を細め、彼女特有の静かな感情の動きを内に秘めたまま、モンドの肩にそっと触れる。
モンドはふと、自分の手元にある小さな紙袋を見つめ、心の中で何か決意を固めた。
この町の菓子には、単なる甘味以上のものがある。人の気持ちを伝え、癒す力があるのだと。
彼は小さな砂糖菓子の一つを手に取り、包装紙に描かれた文字を読み取る。
そこには、作り手の静かな想いが込められているかのような、美しい言葉が並んでいた。
「贈る人の心を、受け取る人にそっと伝える…それがこの菓子の使命なのかもしれねえな」
モンドは小声で呟く。
ゼフィはその言葉に頷き、さらに奥の棚に目を向けた。
そこには季節の花をかたどった砂糖菓子が並んでおり、どれも光を受けて淡く輝いていた。
「この町の人々にとって、菓子はただの食べ物ではなく、思いを表す手段なのですね」
モンドは紙袋を握りしめ、心の中で小さな笑みを浮かべた。
誰かへの想いを形にすることの力を、目の前で確かめたような気がしたのだ。
二人は店内を歩きながら、菓子職人と短く言葉を交わす。
職人の目は澄んでおり、無言のうちに彼らの思いを受け止めるようであった。
外の通りには、冬の柔らかな光が差し込み、雪の結晶が屋根の上で静かに揺れている。
モンドは思う、町の空気もまた、この菓子の優しい力によって穏やかに満たされているのだと。
ゼフィはそばで彼の思いを察し、そっと手を差し伸べる。
言葉はなくとも、互いの心が通じていることを感じる瞬間であった。
モンドは深く息をつき、再び手記を心の中で整理する。
菓子が人の心に与える影響を、彼は丹念に観察し、記録したくなるのを抑えられなかった。
町の人々の小さな喜びや笑顔、それに混じる微かな悲しみの影は、菓子を通して少しずつ和らいでいくように見えた。
モンドは目を細め、店内の光景を胸に刻む。ゼフィはその横顔を静かに見守り、柔らかく頷く。
「この菓子を使えば、きっと心は通じるのでしょうね」
モンドは力強く頷き、紙袋を握る手に力を込めた。
町の空気は変わらず甘く、しかしどこか心を温める力を帯びていた。
二人の足取りは、ゆっくりと、しかし確実に、菓子と人々の心の繋がりを探る旅路を示していた。
小さな菓子一つひとつが、それぞれの思いを秘め、町の人々の心にそっと触れる。モンドとゼフィはその中で静かに、しかし確実に学びを重ねていった。




