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根なしの味わい  作者: 小鳥遊綜一郎
影を聴く刻
30/70

30

 墓標を撫でる風がざわめき、静馬の影を揺らす。

 その沈黙は、過去の戦の幕を映し出すかのように、月光の下に封じられた夜の記憶を呼び覚ます。


 ――あの夜、村を襲った賊どもとの死闘が始まった。


 村外れの小径には、まだ黒煙は立ち上らずとも、炎の匂いと遠くから響く悲鳴が空気を張り詰めさせていた。

 六人の騎士たちは武具を手に取り、互いに視線を交わす。

 剣を抜き、盾を構え、眉をひそめて呼吸を整える者。

 槍を握りしめ、肩をいからせて背筋を伸ばす者。

 短くも鋭い息を整え、円陣を組むその姿は、まるで闇の中に鋼の花を咲かせるかのようだった。


 一歩、また一歩。

 足音は泥と草を踏む音だけを残し、夜風に消えていく。

 闇の向こうで、低く唸る声が波のように押し寄せ、鋭く響く足音、金属のぶつかる音が小径を震わせる。


 六騎は互いの背中を意識しながら前に踏み出す。

 盾で刃を受け、剣を叩きつけ、槍の穂先で距離を稼ぐ。

 連携は自然で、呼吸で繋がったひとつの生き物のように戦場を押し返す。


 しかし、前に踏み出した一人の膝が狙いすました一撃に捕らえられ、泥に沈む。

 手を差し伸べる者、盾で身をかばう者、叫び声を上げながら前に進む者。

 血と泥が混ざり合う小径で、戦況は刻一刻と変化する。


 狭い路地を押し込まれるたび、仲間の体が弾かれ、倒れる。

 二人目の騎士は胸に深手を負い、静馬の視界の端で崩れ落ちた。

 胸を焦燥と誇り、言いようのない無念が押しつぶす。

 無力感が波のように押し寄せ、心は硬く閉ざされる。


 立ち止まることは許されない。

 静馬は剣を握り直し、盾を押し出し、身を低くして前へ進む。

 押し返すたび泥と血が跳ね、汗と鉄の匂いが夜気に溶ける。


 賊も必死だった。

 鋭い刃を振るい、盾を押し潰そうとし、狭い路地で隙を狙う。

 短い瞬間に飛び交う刃の軌道を読み、静馬は槍の穂先を払い、剣を叩きつけ、蹴りで距離を稼ぐ。

 咄嗟の判断が仲間の命を分ける。

 幾度も倒れ、また立ち上がる仲間たち。

 傷ついた腕や足をかばいながら、体を叩きつけるように前進する六騎の姿は、月光に照らされ揺らめいた。


 戦況は刻一刻と変化する。

 狭い小径で刃を交え、盾を押し返し、互いの力が削り合う。

 賊もあらゆる手を尽くし、前線を突破しようと必死に攻めてくる。

 鋭い叫び、呻き声、刃の衝突音、飛び散る泥と血。

 小径は戦場と化し、呼吸と動作が共鳴して渦となる。


 疲弊の中、静馬の心に救援を呼ぶべきではないかという思いが囁く。

 しかし現実は冷酷だ。

 間に合わぬ。

 ここで立ち止まれば、賊は散り、痕跡すら追えない。


 志半ばで倒れた仲間の姿が脳裏をよぎり、胸が締め付けられる。

 それでも前へ進むしかない。

 己を奮い立たせ、動ける者を率い、剣と盾を連動させる。

 闇の中で血と泥に足を踏み入れ、交錯する刃と蹴りに身を投じる。

 呼吸と動作が共鳴し、騎士達の輪郭は月光の中で銀色に光る。


 狭い小径で力尽きる者もあれば、再び立ち上がり前に進む者もいる。

 膝を砕かれた騎士は泥に沈み、胸を貫かれた騎士は静かに息を引き取る。


 戦いの果て、六人のうち二人が命を落とした。

 静かな悲鳴と、互いの誇りを背負った呼吸だけが村に残る。


 静馬は息を整えつつ、仲間の亡骸を越えて前を睨む。

 まだ動ける者を集め、追討に赴くのだ――村を襲った賊を、この手で逃すわけにはいかない。

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