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昼の光が村を照らし、葦の間から差す光が川面にゆらゆらと反射する。
モンドとゼフィは、散策の末に小道沿いに佇む料理屋の木戸を見つけた。
軒先には小さな木製の看板が揺れ、「川魚料理」と掘られている。
初めて訪れる店に、二人の胸はわずかに高鳴る。
木戸を押して中へ入ると、土間には炭火の香りが柔らかく漂い、温かな空気が体を包んだ。
木の柱や梁には長年の煙と陽光が染み込み、歴史を感じさせる。
奥から顔を覗かせた店主は、淡い笑みを浮かべ、僅かに頭を下げて挨拶した。
「おいでくださいませ、旅のお方。白ひげナマズは……残念ながら本日はご用意できませんが、赤ナマズの料理なら幾つかお出しできます」
店主の声には下手に出る控えめさがあり、しかし品格が伴っていた。
モンドは頷き、ゼフィも軽く頭を下げる。
二人は座敷に腰を落とすと、木の座面が微かに軋む音が響いた。
外の光が障子を通して柔らかく差し込み、昼の空気を優しく染める。
間もなく、赤ナマズの料理が次々と運ばれてきた。
まずは骨煎餅── 細かくほぐした骨を揚げた香ばしい一品。
口に運ぶと、カリッとした歯応えが舌をくすぐり、魚の旨味とわずかな塩気が鼻腔に広がった。
続けて焼き物は、皮が薄く張り付き、箸で割くと中の身がふわりとほぐれる。
炭火の煙がほんのりと香り、赤ナマズの淡い甘みが口中に広がる。
朝の散策で目にした川風の匂いや葦の揺れが、味わいと重なり合うように感覚を満たした。
店主はそっと小さな杯に酒を注ぎ、二人に手渡す。
「どうぞ、料理に合わせてお楽しみください」
と微笑む。
酒は淡く香り、舌にすっと馴染み、赤ナマズの甘みを一層引き立てた。
モンドは目を閉じ、口中に広がる味わいをじっくりと確かめる。
ゼフィは小さな笑みを浮かべながら、慎ましやかに杯を傾ける。
「……赤もここまで旨いのだな」
モンドは心中で呟く。
朝の味と昼の料理、二度にわたって赤ナマズの魅力を味わった今、白ひげナマズの存在は想像の世界で一層輝きを増す。
赤ナマズの味がここまで極まるのなら、白ひげはどれほど感動をもたらすのか—— 唾を飲み込むように、自然と期待が胸を満たす。
店主は再び微笑み、控えめに言葉を添えた。
「もし次に機会があれば、白ひげナマズもぜひ味わっていただきたい。私どもの腕の見せ所でございますゆえ」
その低く柔らかな声に、二人は深く頷く。
昼の光が次第に傾き、木戸の外に影を落とす頃、モンドは手帳をそっと取り出した。
今日は赤ナマズの味わいを中心に、村の暮らし、川沿いの漁師の所作、料理屋の温かい空気── すべてを記録する価値があると感じた。
箸でほぐした赤ナマズの身の感触、香ばしい骨煎餅、酒と合わせた余韻、店主の控えめな所作、昼下がりの光と影。
細かな出来事ひとつひとつを、手記に刻む。
ページをめくりながら、モンドは筆を走らせた。
(赤ナマズの魅力を十二分に堪能した。白ひげナマズはまだ手に入らぬが、この村での料理、そして人々の営みは、手記に書き残す価値に溢れている——)
静かな昼の時間の中、二人の目の前には、赤ナマズの残る余韻と、白ひげナマズへの期待が静かに広がっていた。




