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根なしの味わい  作者: 小鳥遊綜一郎
夢幻の光跡
11/26

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森の外れの平地に、二人はゆっくりと足を踏み入れた。

低木や草地が広がり、そよぐ風に乗って森の匂いが漂う。

遠くで虫が羽音を立て、鳥が静かに鳴く。

街中の喧騒を離れた空間に、緊張と無事に着いた安堵が入り混じる。

木漏れ日に照らされ揺れる草花が、平地の穏やかさをいっそう際立たせていた。


モンドは軽く地面を踏みならし、座る場所や火床の位置を決める。

隣でゼフィは荷物や道具を整理し、携帯食や調理器具を並べた。

準備が整うと、モンドは布や毛皮を木の枝に掛け、雨や露をしのぐ簡易天幕の骨組みを作り始めた。

その手が一段落したところで、手隙になったゼフィが加わり、二人で天幕を完成させる。

薪や火床の位置、風向きも確かめ合い、ひと通りの設営を終えると、場には落ち着きが漂った。


「さて、呼ぶかね」


モンドは契約盟獣――風狗ふうくを呼び出すため、両手を静かに組み替えた。

ひとつ、またひとつと指を折り返すたびに空気が張り詰め、森の囀りさえ遠のいたように感じられる。

最後の印を結ぶと同時に、地を渡る風が逆巻き、淡い光の渦が生まれた。


その渦の中から姿を現したのは、半透明の影――風狗。

毛並みは幽かに青白く輝き、輪郭は風にほどけるかのように定まらない。

耳を鋭く立て、瞳は冷ややかな光を帯び、森の隅々まで見渡す。

足音はないが、大地を確かに踏みしめ、実体を持つのか幻なのか判別できない神秘性を漂わせる。

その体躯は森の影に自然に溶け込み、ただそこにいるだけで周囲の空気を研ぎ澄ませた。


ゼフィは軽く会釈し、風狗は尾をひと振り返した。

腰を落としたモンドがそっと手を伸ばし、風狗の背を撫でる。

微かな抵抗があるものの、手はすぐに体に馴染んだ。


「先触れは任せた、シロ。何かあればすぐ知らせてくれ」


「お願いしますね」


ゼフィが声をかけると、風狗――シロは静かに耳を動かした。


森では、足音ひとつにも注意が必要だ。

音を頼りに生きる動植物は少なく、余計な気配を立てれば察知される。

先頭に立つシロの姿を頼りに、モンドとゼフィは慎重に森へ足を踏み入れた。

モンドは針葉樹の枯葉や小枝、薪に使えそうな枝を拾い集め、落ち葉を踏む音にも気を配る。

隣ではゼフィが慎重に草をかき分け、食べられるものを見極めて手に取った。

柔らかく銀色に光る銀苔草(ぎんたいそう)の葉は、茹でればほのかに甘みが楽しめる。

木に絡みつく細長い蔓、風蔓(かざつる)の小さな実は香り高く、出汁や煮物に向く。

草むらの陰にひっそり生える小型の茸、白露茸(はくろだけ)も見逃さず摘み取った。


手際よく摘み取るゼフィの指先は迷いなく、森の匂いや微かな風の変化に耳を澄ませ、次に何を手に取るかを見極める。

シロが先頭で立ち止まると、ゼフィも自然と手を緩め、モンドは静かにその動きを見守った。


採取を終えると、薪や食材を抱えて二人は平地の野営地へ戻った。

無事に着いた安堵と、森に残る不穏な気配が交錯する空気。

森の出口まで先頭で歩を進めるシロを追いながら、二人は警戒を緩めずに地面を確かめつつ進む。

野営地に戻った瞬間も、シロだけはなお森を見据えていた。


「どうした?」


モンドが声をかけると、風狗は小さくくぅんと鳴き、伏せる。

モンドは首をかしげるが、それ以上は追及せず、ゼフィも素早く準備に取り掛かった

薪を整え、火を起こす段取りへと自然に移行していく。

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