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誰そ彼

作者: 月見里 桜

『誰そ彼』

 沖縄の離島の空港に一人の少年が飛行機の出発を待っていた。

 青い海に囲まれて海の宝石と呼ばれるその離島から本島の大学に進む為に、伊藤涼は、今日、離島を旅立とうしていた。涼は胸に置き、目を瞑り、呟いた。

 「碧、僕等は離れ離れになるけど、心は一緒だ」

 涼と碧は幼馴染で、ソウルメイトと言っていい程深い仲だっだ。互いを深く愛し、肉体的にも、精神的にも深く繋がり、一瞬たりとも離れた事が無いほど深い仲だった。でも、大学進学に際して、涼と碧は一時的に離れる事を決意した。

 二人はよく青い海で遊んだ。碧は海に残り、涼は海洋学者になる夢を叶えるために大学に進学した。

 「碧、君は海と供に生きるんだね。ぼくは十年したら戻って来る。それまで待っていて」

 誰にも届かない愛のメッセージを送る。そっと目を開けて、空を見上げた時、赤く輝く大きな塊が墜ちてくる。

 「何だ?」

 目を細める暇もなかった。発光体は燃え上がり、爆発した。物凄い熱が涼を襲う。空中で爆発したのは大型の隕石だった。地上にぶつかる前に空中で爆発そたのだ。そのまま空港に小さな粒が降り注ぐ。涼はおおきなガラス張りの前にいた。熱に焼かれて体中に火傷を負う。

 ガラスが割れて、雨と化したガラス片が涼の上に降り注ごうとした瞬間。

 (涼!)

 少女の声が響き、ガラスの破片が消し飛ぶ。

 「碧」

 その呟きで涼は意識を失った。

 

 目覚めた時、空にはすっかり西に傾いていた。

 「碧の声がした…何かあったのか?」

 上半身を起こすと空港では誰一人生きている者はいなかった。奇跡的に涼だけが生き残った。

 「碧」

火傷した体を引きずって涼は空港を後にした。


 空港を出て町の中を歩く。酷い火傷で亡くなった死体がそこら中に転がっている。一際目を引いたのは、幼稚園児の小さな女の子の死体だ。服は黒く焦げて、顔半分は焼け焦げている。

 「くそ。碧」

 道の途中で杖にちょうどいい木の枝を拾う。体を支えて、進んで行く。一体何が起こったのだろう。覚えている事は空から大きな光が降ってきて、空中爆発した。

 「もしかいして、原爆か?」

 涼は首を傾げる。どういった理由があったとしてもたくさんの人が死んだ。その一点においては怒りが湧く。もし、碧が死んでいたら…。僕は。

 つぅーと涙が零れるが、周りの熱のせいで蒸発してしまう。

 「して。熱い。水を…」

 「水をくれ…」

 「助けて。瓦礫を退けて」

 あちらこちらで声が上がる。阿鼻叫喚、まるで、地獄だ。そんな叫びを上げる人々を西日が照らす。黄昏時。、誰そ。この世とあの世が混じり合う時間だ。何処から現れたのか、白いフードを被った集団が現れた。フードの集団は叫びを上げる人々の上に馬乗りになる。するとふっと事切れたように動かなくなる。まるで、操り糸で操られていた人形が舞台の上で事切れてように、動かなくなる。

 涼はそれは黒い丸くて艶のある影法師に見えた。

 「この集団は一体?」

 (涼)

 碧の声が聞こえた。

 「急ごう」 

 涼の目には生気が溢れていた。フードの集団も涼のは近寄らなかった。

 コツコツと枝で地面を叩き、ふらつきながら歩いて行く。もし、碧に何かあったら。僕は半身を失う。

 「嫌だ」

 火傷しているのに大きな声が出た。

 「くそ。碧」

 生きていてくれ。涼は火傷した体を引きずって先を急いだ。その磯へと続く道は子供の頃から、碧と一緒に歩いた道だ。何時しか二人は幼馴染から互いを求める比翼連理になった。キスもしない。体も重ねない。ただ、魂が深く混ざり合った関係だ。

 「碧」

 空港から徒歩三十分の距離なのに、磯に辿り着くまで三時間も掛かった。歩いては休み、急ぎ足になっては躓き、転んだ。

磯のすぐ近くに大きくて丸いクレーターがあった。

 「もしかして、隕石が落ちたのか?」

 それより。

 「碧」

 磯は変わり果てていた。岩だらけの磯は岩が砕けて砂になり、海水は蒸発していた。磯だった砂の真ん中に横たわる一人に人物。見間違えるはずがない。碧だ。駆け足で近づく。

 髪はちじれて、皮膚は焼け爛れている。何より、息をしていない。

 『オレンジ色の私』

 ごつごつした磯には豊富な海の生き物がいる。貝に蟹、ヤドカリ、小さな魚。

 黒髪を腰まで垂らした少女、碧がスノーケリングとヒレを持って磯の縁に腰かけていた。碧はどこまでも広がる海の様で、思わず、後退りしてしまうような目をしていた。

 「涼、愛してる」

 涼と碧。二人はまるで同じ日に生れたかのように同調して、何をするのも一緒だった。同じ病院で生まれて、同じ日に話し、同じ日に歩いた。始めは両家の親も仲が良いと思っていたが、成長し、深く、深く、互いを求めるようになり出した時、親達は危険だと思い始めた。

ソウルメイト。占い師に占ってもらうと、涼と碧は魂のレベルで密接に絡まっていると占われた。

 大学進学をきっかけにして、涼を離島から出し、二人に距離を置かせようという事になった。涼は十年は離島を離れる。これで互いに依存する事はないと親達は安心した。でも、そうの裏で二人はもっと激しく互いを求めた。十年したら戻って来る。そしたら、結婚しようと約束した。否、誓い合った。だから、待っていて、碧。その時、碧は海を指さして。

 「常に涼は海と共にある。なら、海の一員である私が傍にいないわけない」

 そう言って、涼の頬を撫でた。それに誓い。将来の。互いに好きとは言わなかった。言葉より、魂のレベルで結びついていた。

 ポチャンと足を海につける。

 その時、空からゴォォと轟音を響かせて、火の玉が墜ちて来る。もう少しで地面にぶつかる瞬間、空中はじけ飛んだ。勢いよく海水が蒸発し、物凄い熱が体を包む。

 「熱い」

 碧は意識を失った。

 どれぐらいの間気を失っていたのだろう。不思議と体が軽くて、ふわふわとした足取りで歩いて行く。肌にかけ何処にも火傷の跡がなく、傷一つなかった。そんな事より。

 「涼は無事かしら?」

 半身が心配でならなかった。両親の事は一瞬、脳裏を掠めだが、首を振り涼の事を考えた。ソウルメイト。両翼の半身。切っても切れない相手。ただひたすら涼を求めた。

 時刻は夕方。オオマガドキ。色々な境目が曖昧になって溶け合う時間。何時の間にか碧は磯に立っていた。海の水は干上がり、魚達の死体が転がっていた。

 「きゃ」

 ぐんと凄い力で町まで引っ張られる。

 「水を。水をくれ」 

 と口々に言っている人々。その時。何処からか黒いフードを被った集団が現れて死体の上に覆いかぶさっていく。すると、体が黒い影法師が抜けて、集団の中に加わっていく。死者の行進だった。碧は大急ぎでその場を去った。一歩、一歩踏み出すと、大きく目の前が歪んだ、次に気づくと何時のまにかまた磯近くの浜辺にいた。海の彼方で、夕日が沈んでいく。空も西の方から闇が近づいてくる。でも、磯はまだ夕方だ。オレンジ色の光が碧の周りを包み、貫いていく。今、私はオレンジ色をしている。

 「涼、最後に一度会いたい」

 涙が流れた。涙は真珠となり、碧の首に輪の形で繋がり、一つのネックレスになる。すると、遠くから。

 「碧」

 と呼ぶ声がする。

 「涼」

 全身火傷し、足を引きずっているが、遠目でも分かる。あれは涼だ。愛しい半身。自分よりも大切な命。碧は急いで涼の元に行き、その体を抱きしめようとしたが、海の彼方で夕日が沈む。それと同時にぐんと真珠のネックレスが引っ張られて、物凄い力で磯にある体に戻される。

 「はっ」

 目覚めて初めに見た者は涼の顔だった。

 「す、涼」

 わぁっと泣き出してしまった。涼は碧を抱き起して頬ずりした。

 「碧、無事かい?」

 涼も所々に火傷を負っている。

 「始めは息をしていなかった。だから、死ぬほど心配した」

 また頬ずりをして意識がある事に安堵していた。

 「一体、何があったの?」

 「恐らく、隕石が堕ちてきて、空中爆発して衝撃波が広がりこの地域全体を焼いてしまったんだ」

 「どうして真下にいた私が助かったの?」

 涼は柔らかく笑い、海を指さす。

 「君の海への愛の恩返しだね。海の水が君を守ったんだよ」

 それが証拠に、碧も火傷していたが、軽く、意識を失っていたのは衝撃波で頭をぶつけたからだ。

 海の愛が二人を助けたのだ。


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