表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/16

食はすべてを解決する?

 「こ、これがカレッジの学食……!!」


 ハンスが目をきらきらさせながら食堂を見渡す。


 入口からすぐのところにはできたてのパンやメインディッシュを調理員から直接受け取れるカウンターがあり、その反対側には副菜やデザートを自分で自由に取ることができる棚が置いてある。


 「ビュッフェっていうんですよねこれ!?」


 わぁ、と興奮しつつトレーを取るハンスと、やれやれといった感じでそのあとに続くアルバ。


 (ビュッフェっていうか……大学の学食にそっくりよね)

 

 ゲーム内でつくりが細かく描写されることがなかった場所であるため今まで知らなかったが、これ、完全に大学生協の食堂そのものである。


 (海外の学校だとビュッフェ形式のところも多いとは聞いたことがあるけど、日本製のゲームの世界だとこうなる……のか?)


 少し呆れつつ、私もトレーをとった。


 とはいえメニューはさすが王侯貴族御用達のカレッジ。この近世ヨーロッパ世界の中ではなかなか健康的かつ栄養豊富な品が揃っている。しかもそこそこ安い。プチパンなど日本円に換算して90円ほどだろうか。やっぱり大学生協じゃないか……


 (特にチキンソテーが恒常メニューっぽいのは好印象ね)


 私はパンとチキンソテー、そしてひよこ豆のサラダを選択し、男子ふたりのもとへ向かった。


 「……ん? どうしたのよふたりとも」


 ハンスが顔面蒼白になってこちらを見つめている。


 「セ、センパイどうしましょう、これ食べ放題じゃないんですって……!!」


 「常識的に考えて当たり前だろうが!」


 アルバが叱責する。


 ハンスのトレーには所狭しと皿が並べられている。しかもトレーはひとつにとどまらず、ふたつ。


 「だ、だって値札が付いてなかったから! てっきり食べ放題かと思うじゃないですか! だからセンパイにおごっていただく機会に腹いっぱい食べようかと思って……」


 「だからと言って賤しいぞ貴様! それに価格を表している札はきちんと棚についているだろう」


 「……あっ」


 アルバが指さす先、副菜が置かれている棚の上のほうには小さく「一律50ルクス」と書かれている。(ちなみにこの世界の通貨はマル、ルクスとなっているが、その価値はおおむねドル、セントと読み替えて問題がないようだ)


 「すみません、オレ、素で舞い上がっちゃってて、ちゃんと見てなくて……戻してきます……」


 「いいわよ、一度とったものを戻すのはよくないしね」


 「でも――――」


 「あなたは食べきれると思って取ったんでしょ? なら何の問題もないわ。たくさん食べて頂戴。それに学食程度のお金、私が払えないわけないでしょ」


 「センパイ……!」


 「さ、それじゃあお会計しに行くわよ!」


 やたら手際のいい会計係の店員の手さばきを見、席を確保しつつ私は考える。


 これ、ハンスルートを原作よりかなり良い感じで進められるんじゃないか!?


 かなり好感度を上げられているような気がする。


 (やはり食……食はすべてを解決する)


 そうなのよ、ハンスは今までまともにご飯を食べられなかったからイライラしていたのだわ! だからここで私が餌付けしておけばある程度彼の態度を軟化させることだってできるはず――――


 「あれ? アルバ先輩、そんなのでいいんですか?」

 

 「私はいつも昼食は黒パンとチキンソテー、ひよこ豆のサラダと決めている」


 「へぇ、やっぱりお貴族様は違うなぁ。食べようと思えば何でも好きなものを食べられるからこそ粗食をって、素晴らしい心掛けですね」


 …………

 やっぱりそう簡単にはいかないですよねー。ひねくれ切ってるわこいつ。


 「あ、でもセンパイも同じメニューなんですか?」


 ハンスの目がこちらに向く。


 「? ライザ様はいつもプチパンとサラダのみ……って、ライザ様、お肉ですか!?」


 「ええ。鶏肉は大事よ。プロテインがない今、食事でかなり理想的に蛋白質を摂取できる食べ物だもの。脂質が少ないのがいいのよね」


 「ま、まさかあの小食のライザ様が……!?」


 「おー! バランス良いうえに美味しそう! さすがセンパイです! 計算しつくされてます!」


 「は!? おい、私もまったく同じメニューなのだが!? なんだその手の平返しは!?」


 「アルバ先輩のメニュー選択は計算じゃないでしょそれ」


 (……順調に攻略できているのかできていないのか、どっちなんだこれは)

 「ふたりとも、食事中は静かにしなさい」


 「はーい」

 「申し訳ありません、ライザ様……」


 「よろしい。ハンスもゆっくり味わって食べるようにね」


 「? はいっ!」


 元気よく答えつつも、結局性急にご飯を口に詰め込みはじめるハンス。

 しかし、最初はこれでいい。栄養バランスも、食べる順番も二の次だ。


 ハンスはまず食べる喜びを味わうところから始めなければいけない。ただ生きるための煩わしい補給ではなく、「食事」という行為に喜びを感じる。それが食育の入口だと思うから。


 (……で、アルバのほうは?)

 

 従者のほうを見ると、なるほど、こちらのほうは昼食については特に問題がなさそうに思える。


 メニュー選択もトレーニーとしては正解。朝食と含めてカロリーも計算上今のところ妥当だし、食べる順番や速さも貴族としてのたしなみが功を奏しているのか私的にはポイントが高い。


 (彼の場合、あとは朝食をとってカタボリックを阻止すればいいという感じかしら? ああでも、夜どうしているかが問題よね)


 「? ライザ様、いかがなされましたか?」


 「ああいえ、なんでもないの」


 「……もしかして食べきれませんか?」


 「えっ」


 ……確かに、正直胃袋のキャパシティ的に割とすぐ限界が来てしまいそうではある。


 (まさか鶏肉を重いと感じる日が来るなんて……)


 普段「ライザ」はプチパンとサラダしか食べないですって? ありえない。華奢な女の子ってみんなそうなの!?

 私も女子だけど学食ではいつもご飯に味噌汁、主菜に副菜2品は食べてたわよ!?


 (……これは、私の食トレも今後課題になってくるわね)


 「センパイ、食べきれないならオレ食べますよ!」


 「貴様は食べすぎだ! それなら私が頂戴する」


 「別にいいわよ!! 私が取ったものは私が食べるから!!」


 私は若干、いやだいぶ無理をしつつ、鶏肉を令嬢らしからぬ表情で食べきった。

私生活がバタバタしていてしばらく更新が不安定になっていました、申し訳ありません……!

これからは毎日更新する所存です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ