虚ろなる死王の試練2
読みやすいように虚ろなる死王の試練を分けます
谷の深部は、まるでこの世の理が届かぬ“死の底”だった。
俺とカイは石碑の前を離れ、辺りを探索していた。濃霧は視界をじわじわと奪い、時間感覚さえ狂わせる。だが、それもまた《NeoEden》が生み出す“現実以上の世界”の一部だ。
「この空間、まるで“生きてる”みたいだな」
「うん。プレイヤーの行動に応じて、空気や霧の濃度が変化してるように感じる。動的環境AI……さすがに手が込んでるね」
会話を交わしながら進むと、ひときわ異質な気配を放つ場所が見えてきた。
そこは小高い丘の上にぽつんと立つ、朽ちた祠だった。
骨で組まれた小塔が周囲に点在し、祠の中心には青白い炎がゆらゆらと燃えている。誰が灯したのか分からぬ炎。それだけで十分、不穏だった。
近づいた瞬間──空気が震えた。
『死者の試練を乗り越えよ』
虚空から響いた声が祠の周囲に結界を展開し、黒い霧が地面を這う。そこから、数体のアンデッドナイトが浮かび上がった。先ほど倒したものより、明らかに重厚で、禍々しい。
「見ろ、あのオーラ……通常種とは比較にならない」
「強化個体か。しかも数体同時に……やれってんだな、上等だ!」
俺は即座に〈身体強化〉と〈熱源消失〉を発動し、気配を断って空中へ跳ぶ。そこからファントムクラッチで一体を引き寄せ、強制的にバランスを崩す。
「今だ――サヴェージ・スティング!」
地を這うような低空からの突進一閃。敵の腹部を貫き、砕けた骨が宙を舞う。
だが、他のアンデッドは即座に包囲に入った。後方のカイが矢を放ち、俺の背後をカバーする。
「いい動きだ、カイ!」
「そっちもね、だが油断しないで。こいつら、何か企んでる」
それは直後に明らかになった。
残った三体のアンデッドが突如、祠の中心に向かって駆け出す。まるで──何かを“捧げる”かのように。
「まずい!あれを阻止しろ!」
俺は〈短距離転移〉で一体の前に出て、剣を振るった。斬撃が骨を砕き、霧を裂く。だが、別の一体が炎に手をかざしかける……!
「間に合えっ!」
再転移。時間ぎりぎりで二体目を阻止。残る一体もカイの矢が心臓部を貫き、崩れ落ちる。
静寂が戻り、青白い炎が一瞬、空高く燃え上がった。
『資格の一部を得た』
システムウィンドウが開き、俺のインベントリに“青白い紋章”が追加された。
《死者の紋章:資格の断片1/3》
「……やっぱり、これが“鍵”ってわけだな」
「あと2つ、同じような試練があるのかもね」
「なら、全部集めて“虚ろなる死王”を起こしてやるさ」
谷の奥は、まだ霧に沈んでいる。
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