虚ろなる死王の試練1
誠に申し訳ございません。掲示板のテンプレートができていないので物語を進めときます。これがひと段落区切りがついたら掲示板にします。
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──シェルファ 宿場──
夜の宿場に足を踏み入れた瞬間、五感が一斉に刺激される。温もりある木造の梁が軋み、琥珀色のランプが柔らかく空間を照らし出す。酒と香辛料、焼き肉と蜜酒の香りが入り混じり、耳には音楽と談笑、そしてグラスが重なる音が心地よく響いていた。
《NeoEden》。ただのゲームとは思えない──いや、これは“もう一つの現実”だ。
「……やっぱ、すげぇな」
俺──シュウユは、改めてこの世界の完成度に感嘆する。感触、重さ、香り、味。何一つ妥協がない。ここでしか味わえない“体験”がある。それが、このゲームを遊ぶ者たちを虜にしてやまない理由の一つだ。
そんな中、目当ての人物を探す。目線を走らせた先、カウンターの片隅に見覚えのある後ろ姿を見つけた。
初心者装備。モノクル。背中には小ぶりな弓。──だが、俺は騙されない。
「よう、カイ。性格のひねくれ具合は相変わらずで何よりだ」
その言葉に、ゆっくりと男が振り返る。皮肉めいた笑みを浮かべたその顔──昔馴染みの“あだ名:カイ”だった。
「久しぶりだね、シュウユ。誉め言葉ありがとう。まずは一つ、言わなければならないことがあるんじゃないかい?」
「……アノ、エト、ヒサシブリデスネ?」
「今、何時だと思う?」
「……ニジュウジデス」
「つまり、言うべき言葉は?」
「オクレテシマイ、スミマセンデシタ」
「よろしい。罰1だね」
「やっぱりかあああああああ!!!」
このやり取り。変わらないな、カイは。
──カイ。昔から一癖も二癖もあるプレイヤーで、見た目とは裏腹に狡猾さと情報収集能力に長けた、いわば“策略家”だ。だが、信頼もできる。表裏が明確で、約束は必ず守る。
「それで、今日の“罠”はなんだ?」
「罠じゃないよ。情報さ。君が食いつくであろう極上のやつを用意してある」
「……ふむ」
カイがテーブルに投影したマップには、シェルファ東の山岳地帯──“死者の谷”が赤くマークされていた。
「通常レベル30以上推奨の危険地帯だ。その奥にね、隠しダンジョンがある。最深部に、《虚ろなる死王》と呼ばれるボスが潜んでいる可能性がある」
「根拠は?」
「アンデッド系レアドロップから得られた“日記の断片”だ。その中に『王は悼む者を待つ』と記されていた。加えて、洞窟入口に立つ石碑には──」
『死者を悼む者のみ、虚ろなる死王に挑む資格を得る』
「……挑む者、じゃなく“悼む者”か。物理的な力じゃなく、行動か感情に関するフラグ条件ってわけか」
「そういうことだ。条件の解明と攻略には、私一人では心許ない。君の戦術と機転があれば、突破の目も見える」
「なるほど……報酬は?」
「第一フィールドに存在する“未公開エリア”の座標。そして、死者の谷にある隠しレベリングスポット。一定条件を満たせば、爆速で経験値が稼げる」
「ほぉ。確かに魅力的だな……よし、乗った」
カイと硬く手を握り交わし、俺は武具とアイテムを整え、シェルファの東──死者の谷へと出発する。
──
風が冷たい。地形は険しく、砂と岩が混じる乾いた地面が足元を滑らせる。昼の陽光さえも霞み、谷の入口は“黒く濁った口”のように大地を開いていた。
「ようこそ、死者の谷へ」
カイの声が、谷に沈んだ空気を切るように響く。
進むごとに霧が濃くなり、視界が狭まっていく。周囲の温度も下がり、吐いた息が白く曇る。
足元には散乱する白骨。壁には朽ちた剣と盾。気がつけば、空気そのものが“死”の匂いを帯びていた。
「おい……」
青白い光が一つ、浮かぶ。霊魂か。だが、こちらに向かってきたわけではない。ふわふわと漂い、しかし距離を詰めすぎると──
ピリッ。
「……呪いか」
「直接攻撃はしない。だが、呪いでステータスが削られる。視覚、聴覚、そしてMP回復速度。気をつけて進め」
「了解」
足を進めるごとに、ガシャリ、ガシャリと金属の音が近づいてきた。
「来たか……!」
霧の中から姿を現したのは、朽ちた鎧を身に纏う“アンデッドナイト”。巨大な剣を肩に担ぎ、蒼く光る目がこちらを捉えている。
「下がれ、カイ。こいつは俺がやる」
「お任せするよ」
その瞬間、俺は駆けた。剣の振り下ろしを〈短距離転移〉で避け、一瞬で背後を取る。距離を保ち、ファントムクラッチで片脚を引き、体勢を崩す。
「――サヴェージ・スティング!」
鋭く、深く。一撃が敵の核を突き抜ける。瘴気が噴き出し、アンデッドはくぐもった呻きをあげて崩れ落ちた。
「やるじゃないか、シュウユ」
「こんなの、まだ序の口だ」
そう言いながら、奥へと進んでいく。だが、そのとき、視界の先に“石碑”が立っているのを見つけた。
近づく。風がざわめく。その文字が、霧の中に浮かび上がるように現れた。
『死者を悼む者のみ、虚ろなる死王に挑む資格を得る』
「……やはり、ここがその扉か」
カイが静かに頷く。
「だが、何も反応がない。おそらく、この石碑を起動させる“条件”がどこかにある」
「つまり、探すしかないってわけだ」
風が、霧を巻き込んで渦を成す。死者の谷は、まだその全貌を見せてはいない
少し長めの戦いを書いていきます。うまくできるかな?
どうか高評価とリアクションをお恵みください上位者の皆様。