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刃を求め、鍛冶屋の試練②

蝙蝠の群れを沈め、シュウユはゆっくりと立ち上がった。


周囲は静まり返り、岩壁に滴る水音が遠く反響している。崩れた天井から差し込む微かな光は、彼の影を地面に長く引き延ばしていた。


「さて……次だな」


鉱山の奥へ進むにつれ、気温が徐々に下がっていく。吐息が白くなり、肌を刺す冷気が装備の隙間から忍び込む。


「……寒い。属性フィールドだな、間違いない」


魔式《熱源消失》を一時的に解除して体温調整しつつ、慎重に歩を進める。洞窟の壁面が凍結していき、やがて足元も滑りやすい氷床へと変わった。


そして、その先に――


開けた空間があった。


それはまるで、地下に隠された氷の大聖堂。天井からは氷柱が無数に垂れ下がり、壁には自然のまま凍った鉱石が青白く光を放っている。そして中央には、蠢く影。


氷晶蜘蛛(クリスタルアラクネ)


体長はシュウユの三倍。脚は鋭い氷の刃で構成され、全身が氷晶に包まれている。胴体の内部では、青白く輝く核が不気味に脈打っていた。


「いかにもボスって見た目……さて、お手並み拝見だ」


シュウユが一歩踏み出した瞬間、蜘蛛が動いた。脚を振り下ろし、氷の衝撃波を発生させる。


「短距離転移!」


その場から即座に姿を消し、横へと抜ける。次の瞬間、彼のいた場所を数本の氷柱が貫いた。


「速い上に範囲が広い……でも、見切れる」


蜘蛛はさらに、冷気を含んだブレスを吐き出す。霧状の攻撃が洞窟全体に広がり、視界と動きを制限してくる。


「なら、こっちも隠れる」


即座に《熱源消失》を発動。自身の熱反応を抑え、魔力の痕跡をも消す。


冷気の中に紛れ込み、視界と気配の両方を遮断した上で、静かに移動。蜘蛛が別方向を向いた瞬間を見計らい――


「ファントムクラッチ!」


魔力の手が前脚を捕らえ、強引に引き倒す。蜘蛛の体勢が崩れた瞬間、シュウユは飛び込んだ。


「疾翔!」


一気に懐へ。足元に滑り込み、胴体下部へ剣を突き立てる。


「サヴェージ・スティング!」


氷晶を砕くような音が響き、蜘蛛が悲鳴のような金属音を上げてのたうち回る。


だが、次の瞬間、胴体が弾けた。


「なっ……!」


そこから生まれたのは、無数の分身体――小型の氷晶蜘蛛たち。それぞれが鋭い爪を振りかざし、群れとなって襲いかかってくる。


「数で押す気か……!」


瞬時に後退しながら、魔式スロットを展開。ゲットした魔式ポイント全部突っ込んで手に入れた魔式だ、さっき、敵の集団が来たら困るから、獲得しといたがまじナイス!!


「今だ、見せてやる――《空間断裂》!」


魔力が空間を裂き、歪みが発生する。その中に、小型の分身体たちが次々と飲み込まれていく。


「一掃完了……残るは本体!」


氷の破片の中を飛び抜け、最後の力で高く跳躍。


「行くぞ――!」


宙から放たれる一撃。《サヴェージ・スティング》の直撃が蜘蛛の核を貫き、粉砕。


音もなく、蜘蛛の巨体が崩れ落ちた。


──


『BOSS撃破:氷晶蜘蛛(クリスタルアラクネ)


獲得報酬:


氷晶の核《氷心》


冷気の鱗


蜘蛛糸の結晶


錆び付いた氷晶の剣


シュウユは崩れた氷の上で息を整え、ゆっくりと立ち上がる。


「……ふぅ。やっぱ、こういう戦いが一番楽しいわ」


戦いの余韻を背中に、彼は出口へと歩き出す。


──シェルファ、町外れの鍛冶屋──


カーン… カーン…


帰還直後、扉を開けると、いつものように金槌の音が耳を打った。だが、今日のそれはどこか違って聞こえた。帰ってきたのだ――新たな戦果と、新たな物語を携えて。


「よぉ、おっちゃん。帰ったぜ」


「……おう?」


背を向けたまま、鍛冶屋は音を止めずに返事をする。だが金槌の動きがぴたりと止まったのは、彼の眼前に戦利品が並べられたときだった。


「ほう、これは……」


氷晶蜘蛛(クリスタルアラクネ)からのドロップ。氷心、冷気の鱗、それに……これ」


錆び付いた氷晶の剣――光を帯びながらも、その刃は使い物にならないほど欠け、柄にはひびが走っていた。


だが、鍛冶屋はそれを見つめながら、まるで人の魂を覗き込むような眼をしていた。


「こいつは……“まだ死んでねえ”な。素材としては上等だ。再鍛すれば、お前の魔力を宿せる器になる」


「頼む。できるだけ、俺に“合う”やつを」


「任せとけ」


鍛冶屋は腕をまくり、炉に新たな火をくべる。炎が音を立てて燃え上がり、赤く染まる鉄床に剣の素材が置かれる。


「……お前、職業は?」


「転移魔式使い。《アルケインテレポティスト》ってやつだ」


「魔式使いにしては、ずいぶん剣を振るうのが上手かったな」


「俺のステ振り、筋力高めなんだ。普通に殴っても強いし、転移で位置を取れば一撃入れるタイミングも作れる」


鍛冶屋はくつくつと笑った。


「なるほどな。魔術と剣、そして“間合い”を支配するのが、お前の戦いか」


「ま、それが楽しいってのが一番の理由だけどな」


カーン! カーン!


その言葉とともに、鍛冶屋の手が火花を散らす。赤熱した金属を叩くごとに、氷晶の破片が剣の芯に吸い込まれていくように融合していった。



────


鍛冶屋は最後の仕上げに、極細の彫刻刀のような器具で柄に紋様を刻んでいた。まるで魔術回路のように緻密な模様が、柄から刃へと流れるように描かれていく。


「……できた」


彼は剣を持ち上げる。氷のように透き通った刀身が、光を吸い、青白い輝きを放つ。


「《氷晶の片手剣・フロストリーパー》――STR補正+80、氷属性、そして魔力蓄積機能付き。転移魔式使いの動作と魔力パルスに合わせて、攻撃時に余剰MPを蓄え、蓄積が一定量を超えると自動で魔式強化が発動する」


「マジかよ、これ。ぶっ壊れじゃねぇか……!え、大丈夫か。Banされないよな?」


「これはお前にしか使えし、使えるかどうかはお前次第さ。魔式と体術の両方を、感覚で繋げられる奴にしかな」


シュウユは剣を手に取る。冷たさはなく、代わりに、ぴたりと手に吸い付くような感触がした。


「……完璧だ。これ、俺のために生まれたみたいだ」


「お前が戦って、持って帰ってきた素材だ。俺が叩いて、お前に合わせて削り出した剣だ。当たり前だろう?」


「……おっちゃん、これ幾らだ?」


「初回だからな。今回は10,000Kでいい」


「いいんすか!?ありがとうございます!」


支払いを済ませ、シュウユは剣を腰に装備する。剣を差した途端、全身の魔力の流れが変わったのを感じた。


「よし、じゃあ――」


陽が傾き始めた町を背に、彼は再び歩き出す。


「そろそろ、あいつのところに行くか」


背に新たな剣、胸に確かな手応え。

どうか高評価とリアクションをお恵みください上位者の皆様。

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