刃を求め、鍛冶屋の試練①
暇つぶし?を3部構成に直しました。
クエストを受領し、シュウユは町の北端へと足を向けた。
町の喧騒が徐々に背後へと遠ざかり、草木のざわめきが風に紛れて耳に届くようになる。道はやがて、岩肌の見えるなだらかな丘陵へと続いていた。
「……鉱山ってだけあって、資源の匂いがプンプンするな。これ、採掘クエストに繋がりそうだな」
彼の視線はフィールドそのものに注がれていた。壁の岩質、光の反射、気温の微妙な変化――すべてが“ただの背景”ではなく、攻略のヒントになり得る。
入り口に立つと、そこは思いのほか開けた構造になっていた。崖に口を開けたような坑道、その奥には仄かに青白い光が漂っている。
「よし、じゃあ――潜るか」
ステータスを確認し、補助スキルの効果時間を確認。万全の準備を整えて、シュウユは坑道へと足を踏み入れた。
「おお、ここなら鉱石掘れるな。LUK(幸運)に結構振っていることだし、このクエストが終わったらツルハシも作って許可もらってレア鉱石狙うか!」
そのとき
「チュィィイィィ!!」
「うわ、来た!小蝙蝠の群れか!」
洞窟の暗がりから突然飛び出してきたのは、十数匹の小さなコウモリ型モンスター。その数はすぐに二十、三十と増えていく。
「……いや多すぎだろ!?しかも、フンに攻撃判定あるってどういうことだよ!?」
しかも、この小蝙蝠たちのフンは、着弾すると滑りやすくなったり視界を曇らせるなど、地味に厄介なデバフを与えてくる。画面上には〈感覚阻害:視覚-15%〉というアイコンまで表示された。
「某虚弱探検家よろしく、視界妨害系は苦手なんだよなー……くっ、でも面白い」
咄嗟に後方へ飛び退き、〈短距離転移〉でコウモリたちの頭上を取る。だが、数が多すぎて捌ききれない。次々と襲いかかる黒い影に、さすがのシュウユも息を詰める。
「これ……一気に潰さないとジリ貧だな」
通路の先を目で追う。数メートル先、天井が低くなり通路が狭まっている。地形的に、群れを誘導して閉所に押し込めば、一網打尽が狙える。
「……よし、作戦変更だ」
まずは数歩先まで後退し、意図的に視界から消える位置へと退避。直後、わざと小石を蹴って音を立てる。
「こっちだ、コウモリ共!」
群れは反応した。視覚よりも聴覚に優れた小蝙蝠たちは、音の方向へ一斉に飛びかかってくる。
「もっと引きつけて……あと少し、あともう一歩……今だ!」
〈身体強化〉を発動し、筋力と跳躍力を増幅。右手の剣を真上に叩き上げながら〈サヴェージ・スティング〉を空へと放つ。
「砕けろッ!!」
洞窟の天井に直撃した一撃は、衝撃とともに脆くなっていた岩盤を粉砕する。石礫と岩の塊がドサドサと群れに降り注ぎ、狭い通路に密集していた小蝙蝠たちを一瞬で押し潰した。
「……ふぅ……」
静寂。
粉塵が舞い、岩の間から光が差し込む。
「ギリギリだったな……でも、こういう地形を利用した処理、ほんっと楽しいな」
シュウユは岩場に腰を下ろし、ポーションを取り出す。薄い琥珀色の液体を一気に喉に流し込み、消耗したMPとSTMの回復を図った。
「さて、まだ先があるはずだ。クエスト情報からして、ボスがいないわけがないしな」
彼の目に宿るのは、焦りではなかった。未知を楽しむ、戦いを愉しむ、光。
奥へと続く暗闇に、シュウユはもう一歩を踏み出した。
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