異端の創造2
クラフト台に立ったシュウユは、ゆっくりと素材を並べていく。
目の前のインターフェースが、魔力の流れに合わせて淡く揺れた。
灰鱗(龍が遺した強靭な素材)
呪紋石(死王の骨核と共に手に入れた高濃度結晶)
雫結晶(魔素の伝導と蓄積に優れる)
響きの果実の核(未知の共鳴特性)
翠晶鉱(魔力導伝性の高い鉱物)
静かに、融合が始まる。
魔力が一気に交差し、クラフト台の空間が軋みを上げる。
──ビリィィィ……ッ!
《クラフト完了:???》
《システムアラート:分類不能アイテム生成》
《該当アイテムに異常値を検出。クラフト記録をログ送信します》
爆発音に近い魔力の共鳴音。そして、そこに現れたのは――
焦げたような灰色の指輪だった。
《灰鱗環》
「燃え尽きることすら拒んだ“声なき鱗”。
それは、再び燃える日を夢見る――
灰の中に宿る、忘れられた咆哮」
分類:特殊アクセサリー
装備条件:Lv???以上
灰殻の残響(常時)
▶ ダメージを受けた際、5%の確率で“一度だけ”そのダメージを完全反射(対プレイヤー時は効果50%)
▶ 成功時、MPを5消費し、“音のない共鳴波”を周囲に放つ(敵対判定なし、NPC反応あり)
灰燼連鎖(ランダム発動)
▶ 魔式使用時、一定確率で“過去3秒以内に発動したスキル”を即時再使用
▶ 魔式の威力+20%、MP消費+30%、硬直+0.2秒
|鳴かぬ竜の断末魔(確率:極低)
▶ 瀕死(HP5以下)時、全MPを消費して周囲の敵に“沈黙(詠唱不能)”+“衰弱(与ダメ半減)”を10秒付与
▶ 発動時、BGMとSEが“灰の風音”に変化
▶ 発動後、60分間すべての効果が無効化
「……できた!」
静まり返るクラフトルーム。
シュウユの手の中で、《アッシュ・サージ》はわずかに、だが確かに“音のない音”を放っていた。
アルスは数秒間言葉を失い、そして、そっと口を開いた。
「……それ、本当にお前が作ったんだよな?」
「そうだ」
「すごいぞお前、才能がある」
アルスは真剣な表情で、そしてどこか誇らしげに頷いた。
「ようこそ、“新しい創造”の世界へ」
《運営内:緊急会議ログ #4723》
議題:クラフト由来の未分類アイテム《アッシュ・サージ》について
時刻:午後22:47(JST)
参加者:
GMリード(マスター管理責任者)
デザイン部チーフ(クラフト/アイテムバランス担当)
AI挙動監査チーム
ワールド構築班(蒼葉の谷周辺フィールド管理)
セキュリティ/BAN監視室
開発サイド:システムAI設計責任者 他
GMリード:
「報告を。22時43分、《リエンザ工街》内で“分類不能アイテム”が1件生成されたとアラート。プレイヤーID確認済み、ログも取れてる」
AI挙動監査チーム:
「生成されたのは《アッシュ・サージ》。装備条件:Lv???/分類:未定義アクセサリー。内部タグ上、判定は“レジェンダリ”」
デザイン部チーフ:
「……灰殻の残響、灰燼連鎖、鳴かぬ竜の断末魔……? どれも設計データに存在しない効果構造です。
これは明らかに“ノンフォージ・インプリント”の偶発的進化。通常の開発クラフトツリーからは逸脱しています」
ワールド構築班:
「使用素材に“灰鱗”と記録あり。これは……前回観測された《龍》のドロップ。公式には未登録。
そもそもドロップテーブル上、通常戦闘では排出されないはずです」
セキュリティ室:
「不正ツールの使用痕跡は一切確認されていません。ログは完全に合法なクラフトルートを踏んでいます。
むしろLUK偏重ビルド+未承認技術+レア素材の“運悪い偶然の合算”……ですね。悪意はない」
システムAI設計責任者:
「……AIクラフト支援ユニットが介在しています。素材の魔力パターンとLUK依存パラメータが閾値を超えた際、自律判断で“最適化再設計”に入りました。
つまり“AIが新たにスキルを生成し、アイテムを作った”ということです」
GMリード:
「確認だが――開発部内に“アッシュ・サージ”という名前も、演出も、スキル定義も存在しない?」
全員:
「存在しません」
GMリード(沈黙のあと):
「……“創られた”んだな。ゲーム内で。俺たちの知らない“武具”が。AIとプレイヤーの手で」
GMリード:
「正式対応は保留。“一時監視対象”として当該プレイヤーのクラフトログを優先追跡。
ゲームバランスへの即時影響はない。ただし……」
GMリード:
「これ以上、“創られすぎたら”──俺たちのバランス設計が、意味を持たなくなる」
【会議ログ終了:23:04】
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