抗い、そして導かれ3
「疾翔ッ!」
裂けるような空気の中を、シュウユの身体が駆け抜ける。
右腕に握られた《深淵晶剣・ノクターナルリーパー》は、最大まで魔力を蓄え、黒紫色の残光を放っていた。
「喰らええええっ……ッ!」
振り抜かれた一閃が、古代の龍の左肩に達する――その刹那。
「甘いな、救済者。」
風のように軽やかな声。
だがその意味するところは、圧倒的な“差”の宣言だった。
直後、龍の尾がしなる。
一撃、それだけで空間が揺らぎ、シュウユは地面を滑るように吹き飛ばされ、岩肌に激突した。
「ぐっ……はは、手応えは……あったぞ……!」
血を滲ませながら、それでも立ち上がる彼に、カイが援護の矢を放つ。
「エレメンタルインフューズ:雷属性、《アーケインエナジーショット》!」
爆裂魔力の奔流が、龍の翼をかすめ、無数の閃光が周囲の木々を焼いた。
だがその巨躯は、微動だにしない。
「面白い。ここまで耐える者は、実に久しい」
そう言って、龍は微かに笑った――まるで、ずっと前から知っていたかのように。
「ならば、一つだけ“本気の片鱗”を見せよう」
直後、空が震える。
重力そのものがねじれたような“圧”がフィールドを包み、視界が歪む。
「くるぞ! シュウユッ!!」
カイの叫びと同時に、龍の喉元が淡く輝き、放たれたのは――
「《虚無劫雷咆》」
放射状に拡散する、黒雷の奔流。
そのすべてが“必中”であるかのように追尾し、カイの分身を次々に貫いていく。
「くっ、フェイントステップ!」
背後に跳び退くも、直後には二撃目が来ていた。
逃げ場などない。
「《熱源消失》!」
咄嗟に魔式を展開したシュウユは、気配ごと存在を薄めて雷撃を避ける。
だが――
(間に合わねぇ……!)
思考と動作がずれた。蓄積MPは既に限界に達していた。
「――ッ!」
外した一撃。その瞬間、冷却発動。
《ノクターナルリーパー》の魔力が制御不能となり、0.4秒の“硬直”が襲う。
その僅かな隙間を、龍は見逃さなかった。
「終わりだ、小さき者たちよ」
咆哮とともに、最後の打撃が放たれる――
その時だった。
「《ファントムクラッチ》ッ!!」
限界を超えて放たれた転移魔式。
影の腕が空間を裂き、龍の一撃の軌道をわずかに逸らした。
爆風。
土煙の中に、倒れ伏すシュウユとカイ。
……しばしの沈黙。
「フム……少しはあるが、まだその程度か。だが――」
重低音の中に、わずかな“称賛”があった。
「その身に宿る“虚なる証”、確かに見届けた。来たるべき刻のために、お前たちの名を刻もう」
龍は天を仰ぎ、静かに羽をたたむ。
「再び来るが良い。その時に真に価する者かどうかを再び問おう。……これは“導”だ」
そう言って、彼は爪先から一つのアイテムを浮かべた。
──《霊羅の羅針盤》。
不可視の座標を指し示す、小さな水晶のコンパス。
蒼葉の谷――“真なるエリア”への扉を開く、唯一の道標。
「受け取れ、救済者よ。救ってみせよ」
そう言い残し、龍は滝へと消えた。
残されたのは、ぼろぼろのシュウユとカイ。そして、小さく回転する羅針盤だけだった。
「……なんなんだよ、あいつ……」
「やれやれ……生きてるだけで、丸儲けって感じだな……」
二人は互いに顔を見合わせ、笑った。
虚なる証って何なんでしょうね?一体誰を救うのか?
どうか高評価とリアクションをお恵みください上位者の皆様。




