抗い、そして導かれ2
「上等! やってやろうじゃねえか!」
シュウユの声が谷間に響き渡ると同時に、空気が一変する。
濃密な魔力が、彼の周囲に圧として顕れる。地を蹴った瞬間、音もなく短距離転移――そして、
「《ファントムクラッチ》!」
分身を伴った高速の接近と同時に、龍の前脚に影の爪が食らいつく。
しかし、それはまるで「軽く歩を引いただけ」で霧散された。
「カイ!」
「わかってる――《バインディングショット》!」
矢が地面に突き刺さると、龍の巨体を囲むように魔法陣が浮かび、地面から鎖のような“光”が伸びる。
数瞬、龍の動きが止まる。
「今だ! 《サヴェージ・スティング》!」
黒く煌く剣――《深淵晶剣・ノクターナルリーパー》が、龍の左肩に打ち込まれる。
魔力蓄積量は限界。だが――
シュウユの刃は、その分厚い鱗の一部をかすめただけ。
「くっ……!」
命中していれば、爆発的な魔式強化が起きていた。
が、外したことで《冷却状態》が発動――
0.4秒、魔式の入力も移動もできない。
「シュウユ!」
すぐさま、カイが《フェイントステップ》で前に出る。
幻影を残し、矢が次々と放たれる。
「《エレメンタルインフューズ》――雷ッ!」
紫電を帯びた矢が放たれ、龍の片目をかすめた。
「──ッ!」
初めて、龍の顔がわずかに歪んだ。
「……面白いな」
その言葉と同時に、龍の体から漆黒の“霧”が吹き出す。
見る間に、それは「龍の影」と化して動き出し、シュウユたちに殺到する。
「影が実体化……?!」
「カイ、対応を分担する! こっちは《偽蛇王転位陣》で迎撃する!」
「了解! 左側の3体は私が!」
分身で敵の視線を攪乱しながら、遠距離からヘッドショットを放つカイ。
シュウユは、わずかに浮上しながら空中を移動し、周囲に転移魔式陣を連続展開。
「《転位封陣――偽蛇王、開陣》!」
足元から伸びた紋章から蛇出て、影の龍を一瞬で包み込む。爆裂とともに影が弾け飛び、複数体が無力化される。
しかし――
「まだ来るのか……っ!」
影は次々と分裂し、まるでの亡霊のように蠢く。
「シュウユ、上!」
振り仰いだ彼の頭上――
そこには、龍が巨大な尾を振り上げた姿。
「ちょっ……待て!?」
その一撃が落ちた瞬間、谷の地形ごと揺らぎ、石が砕け、土煙が舞い上がる。
ただの一撃。それだけでフィールド全体が凹んだ。
「本気、じゃないんだよな……?」
息を呑む二人。
しかし、龍はただ、興味深そうに彼らを見下ろしていた。
「まだ倒れぬか。では、もうひと手間……加えてみるか」
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