影潜む蒼葉の谷
緩やかな風が、蒼葉の谷の木々を揺らす。空は青く、差し込む陽光に照らされた草木の隙間から、色とりどりの素材が顔を覗かせていた。
魔法素材として重宝される《星苔の結晶胞子》、金属のような光沢を持つ《蒼晶鉱》、そして、ごく稀にしか現れない《夢幻鋼の芽石》――どれも貴重な品だ。
「だいぶ集まったな。そろそろ帰ってクラフトに回してもいい頃かも……」
そう呟いたシュウユの隣で、カイの分身体たちが枝の上や岩陰で警戒を怠らずに立っていた。幻覚と並列制御による広域視界スキャン。
「カイ、今のところ異常は?」
「ん……ああ、まわりにはプレイヤー・モンスターの痕跡は――」
──ズッ。
一瞬、風の向きが変わった。
カイの言葉が止まり、残像が一体、煙のようにかき消えた。
「後ろだ、シュウユ!」
咄嗟に反応するより早く、背後の草陰から鋭い斬撃が走る。
だが、体を横にずらすことで、肩を掠めただけで済んだ。
「チッ、回避されたか。反応早いな」
現れたのはフードを深くかぶった二人組のプレイヤー。
どうやら、このエリアで“狩り”をしている連中らしい。
「カモだと思われてんの俺ら」
「まぁまぁ。素材集めに来てる奴を襲えば、アイテムも潤うからね(昔私もよくやっていた)」
「ん?なんか言っt」
会話が終わる前に、敵の一人がスキルを発動した。
「《フェイタルチャージ》!」
突撃型の体当たりスキル。シュウユはすぐにステップでかわす。
「話させろよ、《バインディングショット》!」
横合いからカイの矢が唸る。一本、二本と地面を貫き、PKの片方の足元を固定。だが、
「《スモークヴェイル》!」
即座に敵が撒いた煙幕スキルにより、視界が遮られる。
幻覚による視界操作とバインド支援の組み合わせではあったが、この敵も一筋縄ではいかない。
──ならば、と。
「《アーケインエナジーショット》!」
爆裂する魔力矢が、煙幕の中心を貫き、爆音と共に敵を吹き飛ばす。その直後、もう一人が距離を詰めてくる。
「避けられるか? 《影穿ち》!」
黒いナイフの連撃。目が慣れる暇もなく、連撃が襲い掛かる。
「――舐めるなよ」
《深淵晶剣・ノクターナルリーパー》が、魔力の輝きを帯びる。蓄積はすでに限界を超えていた。
攻撃を“外せば”冷却硬直が来る。しかし――命中すれば、その刹那に膨れ上がった魔力が爆発する。
「喰らえ、《ノクターナル・ブレイク》!」
黒い剣閃が走る。一閃でPKプレイヤーのHPが半分以上を削られ、同時に追加効果――“魔力震”が敵を怯ませた。
「くっ……!」
「……撤退するぞ!」
残った片方が叫び、影の中に姿を滑らせる。《シャドウリープ》だ。すぐに追おうとするも、カイが制止する。
「追わなくていい。時間の無駄だ」
シュウユは剣を下ろし、ため息をついた。
「……確かにな」
「まだ奥があるみたいだから行こうか」
辺りは再び静寂に包まれる。だが、どこか冷たい風が通り抜けていった。
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