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虚ろなる死王の試練9

5/11に修正

死王の胸部に埋め込まれていた黒い結晶が、俺の剣によって真っ二つに砕け散った。すると、それまでホールを支配していた黒い霧が一斉に引き潮のように引いていく。空気が急に軽くなったように感じた。


床を覆っていた魔の気配も消え、周囲に漂っていたデスレギオンたちも、まるで魂を解放されたかのように淡い光となって散っていく。


死王はゆっくりと、その巨体を揺らして玉座に倒れ込んだ。崩れ落ちるというより、重力に引き寄せられるように腰を下ろし、かすかに喘ぐような音を立てていた。


「ふぅ……終わったか」


俺は剣の切っ先を地面に突き立て、深く息を吐いた。


「これでさすがに終わり、だろうね」


カイも自身の分身体を解除し、弓を肩に担ぎ直して俺の隣へと歩み寄ってくる。その目は警戒心を残しつつも、どこか安堵を滲ませていた。


だが──その安堵はすぐに打ち砕かれる。


「――異者よ……よくぞ、この試練を乗り越えた」


死王の低く響く声。だが、そこには敵意も呪いもない。ただ静かに、何かを伝えようとする意思が込められていた。


「……これも試練だと?」


死王は玉座に体を預けたまま、重く、遅く、言葉を紡ぎ出す。


「私は……この地に足を踏み入れし異者たちを選別する存在。この“谷”を守り、次なる者に道を示す者である」


「お前が……真なる王、ではないのか?」


カイが眉をひそめながら声をかける。


「否……私は、扉の前に座する影……“門番”に過ぎぬ。真なる王は、この奥に存在する都市にて眠っている」


都市。俺は思わず目を細め、玉座の背後へと視線を向けた。その先に何があるのか、今はまだ霧の中だ。


「この戦いは、あくまで通過儀礼だったというのか?」


「……その通りだ。この地を踏み越える資格を持つか否かを見極める。それが我が存在の役目。お前たちは、その試練を超えた」


死王の言葉に呼応するように、玉座の背後の壁が音を立ててゆっくりと開き始めた。隠されていた巨大な石の扉が現れ、そこから冷たい風が吹き込んでくる。まるで、次なる領域が“呼んでいる”かのように。


「この扉の奥に、真なる王が待つ……だが、今のままでは対峙する術はない。お前たちは……まだ力が足りぬ」


その言葉に、カイが小さく息を呑む。


「まだ戦えない……ってことか」


「真なる王は“始まりの王”にして“終わりの災厄”。王の城塞に足を踏み入れるには、さらに深い知識と強さ、そして……選択の覚悟が必要となる」


俺は剣を肩に担ぎ直し、扉の奥を見つめた。黒く深い、未知の道。だが、その先に待つものを拒むつもりはない。


「なら、鍛えるまでだ。力が足りないのなら、力をつければいい。絶対に倒す」


カイも不敵に笑い、頷く。


「ここが終わりじゃないってことが分かっただけで、俺は満足だよ。先があるなら、進むだけさ」


死王はわずかに顔を上げ、朽ちかけた腕を持ち上げた。すると、俺たちの手元に淡く輝くアイテムが出現する。


《虚ろなる証》──この地の試練を超えし者に与えられる、特殊な認証アイテム。


「この証を持つ者のみが、“王の封印”を解くことができる……お前たちは、その鍵を得た」


その瞬間、空気の色が変わったような錯覚を覚えた。まるで、物語が静かに幕を変えたように。


死王は、最後にひとつだけ言葉を残す。


「奥に眠る王は……力を与える。だが、それは祝福か、災厄か……それを決めるのは、お前たち自身だ」


そして、その身体は、霧のように静かに崩れていった。


死王が霧と共に消えた後も、俺たちはしばらくその場を動けなかった。静まり返ったホールには、先ほどまでの激戦の名残がかすかに漂っている。砕け散った結晶の破片、黒い痕跡、そして……静寂。


俺はゆっくりと剣を鞘に納め、目を閉じた。そして、深く息を吸う。


「……行こう、カイ。今は準備を整える時だ」


「うん。あの扉の先へ行くには、まだ足りない。だから、やるべきことをやろう」


俺たちは踵を返し、ホールを後にした。光の差し込む出入口を抜けて外に出た瞬間、死者の谷の景色がほんの少しだけ変化していた。霧が薄れ、風が柔らかくなっている。


「……死王がいなくなったことで、この地の呪いも少しだけ緩んだのかもな」


「そうかもしれないね」


俺たちはこの変化を感じ取りながら、谷を抜けていく。そして、目指すのは──死者の谷に存在する、隠されたレベリングスポット。


それは、カイがかつて得た情報によってのみ知り得る、特定条件下でのみ開く隠しエリアだった。


「場所は死者の谷の北端、断崖絶壁の向こうにある崩れた神殿跡。昼間には入口が見えないが、夜になると、特定の座標に魔力が集中して扉が開くんだ」


「なるほどな。じゃあ、今は時間を合わせて移動すればいいわけだ」


俺たちは日没の時間を見計らいながら、静かに谷を北へと進む。


途中、残党の霊体や、アンデッドの小集団と遭遇するが、もはや俺たちにとっては脅威ではない。短距離転移で翻弄し、幻影の矢で要を狙い撃ち、テンポよく処理していく。


「シュウユ、君の剣筋……死王との戦いの時より、冴えてる」


「そっちこそ、分身体の扱いが洗練されてきたじゃねえか」


「ふふ、やっぱり戦場で鍛えるのが一番効くね」


「やっと稼げる場所にたどり着いたな」


崩れた神殿跡。そこは石柱が乱立し、中央には封じられていた扉が幽かに青い光を放ちながら浮かび上がっていた。


《隠しエリア“静寂なる骨の回廊”》

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