虚ろなる死王の試練6
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シェルファ 宿場
「決まりだね。それじゃ、出発の準備をしておいてくれ。装備やアイテムはしっかり整えておくんだよ」
「おう、任せとけ」
固い握手を交わし、俺は酒場を後にした。
死者の谷には、どんな敵が待ち構えているのだろうか?隠しボス《虚ろなる死王》との戦いはもちろん、隠れたレベリングスポットにも期待が膨らむ。そんな考えを巡らせながら、俺は通りを歩いていた。
「このゲームではシュウユはなんの職業なんだい?」
「転移魔式使いだ」
その一言に、カイの目が丸くなる。
「転移魔式使い!?あんな不遇職使っているのかい!?」
「え?そんなにやばいのこれ」
「うん。やばいよ。そもそも転移の場所指定が難しすぎる。視線と座標認識がズレると、即座に壁に埋まるリスクもある。加えて、他の武器の補正が低く、攻撃手段が極端に限られる。序盤では、使いこなすどころかレベリングすらままならない」
「まじか!?あー、確かに言われてみたらそうかもしれないわ。まあ俺は直感でいけるし、いざとなったらGS時代で培った予測計算でなんとかしてるからな。あとPSで片手剣を使ってるしな」
「なるほど……確かにね。GSで予測狙撃のシュウユと呼ばれたあの空間認識能力、そして覇道戦域で“流星”とまで称された片手剣の技術。それがあれば、転移魔式の弱点を補えるかも……いや、それどころか、武器として昇華できるかもしれないね」
「だろ?この職業にしてよかったわ。楽しいし。そういうお前は何の職業何?」
「私は虚幻射手を使っているよ。君と同じく、不遇職の一つだ。並列思考を駆使して幻影の矢を射出する。幻影の動作計算と本体の操作を同時に行うから、負荷が桁違いなんだ」
「カイらしいな。GSで“多重射出の人外”とまで恐れられてたしな」
「懐かしいね。あの頃の精度、まだ残ってるか不安だけど、やっぱりこの職業が自分には一番合ってると思ったんだ。ちなみに、並列思考の負荷試験では100点だったよ」
「やっぱりな。最終問題で11人の分身体を操作するって、普通なら脳が焼き切れるレベルだろ」
「うん、でも正直……あと8体はいけたかな」
「お前、バグだよな」
「GS運営からも何回検査されたことか……。でも、そのぶん今の構成は気に入ってる。レベルも67まで上げてあるしね」
「たけーじゃん。なのになんで隠しボス倒さないんだ?」
「死者の谷に限らず、隠しボスってのは基本、推奨レベル+20〜30くらいの強さを持ってる。つまり、あの《虚ろなる死王》はLv60クラスの可能性もある」
「それ詐欺やん」
「でしょ?だから、君が来てくれてちょうどよかった。君の戦術と私の射撃、昔の感覚を取り戻せれば攻略は可能なはずだよ」
「なるほどね、面白くなってきたじゃねえか」
「準備が整ったら集合しよう。今度こそ、あの時の続きをやろうか」
「おう、全力でな」
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死者の谷へ向かう道中
太陽が西に傾き、影が長く伸びていく。死者の谷へと続く道は、乾いた岩と風化した柱が点在する寂しい景観だ。足元には動物の骨が散らばり、風が吹くたびに砂が舞い上がる。
「シュウユ、さっき言ってた隠しボスのことだけど、虚ろなる死王を倒すためには、それなりの戦力が必要だよ」
「そうだな。レベルや装備だけじゃなく、スキルの使い方も鍵になるだろうな」
カイは静かに頷き、腰の弓を調整しながら、落ち着いた声で続ける。
「私たちの強みは、ただのステータスや装備じゃない。知覚、判断、連携……それらをリアルタイムで最適化できる“思考”にある。普通のプレイヤーでは絶対にたどり着けない場所へ行けると信じている」
「俺もそう思う。それがあれば、どんな強敵でも抜け道はある」
「それに、君の《転移魔式》は、間違いなくこのボス戦で輝くはずだ。敵の注意を逸らし、位置を操作し、戦場を支配する。まさに戦術の“軸”だ」
「カイ、お前……褒めすぎだぞ?」
「ふふ、それだけ期待してるってことさ」
ふたりの会話は途切れることなく続き、その言葉はどこか懐かしい安心感を帯びていた。戦友であり、ライバルでもある──その関係が、今、再び戦場に火を灯そうとしていた。
「そういえば、虚ろなる死王ってどんな能力持ってるんだ?」
「死王……その名が示す通り、アンデッド系の頂点に君臨する存在。高度な呪い魔法、範囲即死系の魔式、時間遅延の領域……攻略情報では、ほとんどが即死か混乱状態でやられてる」
「厄介だな……だが、相手が“死”を司る存在なら、“生”の側から突破すりゃいい」
「さすがはシュウユ。死王は絶望そのものだ。でも、君がいるなら希望の刃は届くと思ってる」
俺は剣を見つめ、そして空を仰いだ。赤く染まり始めた夕焼けの空が、どこか決戦の幕を告げるようだった。
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