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虚ろなる死王の試練5

5/10修正しました

死者の谷をさらに奥へと進むと、空気が明らかに変わった。周囲を包む霧はさらに濃く、視界は一歩先も見えないほどに白く沈む。地面には無数の深い裂け目が口を開け、その底から冷たい風が吹き上げてくる。その風には、時折呻き声のようなものが混じっていた。


「雰囲気が……違うな。これまでとは段違いだ」


俺は剣の柄にそっと手を当てながらつぶやく。カイは地図を展開しながら神妙な面持ちで頷いた。


「間違いない。この先に、三つ目の試練がある。……でも、何かがおかしい。妙に“静かすぎる”」


「罠か、それとも……」


警戒を強めながら進むと、やがて霧の向こうに巨大な門が姿を現した。門は重厚な黒鋼で作られており、その表面には死者を象徴する奇妙な紋章が刻まれていた。波打つように鈍く光を放つその紋章は、まるで“鍵”を欲しているようだった。


「これが……三つ目の試練の入り口か」


門の中央には、二つの凹みがあった。それぞれ、これまで集めてきた《死者の紋章》の形にぴたりと一致する。


俺は《資格の断片》をゆっくりと凹みに嵌め込んだ。霧の中で静かに光が瞬き、門が軋むような音を立てて動き出す。


「開いた……いや、まだだ」


扉が開ききる前に、霧が一際濃く渦を巻いた。そして、そこから静かに姿を現したのは──


黒衣の男。


──《死者の使徒》──


全身を闇のローブに包み、手には荘厳な黒杖。顔はフードに隠れ、ただその奥の双眸だけが、死者の静けさと狂気を帯びて光っていた。


「待っていたぞ……資格を得し者よ」


その声は、凍りつくような低音。言葉を重ねるたび、空気が圧されるように重くなる。


「最後の試練に挑む者よ。お前の覚悟、ここで示せ。死者の意志に応えるに、相応しき力と魂を持っているか……我が問いに、刃で答えてみせよ」


「問答無用か……望むところだ」


使徒が杖を掲げる。次の瞬間、地面に複雑な魔法陣が広がり、そこから無数の霊体が湧き上がった。白く曇った眼を持ち、朽ちた武具を装備した亡霊たちが列を成してこちらへと迫ってくる。


「召喚か……数で押してくる気か」


「でも……数じゃ止められないよ、僕らは」


カイがそう言って微笑み、次の瞬間には矢を番えていた。


「行くぞ、カイ!」


「了解!」


戦いが始まった。霊体たちの一部は半霊体で、物理攻撃が通りづらい。だが、俺の〈超感覚〉がその隙間を見つけ、〈ファントムクラッチ〉で引き寄せては斬り裂く。カイの矢は、まるで呼吸のように俺の動きと同期して後方をカバーする。


しかし、霊体たちは終わりが見えなかった。倒しても倒しても、死者の使徒が再び召喚し、補充される。


「くっ……キリがない……!」


「シュウユ! 使徒本体を叩かないと、このループは止まらない!」


「分かってる!」


俺は転移魔式を使って使徒の背後に回り込む。剣を振り下ろすが、彼は即座に反応し、杖から広範囲の闇の波動を放ってくる。


「ぐっ……広い!」


一撃を受けて吹き飛ばされながらも、俺は態勢を立て直し、霧の中から再度接近を試みる。だが、死者の使徒は次の魔法を詠唱していた。


「集え……虚ろなる魂よ……」


召喚された亡霊たちが使徒の身体に吸い込まれていく。その体が一時的に光に包まれ、再生していく。


「再生能力まであるのかよ……!」


が、俺は見逃さなかった。使徒が霊体を吸収する、その瞬間だけ──胸部の防御が、わずかに緩む。


「カイ! あいつ、回復中が隙だ!」


「了解!」


俺は再び転移魔式を使って前へと出る。同時にカイが矢を放つ。それが使徒の胸を貫き──俺の剣が、その矢の傷をさらに深く抉った。


「終わらせる!!」


剣が死者の使徒の心核を貫き、光が爆ぜる。死者の使徒は呻き声を上げ、崩れ落ちていった。


──静寂。


霧が晴れ、地面に最後の紋章が浮かび上がる。


《死者の紋章:完全なる資格》


「……これで、全てだな」


三つ目の紋章を手にした俺は、霧が晴れて現れた門に向かい、ゆっくりと凹みにそれを嵌め込む。


門は、音もなく、だが確実に──静かに、確かに開いた。


その奥に広がっていたのは、まるで古代の神殿のような空間。


空間の中心には、玉座に座る影。


「……あれが、虚ろなる死王」


カイがぽつりと呟いた。


「ここから先は、正真正銘の“本番”だ。いくよ、シュウユ」


「もちろんだ。俺たちの全てを賭けて、叩き潰す」


俺たちは、門の奥へと足を踏み入れた。


その先に待つのは、死者の王。


死者の谷の最終決戦が、今、幕を開けようとしていた。

どうか高評価とリアクションをお恵みください上位者の皆様。

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