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私の友達が聖女を辞めた話だ

 私の友達が聖女を辞めた話をしよう。私の友達、仮に聖子ちゃんとしようか。聖子ちゃんは聖女だった。聖女というのは私の国の浄化を担う聖なる乙女のこと。我が国、定期的に瘴気が湧き出る過酷な土地でね。聖女が神殿で祈ってないと民がバタバタ倒れる。瘴気さえなけりゃいい国なんだが、瘴気が出るから人が住みにくい、もとい、人が住めない土地となっている。国の一大事、瘴気を抑えるには聖女の祈り、ただ一つだけだった。何とまあ、聖女頼りの国だったんでしょう。それにしても、祈る時がまあキツいの。だって、瘴気をこの身に受けてから浄化するわけだからさぁ。わかるかい?瘴気って痛いんだ。針を刺すような痛みが全身を駆け巡ったり、どてっ腹に穴を開けられて傷口をいじくり回されたり、バリエーションが豊かで、苦しい……らしいよ。それでも、彼女は祈り続けた。国のためだ。民のためだ。それが自分の役目と信じたからだ。

 だが、ある時、彼女は聖女の役目を捨てた。聖子ちゃんは聖女として国に尽くしてたけど、もう嫌になる出来事があったんだ。

 聖子ちゃんには婚約者がいた。この国の王太子だ。白馬が似合う金髪に澄んだ青い瞳っていう聖子ちゃんが絵に描いたような王子様だった。聖子ちゃんも夢見る乙女の部分があったんだ。王子様は聖子ちゃんが神殿で祈り終わると迎えに行って、大変だったねと心底心配そうな顔をしてくれた。そして、今日あったことを話してくれた。それが日々の日課だった。聖子ちゃんは王子様のことが好きだったし、王子様が彼女を好きだよと笑う優しさを信じていた。国のためにお互い支え合いながら生きていけると信じていた。

 でも、裏切られた。手酷い裏切りだった。結婚間近に王子様から婚約を破棄された。他に好きな子がいると聖子ちゃんを好きと言った口でぬかしたんだ。しかも、王子様は神殿の子と浮気をしていた。仮にその子を浮子ちゃんとしましょうか。王子様は浮子ちゃんの肩を優しく抱いて、聖子ちゃんを激しく責め立てた。お前は聖女としての役目を放棄し、浮子ちゃんをいじめている、瘴気なんてお前がただ祈るだけで消えるわけがないと。王子様は婚約破棄だけでなく、聖子ちゃんから聖女という称号を剥奪し、この国からの追放を求めていた。聖子ちゃんはね、そうか、解ったって思ったんだ。聖女なんて地位は願い下げ。王太子の妃なんて安い地位も願い下げ。聖子ちゃんは静かに怒っていたんだと思う。自分を見下されて、プライドが許さなかった。何より、聖女という役目を軽んじられて、先人に申し訳なかった。

 聖子ちゃんは王子様に濡れ衣を着せられたその場で自分の身の潔白を証明した。その時間は祈りを捧げていた、それは瘴気が変わらず抑えられている事実が証明している、瘴気だけではなく神殿の人間も知っていることでしょうと。その他にも、浮子ちゃんのことなんて知らないから陰口なんて流しっこない、そもそも、浮子ちゃんは随分前から王子様とイイ仲だったみたいですねなんて訴えかけたりしてね。結局、王子様以外の人は聖子ちゃんの潔白を信じたけど、王子様は聖子ちゃんのことを諸悪の根源みたいな目で見続けた。いつから彼は彼女のことを嫌っていたのだろうか。あんなに優しく笑いかけた時も嫌いだったのだろうか。なんて、聖子ちゃんはちょっと人間不信に陥った。

 まあ、そんなことは置いといて、身の潔白を証明しても、聖子ちゃんは聖女の地位を浮子ちゃんに譲ると宣言した。理由は一度王子に聖女としての役目を疑われてはもう聖女としてやっていけないってしおらしい理由。嘘とも本気とも言えないね。一番の本音はもう聖女なんてやりたくなかったに尽きる。なに?聖女ってそう簡単に譲れるものなのかって?実は聖女って生まれ持った能力じゃない。聖女は一人しかできないけど、魔力があれば誰でもできるんだわ。前任者の指名を後任者が了承すればいいだけ。誰を指名するかは前任者が聖女になってほしいと思う人だけど、聖女になる用件は魔力があること、前任者から力を譲渡されることしかない。聖女はえらく神聖視されているが、それはみんな嫌なだけど命に関わる役目だからだ。瘴気を受ける苦しみを受けたくないから、誰もやらない。でも、瘴気があると生きてはいけない。これらの要素からいつしか神聖視され、瘴気がもたらす苦しみは忘れ去られた。歴代の聖女は瘴気に関して何も言わなかったから。国のため、民のため、その苦しみに耐え忍んだ。だから、王子様はもちろんのこと一部の神殿の人間でさえ、聖女の苦しみは知らなかった。だから、浮子ちゃん、ノリノリで聖女になった。聖子ちゃんを疑ってしまった贖罪のために国に尽くしますとか言いながら。聖女になればいい暮らしができる、なんでもやりたい放題!って思ったんでしょ。大間違い。だから、浮子ちゃんは聖女の苦しみを理解するとすぐ辞めたいって宣ったのよ。笑っちゃうね、あははははは。そんなこと、許すわけないだろ。浮子ちゃんは今でも神殿で祈り続けている。彼女は死ぬまで瘴気を浄化し続ける聖女サマになった。そう簡単には死ねないから半ば永久機関。聖子ちゃんが聖女になったのは苦しみに耐える根性を買われたからじゃない。魔法の才があったからだ。聖子ちゃんにとって浮子ちゃんを生贄にして瘴気を消すシステムを作るなんてわけない。簡単簡単。今のところ、瘴気知らずの国よ、お世話様。

 次に王子様。毎日、神殿に行っていたのは、聖子ちゃんを迎えに行くためではなくて、浮子ちゃんと浮気するため。聖子ちゃんは到底許せなかった。だから、全部奪うことにした。期待をしないでほしいけど、別にそんな大それたことはしていない。婚約破棄の後、王様に王子様に反省とやり直しの機会を与えるため、一人旅をさせるべきって進言してやっただけ。私は許しますけど、諸侯らを納得させるためにもって念押しした。そして、罪を自覚させ、王族としての意識を持たせるために苦労を積ませるべきだから、一人で旅に出させる必要があるってご忠言した。獅子は我が子を育てるために谷に突き落とすなんて言ってね。そしたらさ、王様はやけに厳しい顔して王子様を怒鳴りつけたんだ。お前なんぞ息子とは思わん!出てけ!王様、鬼の形相で王子様のことを追い出しちゃった。いつも甘やかされてきたから、王子様はひどく傷ついた顔をして、王宮を去ったね。父王の愛を失ったと思ったんでしょう。王子だけでなく、周りの人も、かく言う聖子ちゃんも驚いていた。こさ王様は王子様のためならこんなに厳しくなれるんだって。それほど王様は王子様を愛していたということでしょう。子のために鬼になるほどだからね。まあでも王様が王子様のことを深く愛しているなんて知っていたかな。だって、王様は王子様と聖子ちゃんの婚約を破棄することを許し、王子様と浮子ちゃんとの婚約をお認めになられたからさ。……王様が王子様を怒鳴りつけ、王子様が父からの愛を失ったとショックを受けたその別れが親子最期のひとときとなった。たかが王子一匹の命を奪うのは聖子ちゃんにとって簡単なことだったから。かわいそうに王子様のご両親はひどく憔悴してしまった。あー、お可哀想。

 浮子ちゃんの尊厳と王子様の命を奪っても、聖子ちゃんはまだ奪いたいものがあった。それは王位。だって、ここまで来たなら全部欲しいし、浮子ちゃんと王子様の名誉を永久に奪うためには権力が必要でしょう?

 弱った王から王位を奪うことは実に簡単だった。赤子の手を捻るより簡単とはまさにこのことだろう。王は悪政を敷き、民を苦しめた!私は聖女としてこの国を救う!なんて言ってね。そしたら、元とはいえ聖女のところに人が集まる集まる。貴族も市民も軍人も集まった。王様の名誉のために言うけど、別に王様の政治が悪だったわけではない。善政を敷いたわけじゃないけど悪くはなかった。でも、我が国の実情は最悪だった。国の財政は、過去一悪く、その負担は貴族には一切背負わさず、一般市民が担った。貴族は贅沢三昧、一般市民は重税三昧。平凡な政治では許されない国の実情だった。だから、国に不満を持った市民、軍人、そして市民という弱者を守ろうと気取る一部の貴族達、もしくは勝ち馬に乗ろうとする者が聖子ちゃんのところに集まって、武器を取った。そして、聖子ちゃん率いる一派は巨大なうねりとなり、ついには王様と王妃様を弑し奉った。殺害する際、王様はなぜ?と言っていた。これが民意ですと返してやった。王妃様は信じていたのにと言っていた。私も信じていたよと笑いかけてやった。

 そーして、聖子ちゃんは聖女から王になった。先王の悪しき政から脱却し、この国のために尽くし続けることでしょう、ちゃんちゃん。

 最後に、もう一度、言っておくけど、これは私の友達の話だから。そこんとこよろしく!










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