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第7話 王都

 ガラガラという馬車の進む音をかき消すように、御者を務めているブライアンが皆に大きな声で話し掛けた。


「久々に帰ってきたな!」


「あぁ、そうだな!」


「暫くはゆっくり休みたいな!」


「まぁ、難しいとは思うけどな!」


 フリカンの街を出発してから四日。ようやく王都オルフェリアが見えてきたらしく、先ほどから皆のテンションが微妙に高い。王都には彼らの拠点があるらしい。ホームに帰ってきたというわけだ。テンションが上がる気持ちは分からなくもない。


 この道中、俺が『冒険感を出せ』と言ったからか、思いがけないイベントに遭遇することとなった。フリカンの街に到着する直前で赤狼盗賊団に襲われたのだ。


 しかも、俺の入ったマジックバッグを赤狼盗賊団に奪われてしまい、古木の洞の中へと隠された。それからリーファたちによりマジックバッグの捜索が行われた。


 結果、リーファたちがマジックバッグを発見したのは数時間後のことだった。洞の中が運良く森鼠の巣だったおかげで、マジックバッグが洞の中から外へと押し出された結果だ。森鼠のおっさんには本当に感謝しかない。


 フリカンの街では討伐した赤狼盗賊団の首の確認が行われ、無事にその首が赤狼盗賊団のものと認められた。それを祝って盛大な宴が行われた。そこまではいい。


 だが、リーファたちはブライアンを除いて皆二日酔いとなり、結局フリカンの街には二日間滞在することとなったのだ。酒は飲んでも飲まれるな、だよ。まぁ、先を急ぐ旅でなくて良かったな。


 そこから旅は再び順調に進み、気が付けばあっという間に王都の直前までやってきていたのだった。俺も馬車から望む王都の景色を見てみたいが、こちらはマジックバッグの中なのでそれは叶わない。


 まぁ、ともかく。ここまで来たのだし、あとは無事に王都に着くだけだな。もう俺が何も手出しができないようなイベントが発生するのは勘弁願いたい。このまま何事もないことを祈る。


 ところで、王都オルフェリアがどのようなところなのか気になるよな。マンガやアニメのイメージから想像すると、高い外壁で囲まれた中に街が広がってて、その中央にでっかいお城が建っている感じだろうか。街には教会とかもあって、貴族の少年少女が通う学園もあったりして。


 うん、想像しただけでワクワクするな。


 そんなことを妄想している間に、無事王都に到着したようで、周りからざわざわとした喧騒が聞こえてくる。


「今日も今日とて長蛇の列だな」


「これに並ぶとなると、王都に入るのは夕方になるぞ?」


「それなら、いつもの手を使うか?」


「そうしよう」


「おっし、任せておきな!」


 どうやら、まだ王都の中には入っていないらしい。そして、周りの喧騒は王都に入るために並んでいる人たちによるもののようだ。ブライアンが長蛇の列と言ったが、どれだけ並んでいるんだろう?


 そんなことを思っていると、ジャックが馬車から飛び降りて何処かへと駆けていった。その後を追うようにブライアンが馬車をゆっくりと走らせる。周りの喧騒が少し五月蝿くなった。


 それから三十分ほどして、再びジャックの声が聞こえてきた。


「こいつらも一緒だ」


「ふむ、全部で四人だな? 確認のため身分証を出してもらう」


「はいよ、これな!」


「おぉ、Sランクの冒険者でしたか!」


「『五色の盟友』ってんだ、聞いたことあるだろう?」


「なんと、迷宮の覇者と謳われる、あの……!」


「そういうことなんで、こっち使わせてもらえるよな?」


「もちろんです。お一人一万ルメルになります」


「リーファ、頼んだ!」


「あぁ、これでよろしく」


「はい、確認致しました。どうぞ、お通り下さい!」


 やっぱりSランク冒険者って凄いんだな。恐らく今のは検問所での門番とのやりとりだろう。門番からも敬われているのが分かる。そう言えば、Sランク冒険者は騎士爵の貴族位と同じ扱いを受けられるんだっけ。なるほど、リーファたちを貴族として扱ったのかな?


 しかし、ジャックの言う「こっち」とは何のことだろう? それに一人当たり一万ルメルものお金を支払ったのはなんでだろう? もしかして通行税とかだろうか。いや、通行税が一人一万ルメルって流石に高すぎじゃないか? 一万円だぞ?


 いや、そう言えば門番は「お通り下さい」と言っていた。つまり、王都の中に入れるということだ。それもブライアンの言う長蛇の列に並ばずに。……そうか、そういうことか!


『なるほど、ファストパスってことか!』


 そう言えば、以前某テーマパークもファストパスが有料になったとかなんとかってニュースを見たような気がする。早く王都の中に入りたいなら有料で対応してくれると言うわけか。


 ただ、誰でも彼でも使えるようではないみたいだ。先ほど、Sランク冒険者ってことを確認してもらった上で、ジャックが「こっち使わせてもらえる?」と確認していた。恐らくは貴族か、それに値する身分でなければ使えない、専用の門があるのだろう。


 お金を支払う必要があるとはいえ、貴族というのは優遇されているらしい。それと同時に身分によって待遇が変わる事実を知ることができた。そのことを考えると、俺の持ち主になる人にはある程度の高い身分があって欲しいなと思った。


 門番に見送られて王都の中に馬車が入ると、先ほどの喧騒とは別種の、活気に満ち溢れた賑わいを感じた。馬車とすれ違う人の数もドリージアとは桁違いのようで、通りを行き交う人々のわいわいとしたやりとりや、露店の店主による威勢の良い呼び込みの声などが聞こえてくる。これだけで王都に来たと実感できた。


 それから小一時間ほど経っただろうか。馬車は通りをまっすぐ進んで行った。次第に賑やかな声は聞こえなくなり、閑静な地区へとやって来たようだった。もしかすると住宅街が近いのかもしれない。


 そこからさらに一時間馬車を走らせて、ようやくブライアンが馬車を止めた。どうやら目的地に着いたようだ。いつも通り、リーファとジャックとマクイーンが先に馬車から降りた。ブライアンは馬車を厩に預けに行ったのだろう。


 今回の目的地というと、王都オルフェリアの冒険者ギルド本部だ。門番とのやりとりから既に二時間以上が経過している。ということは、王都の出入り口から十キロから十二キロ近く馬車を走らせたことになる。想像していたよりも時間が掛かった。


 そして、冒険者ギルド本部が王都の中心にあるとは限らない。そう考えると、王都は半径十キロ以上の都市ということになる。ちょっとでかくね? 少なくとも東京駅を起点に考えて、北は東十条や北千住、南は大井町とかお台場あたりまであるぞ……?


 マンガやアニメの異世界転生ものの都市のイメージを想像していたのだが、もっと小さいというか狭い印象だった。だが、実際にはそんなことはないようだ。これがこの国に限った話なのかは分からない。でも、前世の感覚からしても王都と言うくらいの都市ならば、これくらいの広さがあっても普通ではないかと思い始めた。


 ふむ。アニメやマンガのイメージはまったく当てにならないな。気をつけないといけない。つまり、妄想していた内容がこの世界の現実に即していない可能性が高いということだ。やはり、情報を集めなければならないな。


 暫くしてブライアンがリーファたちと合流した。ようやく冒険者ギルドの本部に入るようだ。何だか緊張するな……。


 そんな俺の気持ちを察することなく、リーファたちが冒険者ギルド本部の扉を開けた。おいおい、ちょっとはこっちの気持ちを推し量ってくれよ。俺の声は当然リーファたちには届かず、ゴゴゴという重厚感のある音が鳴り響く。


 そして、リーファたちが中に入ると、その姿を見つけた周りの冒険者たちから突然大きな声が上がり、皆を温かく出迎えたのだった。


「リーファさんだ! リーファさんたちが帰ってきたぞぉっ!」


「お帰りなさい、リーファさん!」


「難度S級ダンジョンはどうでしたか?」


「今度は暗黒竜が相手だったんだってな!」


「それで、一体どんな財宝を手に入れたんだ!?」


「また旅の土産話を聞かせてくださいよ!」


 冒険者たちが次々にリーファたちに声を掛けてくる。王都の冒険者たちから歓迎されていることが良く分かる。それに対してリーファたちもまんざらではない様子で一人一人に丁寧に答えていく。何だかいいな、こういうのも。仲間との再会って感じがするな。


「ようやく我が家に帰ってきた気分だぜ!」


「やっぱり落ち着くよな」


「皆に囲まれて飲む酒が今から楽しみだ!」


「それはあとにしてくれ。まずは挨拶に行かないと」


 そう言って、リーファたちは冒険者ギルド本部の奥へずんずんと進んで行った。恐らくはギルドの職員に挨拶をするために受付へと向かったのだろう。そんな風に思っていると、急にドタドタと慌てた様子で誰かが近づいてくるような足音が聞こえてきた。


「坊主ども、死なずに帰ってきたか!」


「あぁ、全員無事だ」


「そんなに早く死ぬかって!」


「俺が付いていたからな」


「まぁ、こんなもんよ!」


「よしよし、良く帰ってきたな! まずは報告を聞かせてもらおう。上に行くぞ! 皆、付いてこい!」


 おっさんと言うよりは、おじいさんという感じのしわがれた声の持ち主が、リーファたちの背中を力強くパシパシと叩きながら、上の階に連れて行こうとする。それをギルドの職員たちは黙って見ているだけのようだった。このおじいさん、一体何者だ?


 おじいさんに連れられて、二階へと上がってきたようだ。そこで部屋に通された。多分、おじいさんの部屋なんだろう。


「ここに入るのも久しぶりだな!」


「まぁ、お茶でも飲みながら話を聞かせてくれ」


「ギルドマスター直々にお茶を淹れてくれるのはありがたいが」


「まともに淹れれるようになったのか?」


「任せておけ、これでも最近は美味くなった」


「そういうことは秘書のレーツェルさんに任せればいいのに」


「レーツェルは今長期休暇中でなぁ」


「ほう、珍しいな。あの仕事人間が?」


「うむ、実家から見合いの話があったそうでな」


「へぇ、お見合いかぁ!」


「あのレーツェルが寿退社か」


「想像もしていなかったな!」


「待て待て、まだ何も決まっとらんぞ!」


「まぁ、まだお見合いの段階だからな」


「リーファ、先を越されるかもしれないぞ?」


「うるさい!」


「まぁ、レーツェルさんのお見合いがうまくいくことを祈ろう」


「そうだな」


「そんなことよりも、話が聞かせてくれ!」


「慌てるな、バージ」


「聞いてくれよ、俺たちの活躍をよ!」


「うむ、聞かせてもらおう」


 リーファたちの話を聞いていると、どうやらこのおじいさんは王都の冒険者ギルド本部のギルドマスターらしい。ということは冒険者ギルドの責任者ということかな? 偉い人じゃねぇか! でかい企業の社長みたいなもんだろう。そんな人に気安くお茶に誘われるリーファたち、凄いな。


 秘書のレーツェルさんのお見合いの話はさておき。ギルドマスターのバージはリーファたちにお茶を振る舞い、それを飲みながら彼らが王都を離れてドリージアの街に向かい、難度S級ダンジョン『暗黒竜の住処』を攻略し、王都に帰ってくるまでの冒険譚に耳を傾けた。




いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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