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第47話 土下座

 師匠とクリス先輩、そしてリーナスの三人で王城に向かうことになった。その道中で、まずは今回リーナスを探していた理由を師匠が説明することになったのだけれど、その内容は当初の理由とは完全に異なるものとなっていた。


 そもそも、何故俺たちがリーナスを探すことになったのか。本当のことを話してもいいが、それだとリーナスはこちらに協力する気になるかどうか分からない。それならば、リーナスがこちらに協力したくなるような理由を作ればいいと考えたのだ。


 そうして、俺と師匠はひとつの設定を作り上げた。


『昨日の一件を受けて、いろいろと事情を知っているリーナスがドリージア侯爵に命を狙われるのではないかと姉弟子殿が危惧した。姉弟子殿を裏切っていたとはいえ、これまで王家に仕えてくれた近衛騎士だ。助けられるものならば助けたい。そう考えた姉弟子殿が師匠とクリス先輩を護衛としてリーナスのもとに送り込んだのだった』


 もちろん、真っ赤な嘘である。一ミリも正しくない。でも、実際にリーナスは襲撃を受けて殺人未遂の被害に遭い、師匠とクリス先輩によってその命を助けられたのだ。こちらの事情を知らないリーナスが姉弟子殿の配慮に感謝しないわけがなかった。


「うぅ、ライラ殿下は何と聡明で慈悲深い御方なのだろう……ライラ殿下のご信頼を裏切った私なんかのために、ザンテ殿とクリス殿を遣わしてくださるなんて……ライラ殿下、ありがとうございます、ザンテ殿、クリス殿、本当にありがとうございます……」


 ぐすぐすと流した涙をすすりながら、姉弟子殿だけでなく師匠とクリス先輩ちまで感謝の言葉を述べるリーナス。うん、効果は抜群だ。


「……さて、リーナス殿。貴殿の先ほどの言葉……騎士に復帰したいという言葉に嘘や偽りはないかの?」


「ありません!」


「これから王城で殿下にリーナス殿の無事を報告することになる。その際に、貴殿が真っ先に行うべきことは何か分かるかの?」


「はい! まずは、この度私の命を救ってくださった御礼をライラ殿下に申し上げること、それからライラ殿下のご期待を裏切ってしまったことについて、心からの謝罪を行うことです!」


「うむ、その通りじゃ。じゃが、生半可な謝罪では受け入れてもらえんじゃろう。今後は王国と王家に、そして殿下に対して、改めて忠誠を誓うと宣誓せねばならぬ。貴殿に受け入れられるかの?」


「はい! 今後は王国と王家、そしてライラ殿下に対し、生涯を通して永遠の忠誠を誓うと宣誓するつもりです!」


「なるほど。王国と王家、そして殿下のためならば、命を賭す覚悟があると。そういうことで良いのじゃな?」


「もちろんです! ライラ殿下に救っていただいたこの命、ライラ殿下のためならば喜んで捧げるつもりです!」


 ふむ、と師匠は納得しそうになるが、俺はちょっと気になった。はたしてリーナスはどこまで本気で言っているのかな、と。彼の言葉を疑っているわけではないけど、信用もできないなと感じたのだ。何故ならば「忠誠を誓う」という言葉を述べることに、彼は何の責任も背負っていなかったからだ。


『まぁ、命を捧げるとまで言うんだ。リーナスもある程度は本気なんだろうと思う。でも、どこまで本気なのかが分からないなぁ。これをはっきりさせておかないと、姉弟子殿の専属の護衛騎士なんて絶対に任せられないし、心からの謝罪っていうのも、正直言葉だけじゃなぁ……。あっ、そうだ。いいことを思いついたぞ。師匠、ちょっと耳を貸してくれ!』


「うん、なんじゃ?」


『まず、リーナスが謝罪するときに、自分の持っている剣を姉弟子殿に差し出すように言ってほしい』


「リーナス殿の剣をか?」


『そう。その上で、リーナスには姉弟子殿の正面で両膝を付いて腰を下ろし、その状態で両手を床に付けて、額が床に付くまで伏せさせて、その状態で謝罪させよう。これは俺のいた世界では土下座といって、最上位の敬礼でもあるんだけど、謝罪や請願の際にも使われる姿勢でな、首を斬られても異存はないという意味もあるんだ』


「なんとっ!?」


『これを姉弟子殿への謝罪の際にリーナスにさせる。そして、謝罪するリーナスにこう言わせるんだ。「もしも、ライラ殿下に謝罪を受け入れてもらえない場合は、その剣でどうかこの首をお斬りください」とね。流石にここまで言われれば、姉弟子殿もリーナスの謝罪を受け入れるんじゃないかなぁ。師匠はどう思う?』


「な、なんという恐ろしいことを考えるんじゃ……じゃが、確かに殿下にリーナス殿が自らの首を差し出すというのは、リーナス殿の覚悟を示す意味では悪くないかもしれんのう。それに、かなり強烈なインパクトがあるし、王城でも話題にもなりそうじゃな……。よし、ユーマの案で進められるように提案しみてみよう」


『師匠が賛成してくれるなら心強いな。では、その方向で頼む!』


 誠意ある謝罪とは何か。今回、姉弟子殿はリーナスの裏切りによって命の危険に晒されることになったのだ。それならば、リーナスも命を懸けなければフェアじゃない。では、どのように謝罪するのがベストだろうか。はたして、従来の謝罪方法で納得してもらえるのか?


 そう考えたとき、俺が謝罪される側だとしたら、普通に謝罪されるだけでは納得がいかないと思ったのだ。師匠の言う通り、インパクトが必要だ。この世界にない新たな謝罪の方法を考え出す必要があると思ったのだ。そうして考え抜いた結果、俺は土下座に行き着いたのだった。別に、どこかの銀行員が相手に謝罪を求めるドラマのワンシーンが思い浮かんだからではない。たまたま条件に合いそうな謝罪方法が土下座だっただけだ。


 ともかく、剣を預けて土下座し、首を差し出すことで、リーナスは自分の生死を姉弟子殿に委ねることになる。その状況で心からの謝罪をすれば、もしかすると姉弟子殿も許してくれるかもしれない。それに、姉弟子殿も少しは溜飲が下がるのではないかと思ったのだ。


 ということで、早速師匠の口からリーナスに謝罪は土下座で行うように伝えてもらうことにした。もちろん、土下座がどのようなものなのか分からないので、俺が説明した内容を伝えてもらう。すると、リーナスは驚きのあまり目を見張った。隣で師匠の説明を聞いていたクリス先輩も驚き戸惑っていた。


「そ、そのような恐ろしいことをよく考えつきますね……。ですが、ライラ殿下に顔も見たくないと言われた私が赦しを得るには、それぐらいのことはできないと駄目ですよね。私の覚悟をライラ殿下にお伝えするのにも良いかもしれません。その土下座という謝罪、是非やらせてください!」


「よ、よろしいのですか、リーナス様!? 両膝を付き首を差し出すなんて、罪人が処刑されるのと同じですよ!?」


「構いません! 既に国外追放の刑を受けた罪人です。これ以上私が失うものなど、この命以外にありませんから!」


「リーナス様……」


「うむ。リーナス殿のご覚悟、しかと受け止めた。あとは殿下との面会を取り付けるだけじゃが、それは儂らが何とかする故、リーナス殿は殿下への謝罪の言葉を考えておいてくだされ」


「もうすぐ王城に着きますから、あまり時間はありませんが、リーナス様の謝罪の気持ちを殿下に伝えることを第一に考えて頂ければと思います。きっと、殿下にも伝わるはずですから」


「ありがとうございます」


『さて、リーナスのことはこれで良しとして……これからどうすればいいと思う?』


「うむ、そのことで相談したかったところじゃ。今回の件、完全に儂らが勝手に決めたことじゃからなぁ。殿下も納得されぬじゃろうし、どうしたものか……。ユーマはどう考えているのじゃ?」


『うーん、そうだなぁ。姉弟子殿と事前に打ち合わせしたいところだけど、今回はそんな暇はないだろうな。そうなると、ありのまま真実を伝えるしかないんじゃないかなと思ってる。とはいえ、リーナスを探しに行った理由は嘘をついているわけだし、それを本当のことのように見せかける必要はありそうだけど……そこは曖昧にすれば大丈夫じゃない?』


「不安しかないのじゃが……。確かに、噓をついても碌なことにならんからのう。ユーマの言う通り、真実を話すべきというのは理解できる。じゃが、そうなるとリーナス殿を助けた理由をなんと説明するべきか。殿下とのお話を受けてリーナス殿のもとへ向かったところ、暗殺者に襲われている様子だったので助けるべきだと感じた、というところかのう?」


『そんな感じでいいんじゃないかな。そして、見事に暗殺者を捕らえて戻ってきたと。事件の背後関係について考えると、ドリージア侯爵が関係している可能性もあるし、第一騎士団や王都警備兵には任せることができないと判断したので、それらは俺たちで調査するつもりだと伝えてはどうかな?』


「うむ、そのように話すしかないのう」


『あぁ、それからリーナスには姉弟子殿の前では余計なことを言わずに、謝罪だけをするように言っておいたほうがいいな。姉弟子殿の前に出ていきなり感謝の言葉なんて伝えられたらややこしいことになるからな。師匠、頼めるかな?』


「確かにそうじゃのう。分かった、リーナス殿には殿下の前では感謝の言葉は厳禁、謝罪のみを行うように伝えておこう」


 謝罪の言葉を考えているリーナスに師匠が話し掛けると、先ほど俺と話していた内容を伝える。リーナスは姉弟子殿に感謝の言葉を伝えられないことを残念がっていたが、現状のリーナスの公での立場は国外追放の刑を受けており、姉弟子殿からは顔を二度と見たくないとまで言われた罪人なのだ。あまり勝手な行動を取るのは拙いと師匠が諭したことで、リーナスも納得した。


「さて、そろそろ王城に着くのう」


「リーナス様は念のためフードを深くかぶってください。お顔を見られると騒ぎになるかもしれません」


「そうですね……」


 クリス先輩の言葉に頷いてリーナスがマントに着いたフードを目深にかぶる。うん、完全に不審者の見た目だけど、仕方がないよな。その後、黙って三人は王城を目指したのだった。


 そうしてしばらく歩いていると、いつの間にか王城の城門前に辿り着いた。師匠が城門を警備する衛兵に対して、姉弟子殿に呼ばれてやってきたと説明する。すると衛兵が師匠の後ろに控えている二人に視線を移す。クリス先輩は問題ないだろうけど、フードを目深にかぶった男が怪しすぎる。フードを取れと言われるだろうか。そう思っていたら、師匠がぼそっと衛兵の耳に囁く。


「……こちらはリーナス殿じゃ。殿下に呼ばれて極秘にお連れしてきたのじゃよ」


「何、本当かっ!?」


「……殿下に取り次いでくれるかの?」


「念のため、顔を確認してもいいか?」


「……うむ、リーナス殿」


 師匠がリーナスを呼ぶと前に出てきてフードから顔をのぞかせる。それを見て、衛兵が「ほ、本当にリーナス様だ……!」と小さく驚きの声を上げた。「分かってくれたかの?」と師匠が問い掛けると、衛兵はコクコクと頷いて、すぐに姉弟子殿に確認を取ると言って、一人の衛兵を王城へと走らせて行った。


「さて、ここからが勝負じゃの……」


『上手くいけば良いんだけどな……』


 それからしばらくして、王城へと向かった衛兵がひとりの騎士を連れてやってきた。先ほど師匠を探して貴族門まで馬を走らせていた第二近衛騎士団の騎士だな。


「ザンテ殿! ご到着をお待ちしておりました!」


「うむ、殿下のもとに案内して頂けますかの?」


「もちろんです。早速ご案内致しますね」


 こうして俺たちは姉弟子殿の待つ部屋へと向かうことになったのだった。


 既に日は落ちつつあり夕闇が空を染めつつある。そんな中、師匠とクリス先輩とフードを目深に被った怪しい男であるリーナスの三人が騎士に連れられて王城の中を行く。


 その様子を興味深そうに見てくるメイドたちを横目に、俺たちは再び姉弟子殿の部屋へと戻ってきた。昼頃に飛び出してから、たったの数時間でこんなに事態が変わるとは思わなかったけど、すべては成り行きなので仕方がない。


 騎士が部屋の扉をノックすると同時に、「ザンテ・ノーザ様御一行をお連れ致しました」と扉の奥に向かって言葉を掛ける。それを聞いたレムラが部屋の中から扉を開けて迎え入れてくれた。そして、師匠とクリス先輩とリーナスが中に通されると、続いて案内してくれた騎士も入ってきた。リーナスの監視役といったところかな。


 中に入ると、いつもの席でお茶を飲んでいる姉弟子殿がこちらに視線を向けてきた。いや、正しくはリーナスにというべきか。そして俄に眉間にしわを寄せる。うん、もう少し感情を抑えてもらいたい。


 姉弟子殿のもとに向かうと、師匠とクリス先輩、そしてリーナスが一斉に跪いて頭を下げる。一応、師匠と確認した段取りでは、このあとの進行は師匠が行い、その流れでリーナスに謝罪させる予定だ。


「ザンテ・ノーザ、ただいま戻りました」


「うむ。随分と遅かったのう、今日は戻らぬかと思ったぞ。……それで、成果はあったのか?」


「はっ……。まずは、あのあと何が起こったのか、事の経緯を簡単にご説明させて頂きます。リーナス殿を探して王都の西門前に向かいましたところ、暗殺者に襲われて倒れているリーナス殿を発見致しました。儂とクリスはこの状況を直ちに解決すべく、暗殺者をリーナス殿の殺人未遂の現行犯で拘束し、その身柄を捕らえて参りました。クリス、殿下にお見せしなさい」


「はいっ! 殿下、こちらがリーナス殿を襲った賊でございます」


 そう言って、ローブに包まれていた暗殺者を姉弟子殿の前に差し出す。浮遊の魔法が掛かっているので浮いたままなので、何だかマジックショーでも見ているかのようだ。王城内へ入ったあと、対魔法結界により浮遊魔法が切れてしまったので掛け直したおかげだな。




いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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