第44話 候補
「ふむ、伺いましょう。一体どのような内容ですかな」
「私からの依頼に、私の家臣団を集めよというものがあったじゃろ。その家臣の最初の一人として、私が安心して護衛を任せられる騎士を見つけてほしい。もちろん、第二近衛騎士団を含む近衛騎士団からは採用せんぞ」
『ということは、第一騎士団から第五騎士団までなら問題ないってことか?』
「ユーマが、第一騎士団から第五騎士団までなら問題ないかと尋ねておりますが、問題ございませんか?」
「ふむ、第一騎士団から第五騎士団の五つの騎士団については許容しよう。じゃが、できれば王国や王家、貴族などのしがらみがない人材が良いのう」
『無茶を言うなぁ。しかし、上手く人材を見つけられたとして、そいつの所属はどうするんだ? まさか、第二近衛騎士団にねじ込むわけにはいかないだろうし、姉弟子殿の専属の護衛騎士なんていうのは師匠のとき以上に周りから反発があるんじゃないか?』
「うむ。そうじゃの……。殿下、運よく人材が見つかったとして、その者の所属はどうされるので? 儂のように殿下の専属とするのは流石に周りからの反発が大きくなりますぞ?」
「それについては考えがある。運よく人材が見つかったとしても、いきなり私の護衛を任せられるわけでもあるまい。少なくとも近衛騎士としての経験と実績が必要じゃろう。そこで、近衛騎士見習いとして第一近衛騎士団に入れてもらおうと考えておる。その後、私の専属騎士にするのじゃ」
『それができるなら問題ないけど、第一近衛騎士団が第二近衛騎士団の領分を侵すことになるだろうし、断られるんじゃないか? それを無理やり姉弟子殿の命令で進めると、たぶん揉めるぞ?』
「うむ、儂もそう思う。……殿下、今のお話はあまり得策ではないかと。そのようなことを無理に行おうとすれば、第一近衛騎士団と第二近衛騎士団の仲が拗れかねません。ここは第二近衛騎士団で騎士見習いをさせるべきでは?」
「私もそう思います。確かに第二近衛騎士団はドリージア侯爵の影響を受けていたとか、ミラクー伯のおかげで模擬試合に参加させられたとか、元団長のリーナス殿が裏切っていたとか、あまり良い印象はありません。ですが、今後はそれらの影響は少なくなるでしょうし、何より現団長のイネス殿は評判がいいです。もし近衛騎士見習いにするのであれば、第二近衛騎士団に相談するべきでしょう」
『俺も師匠とクリス先輩に賛成だな。それに、今のうちに第二近衛騎士団との関係を改善しておかないと、また面倒なことが起こるかもしれないぞ?』
「殿下、ユーマも儂らの意見に賛成です」
「どうか、ご決断を」
「むぅ、ユーマも私の意見に反対か……。仕方がないのう、この件については第二近衛騎士団に所属させる方向で検討することにする。その代わり、必ず良い人材を見つけてくるのじゃぞ!?」
「はぁ。ですが、正直に申し上げますと……儂らと同じ魔法師ならばともかく、騎士の方とはまったく繋がりがないのでどうしたものか。それに、騎士としての実力を測るうえで重要なポイントなど、儂らには皆目見当がつきませんし……」
「そうですね。お師匠様も私も魔法師ですから、騎士の方の実力を見極めるのは難しいかと……」
『うーん、騎士を探すならやっぱり本職の騎士に手伝ってもらったほうがいいんじゃないか? どこかに無所属で実力がある騎士がいないかなぁ。……あ、一人いるな。でも、あれは駄目か……』
「なんと、心当たりがあるのかっ!?」
「ユーマ、騎士に知り合いでもいるのですかっ!?」
「ほう、ユーマの知り合いか。それならば、ザンテとクリスも知っている人物ということになるの。一体誰じゃ?」
『うーん。師匠とクリス先輩には言ってもいいけど、姉弟子殿には内緒な。これを守れるなら話してもいいけど……』
「うむ、分かったから教えてくれ!」
『ずばり、リーナス・メナスだ』
「ぶふっ! なんじゃとっ!?」
『実力がはっきりしていて、近衛騎士としての実績もある。リーダーシップもあるし、ある意味では背後関係もはっきりしてる。何より、今はフリーの身の上だ。流石に姉弟子殿の護衛騎士にはできないけれど、騎士の人材を探す際に協力させられるかもしれない』
「(じゃが、あやつは殿下から直々に王国からの追放刑を言い渡されたのじゃぞ!? しかも、二度と顔を見せるなとまで言われておる! 流石に無理があるじゃろ……)」
『そこは姉弟子殿の懐の深さが問われるところだよな。確かにリーナスは姉弟子殿を裏切り、危険な目に遭わせた。だけど、それはドリージア侯爵への恩というか、借りというか、そういうものがあったからだろう。もうドリージア侯爵に以前ほどの力はない。今のリーナスならば、信用してもいいんじゃないかな?』
「(……ユーマは考えが甘い気がするがのう)」
『自分で話していて、俺もそんな気がしてきた。だけど、他に頼れそうな相手がいるのか? 俺にはさっぱりだぞ?』
「(それは、その通りなんじゃが……よりにもよってリーナス殿か……。これは、参ったのう)」
『名前と顔と魔素を偽ることができるのなら、姉弟子殿に許可を取らなくてもいいかもしれないけど、流石にそれは無理かなって思うし、姉弟子殿にはちゃんと話を通しておいたほうがいいと思うんだ』
「確かにその通りじゃが、むぅ……」
俺と師匠の話にクリス先輩も興味深そうにしているし、何より姉弟子殿が何を話しているのかすべてを話せと表情で師匠に圧をかけてきた。さて、どう説明をするか、師匠のテクニックが試されるな。あえて話をしないという、逃げの一手もあるけれど。
「ザンテよ、ユーマとの相談は終わったかの?」
どこかの新世紀にいる某特務機関の司令のように手を組んでニコリと笑いながら、姉弟子殿が師匠に問い掛ける。こちらが何かを企んでいることは丸分かりのようだ。クリス先輩も気になるようで、師匠と俺に視線を投げかけている。これはもう覚悟を決めて話すしかないだろうな。主に師匠がだけど。
「うむ……ごほん。ユーマからの提案は非常に興味深いもので、儂もなるほどと納得しました。この人材ならば、確かに殿下の騎士候補を探すのに役立つでしょうし、なんなら殿下の騎士に推薦することもできるくらいの実力と実績、経験を持った人材でした」
「なんと! そのような人材いたのであれば、勿体ぶらずに提案してくれればいいものを! して、それは一体誰なのじゃ?」
「……しかし、この人物の名前を殿下にお伝えするには、儂も相当な覚悟を決めなければなりません。はたして、殿下はその名前を聞いて驚かれないか、儂は心配しております……」
「ほう、私が驚くようなビッグネームということか。いったい誰じゃろうな。もしや、引退した騎士団長を連れてこようというのか?」
うん、流石に鋭いな。確かにリーナスは引退した騎士団長に違いはない。たぶん、姉弟子殿が想像している候補の中には含まれていないんだろうけど。間違いではないな。師匠が話を続ける。
「流石ですな。まさに引退した騎士団長の一人です。ですが、彼には王国に滞在できない事情がありまして、流石にこの度の騎士候補を探すにあたっての条件には合わないかと……」
「ふむ、国外の者か……。ならば、私から王国への滞在許可を与えよう。そうすれば憂いはなくなるであろう?」
「はっ、ありがとうございます。ですが、もうひとつ解決しなければならない問題がございまして。彼は殿下に素顔を見せることができないのです。そちらは問題ないでしょうか……?」
「ほう、顔に余程酷い傷を負ったのじゃろうな。じゃが、私はそのような些細なことを気にするほど器は小さくないつもりじゃ。例え醜い素顔を晒すことになっても、私は一向に構わぬ!」
結構勘違いされているけれど、それは勝手に姉弟子殿が想像したことであって、師匠は何一つ間違ったことを言っていない。そして、それらの師匠の言葉を聞いて姉弟子殿が問題なしと答えたのだ。これはもう、言い訳なんてさせないからな? そう思って、師匠にとどめを刺してもらうことにした。
「ご意見ありがとうございます。先ほどまでの殿下のお言葉をお聞きした限り、ユーマの推薦する者をこの度の騎士探しの仲間に加えても問題ないと受け取りましたが、如何でしょうか?」
「うむ、問題なかろう! 国外の者であろうと、第一王女の名のもとに私が許す。その者を仲間に引き入れ、私の護衛騎士を探すのに協力させよ。なんなら、その者を護衛騎士に取り立てるのも考えよう!」
そう言って笑う姉弟子殿を見て、師匠が小さく笑った。俺は心の中でほくそ笑んだ。これで、心当たりがあるのはリーナスです、と師匠が答えたら、はたして姉弟子殿はどんな反応をするだろうか。非常に興味深い。さて、そろそろクライマックスだ。師匠、頼むぞ。
「それで、リーナスを仲間に加えると言うのだろう? 一体どのようにして、私とリーナスを納得させるつもりなのか、詳しく聞かせてもらおうではないか! のう、クリスよ?」
「はい。お師匠様とユーマの考えていることはすぐに分かりました。ですが、あの方を味方に引き入れるつもりであれば、殿下や私だけでなく、国王陛下と宰相閣下も納得させる必要がありますからね。どのように周りを説得するつもりなのか、非常に気になります!」
げぇっ!? なんだよ、姉弟子殿とクリス先輩には俺の考えなんてバレバレだったようだ……。それに、姉弟子殿とクリス先輩を納得させられる材料がないこともばれているんだろうな。ここは師匠に任せて逃げるか。いや、師匠にそんなことをさせるわけにはいかないか。
『師匠、ここは俺が説明する……!』
「う、うむ。頼んだぞ! 殿下、今回の件についてはユーマが説明してくれると申しております。ここはユーマの見解を聞くことに致しましょう! さぁ、ユーマよ。存分に説明してくれ!」
『うん、ちょっとだけ時間が欲しい……』
師匠だけでなく姉弟子殿やクリス先輩も、俺がどのように姉弟子殿を説得するつもりか気になるようだ。まぁ、それは分かるんだけど、あまりプレッシャーを掛けないで欲しい。それに、姉弟子殿だけを説得しても意味がない。そう、リーナス本人を説得する必要があるのだ。いや、まだ俺もノーアイディアなんだけどな……。
とりあえず、姉弟子殿には「過去のことは水に流すべきだ」とか、「未来志向でないと先はないぞ」などと、自分で聞いても説得力がないというか、蟻が餌と巣を往復するような、ありきたりな内容しか思い浮かばない。ちょっと切り口を変えて考えてみるのはどうだろう。よし、それだったら……。
『リーナスほどの実力と経験、実績がある元第二近衛騎士団長を国外に追放したらどうなるか。間違いなく他国から引く手あまただろう。何せ、戦力としても、情報源としても有用なのは間違いないからな。そして、そのような人材を放出したこの国や姉弟子殿の評価はどうなるだろうか。きっと、馬鹿なことをしたと笑われるに違いない。次期国王となる姉弟子殿はこの国を馬鹿の治める国にしたいのか?』
何せ、リーナスは王族の近くにいたのだから他国が欲しがる情報を持っている可能性は十分にある。それに、第二近衛騎士団の団長だったのだ。相応の実力があるのは間違いない。そんな優良物件を放って置く国があるだろうか。いや、ないはずだ。
『それに、王国としても有能な人材を国外に追放することになったのだから、これは大きな損害でもあるはず。しかも、その原因のほとんどはドリージア侯爵によるものであり、ドリージア侯爵は既にその責任を問われて処分されている。つまり、何が言いたいかというと、リーナスの国外追放はこの国の弱体化に繋がり、それを推進しているのは他ならぬ姉弟子殿だ。そのようなことを望んでいるのか?』
俺にはそうは思えない。姉弟子殿はこの国の輝ける未来を望んでいるだろうし、それを目指しているはずだ。そのためには、自分の気持ちを抑える努力も必要だし、そうすることで姉弟子殿の懐の深さも皆に伝わると分かっているだろう。つまり、姉弟子殿ならば何が最善なのか、理解しているはずだ。
そのように結んで、あとのことを師匠に任せた。師匠を通してしか自分の気持ちを伝えられないのは歯痒くもあるけれど、師匠がいい感じに俺の言葉を訳して伝えてくれるので助かる面もある。今回も上手く伝えてくれた。流石は師匠だ。
「……なるほど。私のことだけでなく、王国のことまで考えてのことだったのか。そういうことならば、ユーマの意見は一考に値する」
よし。姉弟子殿は前向きに考えてくれるようだ。このままリーナスが姉弟子殿の護衛騎士に落ち着けばいいのだけれど、そうは問屋が卸さないのは分かっていた。
「じゃが、私も直接リーナスの意思を確認しなければ納得はできぬ。それまで、答えは保留とさせてもらおう。ところで、リーナスを私の護衛騎士にするにしても、あやつの顔と名前と魔素を変えねばならぬのは違いがない。ザンテよ、其方に何とかできるか?」
あれ、思った以上に前向きに考えてくれているんだな。流石に護衛騎士に取り立てるつもりがあるとは思わなかったけれど、一体どんな心境の変化だろう。こちらとしては助かるけれど。
それにしても、名前はともかく、顔と魔素はどうやって変えれば良いんだろうか? また魔法を掛けるのか? そこまで魔法は万能なのだろうか? 俺は大人しく師匠の言葉を待つことにした。
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