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第39話 チート

 王城から師匠の屋敷に戻ってくると、師匠とクリス先輩はぐったりとしていた。やはり、国王と宰相の二人と話をするのは気疲れするようだ。話の内容も重ためのものが多かったので仕方がない。師匠とクリス先輩は旅装束を解くことができて人心地ついたようだった。


 さて、クリス先輩は着替えを終えると早速屋敷の食料を買いに街へと出掛けていった。今夜の夕食から一週間、クリス先輩の食事には燻製肉が二枚付いてくるのだ。きっと美味しい肉を選んで来ることだろう。別にもう食費を削るようなことをしなくてもいいほど十分な給金を得ているのだから、今さら日持ちのする燻製肉とか干し野菜にこだわらなくてもいいと思うのだが、その辺りの感覚は直せないらしい。


 師匠は流石に疲れが出たようで、天蓋付きのベッドで昼寝をしている。そのせいで俺は机の上でひとり日向ぼっこをすることになった。この世界に転生してからしばらく落ち着くようなことがなかったので、こういう平穏な時間を過ごすのは気を休めるのにちょうどいい。本当ならば、魔法について勉強したいところなのだが、俺の使用者である師匠が眠っているのでは仕方がない。


 一人で本を読めるスキルがあれば喜んで取得したいところだが、恐らくそんな便利なものはないだろうし、どうしようかと思っていたところで、そういえば俺のスキルのひとつである前世之記憶インターネットの存在を思い出した。特に今のところネットで調べたいことがあるわけでもないんだけど、どんな風に使えるのかは確かめておきたい。いざお世話になるというタイミングで使い方に困るというのは拙いからな。


 ということで、早速前世之記憶を使用してみると、俺の視界の中央にデカデカとブラウザが立ち上がった。おぉ、なんとなくグー◯ル先生っぽいが、そのまんまではないな。でも、検索窓があるし音声での検索や画像での検索も可能なようだ。使い方で戸惑うことはなさそうで少し安心した。


 しかし、それよりも気になるのは右隅に置かれたタイマーだ。残り時間の六十分から徐々にカウントダウンが始まっている。恐らくこれが使用できる時間ということなのだろう。だらだらとネットサーフィンなんてしていたら一時間なんてあっという間に過ぎてしまいそうだ。気をつけなければならないな。


 それはさておき、ひとまず何か調べてみようか。よし、まずは前世でもお世話になった「天気予報」でも調べてみよう。そう思って、「今日の天気」と考えてみたら、無事検索窓に入力することができた。なるほど、考えるだけで入力できるのか。ものすごく便利だな。検索ボタンも、検索したいと考えただけで操作できた。脳波で操作とかSFっぽくてかっこいい。俺に脳があるのかは分からないけど。


 うん、これだけでも十分にすごいのだが、さらに驚くべきものが検索結果に表示されたんで余計に驚いた。その理由は、なんとこの世界の天気が表示されたからだ。え、調べられるのは前世の世界のことじゃなかったの? めっちゃチートスキルじゃないの!


 王都オルフェリアの現在の天候は晴れ時々曇り、現在の気温は摂氏二十六度、降水確率は二十%、湿度は六十五%、風速は三フィン・パー・セカンド、とのこと。週間予報を見ると明日は午後から雨が降るそうで、明々後日の夕方ごろまで続くらしい。しばらくは洗濯物を干せないな。あとでクリス先輩にも教えてあげよう。


 というか、検索窓の下に、画像とか動画とか地図とかニュースとか様々なリンク付いちゃってるけど、まさかな……。


 恐る恐る、地図のリンクをポチッと選択してみると、全く見覚えのない地図が表示されていた。もしかして、これも異世界の地図が表示されるのか? すると、これが王都オルフェリアなのか……?


 面白そうなので、試しに師匠の名前を入力して検索してみると、画面の中央に一軒の家がフォーカスされ、そこに現在地を表す赤いアイコンが刺さった。……たぶん、師匠の屋敷なのだろう。そこから地図を縦横にスクロールさせると、王城や冒険者ギルドなど、聞き覚えのある施設の名前が目に入る。


 これ、かなりヤバい情報なんじゃないか? そう思って、暫らく見ていると、画面の左側にサイドバーがあり、そこに師匠とクリス先輩、それに姉弟子殿や国王、宰相の名前が並んでいた。名前の隣にはトグルボタンがあり、現在はすべてオフになっている。


 気になったので、クリス先輩のボタンをオンにしてみると、青い光点が地図上に現れて、そこに画面がフォーカスされた。ここは……市民街の南部、専門店通りのようだ。さらにズームしてみると食料品店の名前が幾つも並んでいる。ということは、これってクリス先輩の現在いる位置が分かるってことか!?


 試しに全員のトグルボタンをオンにしてみたところ、師匠は屋敷に、姉弟子殿と国王と宰相は王城にいることが伺えた。うん、間違いなく選択した対象の現在地を知ることができる機能だ。かなりすごい機能だけど、一体どういう仕組みなんだろう? そもそも、なんでこの四人だけしか選択肢がないんだ? そう思ったが、ひとつ思い当たることがあった。それは俺が魔素探知を覚えてから出会った人物で、かつ相手の魔素を認識している人物だということだ。


 なるほど、魔素を認識している相手ならば現在地が分かるのか。それなら、リーナスの魔素も認識できていれば、今どこにいるかも分かったはずなのだが。もっと早く魔素探知のスキルを覚えるべきだったな。地図を王都から北にスクロールさせてラーウォイ山までの道程を確認しながら、そんなことを思った。


 それよりも、せっかく地図が確認できるのなら、この世界の全体像も確認してみたい。そう思って王都が徐々に小さくなるように縮小していくと、この世界の全貌が明らかになった。どうやら、この世界は大きく分けて大小六つの大陸があるようで、この国はその中でも三番目に大きな大陸にある一国らしい。もっと詳しく調べてみたいところだけど、制限時間が迫ってきているし、ちょっと時間が惜しいので他のことを優先して調べることにした。


 先ほど、天気を検索してみたらこの世界の天気が表示された。そして、地図を検索してみたらこの世界の地図が表示された。ということは、この世界のことならなんでも調べられるのではないか。そう思って、検索窓に「闇魔法」を入力して検索してみたところ……前世でお世話になった某イラスト投稿サイトの百科事典が一番上に出てきたのだった。検索結果をスクロールしても、前世のゲームやアニメなどのサイトしか検索できなかった。


 だったら、なんで天気や地図はこの世界の情報なんだ? 魔法関連がダメなら、この国の歴史を調べてみてはどうだろう。「スティールド王国 歴史」で検索してみたところ、「条件に一致するデータが見つかりませんでした。他のキーワードを試してみてください」というテキストとともに、関連しそうな前世の世界に存在する国の歴史についてまとめられたサイトが候補に上がってきただけだった。


 どうやら、この世界の情報については検索しても明確な検索結果が得られないみたいだな。たぶん、この世界のことについてまとめられたサイトがネット上に存在しないからだと思う。だけど、そうなるとなんで天気と地図が見れるのかが気になるな。検索窓の下にあるリンクだけは特別なんだろうか? そう思って動画のリンクを選択する。


 うん、普通に検索内容に紐づいた前世の動画が見れるだけの機能のようだった。こっちは異世界関係ないんかい! などと思いつつ、動画サイトと繋がっているのは素直に嬉しい。これは前世で推していた配信者の動画が楽しめるのだから。グフフフ、YouTuberだけでなくVTuberの動画も見放題だ。などと喜んだのも束の間、制限時間の存在を思い出した。一時間じゃ全然足りないよぉ!


 その後もいろいろと試してみたものの、この世界のことについて、何ならば検索できるのかは結局分からず終いだった。ただ、カレンダー機能についてはこの世界のものが表示されるようで、今日の日付は王国暦百八十六年六月十七日と表示されていた。一か月の日数や曜日なんかも前世と変わらないようだ。もしかしたら、都合よく翻訳されているだけかもしれないが。しかし、思ったよりもこの国の歴史は浅いみたいだな。


 とりあえず、残り時間を使って今後お世話になりそうなウィキ◯ディアさんにアクセスできることを確認できたので良しとしよう。そんなことをしていたら、あっという間にタイムリミットが来てしまい、強制的にブラウザがシャットダウンさせられたのだった。


 このスキルの効果については皆には黙っておこうと思う。便利ではあるけれど、この世界で地図の価値がどれほどのものかは分からないし、特定の人物の所在が分かるというのもチート過ぎる機能だ。天気予報も、もしかしたらチートスキルになるかもしれない。今のところ使い道はいつ頃洗濯できそうかを判断するくらいしか思いつかないけど、なんとなく軍事利用できる可能性は秘めていると思う。


 まったく、とんでもないスキルを手に入れたもんだよな。だけど、手に入れたスキルは有効に活用しないと意味がないよな? 折角前世の知識が手に入ったんだ、再び知識チートを目指すというのも悪くないのでは? ただ、もう小金を稼ぐ必要はなくなったので、何をどう活かすかは俺次第なのかもしれないけど。


 そんなことを考えていたら、いつの間にか日が傾きつつあった。前世之知識は俺のスキルの中でもこれまで触れてこなかっただけに、どんな機能なのかと思ったが、想像以上のチートスキルだと思う。こんなスキルが以前は制限無しで使えていたのだ。何とも恐ろしいというか、ヤバかったな。いろんな意味で……。


 それからしばらく経った頃に師匠が起きてきた。その頃にはクリス先輩も屋敷に帰ってきており、夕食やらお風呂やらの準備を淡々とこなしていた。流石は屋敷の家事の一切を取り仕切るだけのことはあるなと感心しつつ、今夜はゆっくりと疲れを癒してほしいと思った。


 夕食は以前に比べて豪華というか、少し前進したというか、おかずが二品増えていた。ひとつは何かの野菜の根っこを茹でたもののようだったけど、一品増えた分だけ以前よりはマシかなというところだ。そして、もうひとつは先日の話の通り、燻製肉の薄切りだ。クリス先輩だけ、それが三枚あった。一枚は師匠がクリス先輩の活躍を認めた分、もう一枚は俺がクリス先輩を認めた分だ。いいと思う。


 どうせ俺は食べれないんだ。クリス先輩がその分食べて力をつけてくれるのならば、俺も言うことはない。師匠は塩分とかコレステロールの取り過ぎが良くないかもしれないし、燻製肉は一枚で十分かもしれない。


 ともかく。今宵の夕食はクリス先輩にとって楽しい時間だったようだ。それは燻製肉が二枚追加されたことだけが理由ではない。先の洗礼の儀で自分が役に立ったのだと師匠から認められたのが嬉しかったからだと思う。その様子を見ていて俺も微笑ましく思えた。


 その後、師匠とクリス先輩は久々にゆっくりとした時間を過ごし、夜を迎えると二人は深い眠りについた。師匠もぐうすかと天蓋付きの古びたベッドで寝ている。いや、師匠は少々寝過ぎじゃないだろうか。そして俺はいつも通りだけど、ひとり机の上でリーナスの到来を今か今かと待ち続けたのだった。


 結局、その日の内にリーナスが王都に戻って来ることはなかった。流石にラーウォイ山から王都までたった一日で到着するとは思わなかったけど、それでもいつ戻ってくるのかとドキドキはした。心臓もないはずなのに不思議だな。気を張り詰めていたはずなのに、精神的な疲れがないのは俺が人間ではなく片眼鏡だからだろうか。


 ともかく、いつの間にか日が昇り、次の朝が来た。だが、空にはどんよりと雲天が広がっており、昨日前世之知識で調べた通り、午後からは雨が降りそうな予感がする。たぶん、この予感は当たるのだろう。何せ、スキルによって予想されたことなのだから。


 リーナスの帰還と雨天が重なることに何か意味があるのかは分からないが、何にせよ面倒くさいことになるのだろうなと予想ができる。


 そんなことを思っていると、珍しく早朝から貴族街がざわめいた。うん、恐らくはリーナスだろう。彼はたったの一日半でラーウォイ山から王都まで戻ってきたのだ。恐らくは夜通し馬車を走らせたのだろう。馬の疲労が気になるけど、その辺はどうしたのかな? いや、そんなことよりも、こんな時間に貴族街を馬車で駆け抜けるなんて、検問所の門番に何と伝えたのか気になるな。




いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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