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第36話 潜入

 とはいえ、これで王城潜入作戦の概要は決まった。あとは、三人で残りの時間を思い思いに過ごすだけと思っていたが、一点気付いたことがあったので師匠に確認してみることにした。


『師匠、障壁通過の魔法を使うのは良いんだけど、王城内で魔法って使えるのか? 強力な対魔法結界が張られているっていう話じゃなかったっけ?』


「うむ、その通りじゃ。それ故、拠点移動をする前に魔法を掛けておく必要があるのう」


『なるほど。そういうことなら問題ないのか。あぁ、それから事前に掛かっていた魔法が王城内に入ったら対魔法結界によって突然無効化される、なんてことはないよな……?』


「それは……正直分からん。じゃが、可能性はないとは言えないのう。少なくとも儂が現役の頃は問題なかった」


『師匠が現役だった頃って、どんだけ前の話だよ。そんなんで本当に大丈夫なのか?』


「うむ、多少不安ではあるが他に方法が……あぁ、あるのう」


『あるのかよ!? それで、どんな方法なんだ!?』


「うむ、これは光魔法なんじゃが、反結界アンチバリアという魔法がある。様々な結界の影響を無効化する魔法でな、当然ながら王城内では許された者しか使用することはできん」


『そんなすごい魔法があるのか。禁忌の魔法とか禁止魔法というわけじゃないんだな?』


「別に反結界の魔法自体に犯罪性はないからのう。先ほども言った通り、王城内では許された者しか使用できんが。例えば、宮廷魔法師などがそうじゃ。つまり、王城に使用者の魔素が登録されている必要がある。もちろん、儂も登録されておる故、使用することは可能じゃ」


『なるほど、それじゃ師匠に反結界を使ってもらえれば問題ないな』


「そうじゃのう。じゃが、王城内で反結界を使用したら、記録に残るのが懸念点じゃな。あとで殿下にご迷惑をお掛けすることになるかもしれん。それに、理由なく魔法を使うことは宮廷魔法師としての評価に関わるからの、できれば使いたくないところなのじゃが……」


『じゃあさ、反結界の魔法もここで事前に掛けておく分には問題ないんじゃないか?』


「そうするしかないのう」


『なんなら、俺が詠唱代行しようか? 光魔法の練習にもなるし』


「ふむ。では、詠唱はユーマに任せることにしようかの」


『分かった、任せてくれよ』


「うむ、頼んだ。このことは殿下にもお伝えしておこう」


『そっちは頼むわ』


 師匠と二人で気になったことを確認していたら、やっぱり穴が見つかった。王城内のセキュリティを考えたら、普通に王城内で魔法の効果が打ち消されるくらいは想像がつく。訓練場内は問題ないかも知れないが、王城内に入ったら、突然姿も魔素も露わになる可能性がある。そんなことになったら大混乱だろう。


 そうならないためにも、事前に対策を考える必要があった。反結界という光魔法だけは王城内で許可された者ならば使用することができるらしい。といっても、光魔法が使える者に限られるそうだが。


 何故そんなことが認められているかというと、王城内で光魔法の使い手が魔法を使用しなければならないケースがあるためだ。確かに、王城内で誰かが怪我をしたときに回復魔法を使えないというのは問題かもしれない。もちろん、回復薬もあるのだろうが、回復手段は複数あるほうがいいに決まっている。


 ただ、王城内で魔法を使うと誰が何の魔法を使ったのか、魔道具か何かに記録が残るらしく、それを詳しく調べられると、王城にいないはずの師匠がいることがバレてしまう。トラブルに繋がるだろうし、理由もなく反結界の魔法を使ったというのも、師匠の経歴に傷がつく可能性がある。せっかく現役に復帰したばかりだというのにそういった面倒事に師匠を巻き込みたくはなかった。


 そんなわけで、結局は拠点移動する前に反結界を皆に掛けるという方法で対応することになった。その説明を師匠が姉弟子殿にした結果、無事に理解を得られたので、俺が拠点移動前に詠唱代行する魔法は全部で三つになった。闇魔法の魔素遮断と障壁通過に光魔法の反結界の三つだ。師匠は光魔法の防護結界と闇魔法の隠身のふたつだ。


 というか、あれ? 反結界の魔法を使うのなら、謁見の間とか姉弟子殿と会った部屋に直接拠点移動したらいいんじゃないかと思ったが、既に時刻は十時前。そろそろ作戦開始だ。今さら面倒なことを言っても混乱するだけかもしれないし、このことは黙っておこう。


「それでは、そろそろ向かうとするかの。ザンテ、クリス、ユーマ。準備は良いかの?」


「こちらは問題ございませんぞ」


「私も大丈夫です」


『こっちも問題ないぞ』


「ユーマも問題ないと申しておりますので、これより順に魔法を掛けていきますぞ?」


「うむ、よろしく頼む!」


「お師匠様、よろしくお願い致します」


「では、早速。光の守護結界よ、我らに降り注ぎ、防壁を築け! 防護結界プロテクションバリア!」


 師匠の詠唱とともに上空から床の下に向かって覆うように半球状の光の膜が師匠と姉弟子殿とクリス先輩の三人を包み込んだ。これで防御は完璧だと思ったが、はたして防護結界を張った状態で他の魔法を使えるのかと不安になる。念のため師匠に確認したところ、どうやら結界の中にいる分には問題がないらしい。ホッとした。


「続いて、闇の影よ、我らを包み、その姿を隠せ! 隠身インビジブル!」


 師匠が隠身の魔法を唱えると、漆黒のヴェールが三人の身体を包み込む。すると、三人の姿が影となり、そして景色に溶け込むように消えていった。あ、これって魔法を掛ける前に手を繋いでおいたほうがよかったのでは……。そう思ったのは皆も同じだったようで、慌てて声を掛け合いながら、手さぐりで互いの手を繋ぐことになった。姉弟子殿、師匠、クリス先輩と手を繋いでいる様子が魔素探知のおかげで分かる。


 三人が落ち着いたところで、次は俺が詠唱する番だな。


『それじゃあ、今度は俺が詠唱代行するぞ。闇魔法の魔素遮断、障壁通過、光魔法の反結界の順番でいくからな』


「これよりユーマが魔素遮断、障壁通過、反結界の順で魔法の詠唱を行いますぞ!」


『よし。それじゃあ、ひとつ目。闇の力よ、我らの魔素の波動を断ち切れ! 魔素遮断マナブロック!』


 俺がそう詠唱すると、師匠の杖の先から闇色のオーラが吹き出て姿の見えない三人の頭上から足元までをすっぽりと包み込む。そして、次第にそのオーラが体内に吸収されるように消えていくと、同時に三人の魔素も感じ取れなくなっていった。どうやら成功のようだが、姿も見えず、魔素も感知できない状態というのは、誰がどこにいるのかも把握できなくて不便だな。


『ふたつ目、いくぞ。闇の霧よ、我が身を溶かし、障壁を超越せよ!障壁通過スルーバリア!』


 師匠の姿も魔素も感じられないが、杖先から吹き出す魔力の動きは感じられる。師匠の杖の先に魔力が集まると、今度は闇色の霧が吹き出て三人の身体に降り掛かった。ただそれだけだったが、恐らくこれで問題ないはず。たぶんだけど。


 正直に言うと、障壁通過の魔法はありとあらゆる障壁を通過してしまって、この瞬間に二階の床から一階の床も通り越して、地面に落っこちるんじゃないかと心配していたのだけど、そのようなことはなかった。どうやら、意図した障壁に対してのみ効果があるようだ。これならば、二階の壁にもたれ掛かって無意識のうちに屋敷の外に飛び出る、などという心配もない。融通の利く魔法でよかった。


『それじゃあ、三つ目いくぞ。聖なる光よ、結界を消し去り、我らに自由を与えよ! 反結界アンチバリア!』


 今度は光魔法だ。清浄な空気をまとった眩く輝く白い光の柱が三人のいる場所に立ち上がると、それがふわりと身体にまとわりついた。これも成功したようだけど、反結界のせいで先に掛けた防護結界まで消し去ったりしないよね……? ちょっと不安になる。


 結果だけを言うと、防護結界については無事だった。


 これには流石にホッとしたけど、こうなることを師匠は知っていたのだろうか? もし知っていたのなら、事前に言ってほしかったな。せっかく師匠が掛けた防護結界を俺の反結界で無効化することになるんじゃないかとめっちゃ心配したじゃないか。


「ユーマの詠唱代行が終わりました。もちろん、すべての魔法が無事に行使されたことは、儂が把握しております。そろそろ時刻は十時になるところ。そろそろ拠点移動をしても良い頃合いかと」


「お互いに姿も見えず、魔素も感知できぬが、手の温もりだけで互いを感じるというのは何とも新鮮な体験よな。それ故に、準備が整ったことも肌身で感じ取っておる。私は問題ない、拠点移動を始めよ!」


「私も問題ありません!」


「殿下もクリスも問題ないと言うのでしたら、これより拠点移動を始めましょう。ユーマよ、すべては其方に掛かっておる。頼んだぞ」


『任された! それじゃあ、行くぜ? 闇の魔力よ、拠点への道を開き、我らをそこへ導け! 拠点移動ポイントシフト!』


 俺の詠唱によって、師匠の杖の先に再び魔力が集まる。それを感じ取りながら、闇色の光の膜が師匠を中心に姉弟子殿とクリス先輩を包み込むのを見ていた。といっても、姿は見えないのだけど。


 そんなことを考えていたら、早速視界がぐにゃぐにゃと曲がって、天地がひっくり返るような感覚が襲ってきた。拠点移動が始まったらしい。やっぱり慣れないな、これ。まるで、ゲームの旅の扉にでも飛び込んだかのような気分になる。


 そうして、しばらく気分の悪さと格闘していたら、視界が見たことのある風景に切り替わった。そう、先日バーシャに会った際に訪れた魔法師たちの訓練場だ。どうやら無事に拠点移動できたらしい。


 三人とも無事に拠点移動できたのかは全く分からないが、幸いまだ魔法の訓練は始まっておらず、魔法師たちも姿が見えない。


『魔法の訓練に巻き込まれなくてよかったな』


「うむ、まったくじゃのう」


 師匠の防護結界が役に立つことがなくてよかったよ。そうホッとしていたところ、魔法師たちが訓練場に集まってきた。お、バーシャの姿もあるな。隠身と魔素遮断の魔法が効いているおかげか、まだこちらに気付いた様子はない。


 まだ俺たちの存在がバレたわけではないが、いつまでもここに留まっているのも都合が悪い。さっさと外に出よう。


『師匠、そろそろ移動しよう』


「う、うむ。そうじゃの、うぇっぷ……」


 師匠が姉弟子殿とクリス先輩の手を引きながら、訓練場から外に出る。すると、無事に事前に掛けていた反結界が機能したようで、対魔法結界によって各種魔法が解かれるということは起こらなかった。


 そのことに安堵しつつ、このあとは姉弟子殿によって、国王の執務室に向かうことになっている。


『あとは姉弟子殿に任せるしかないな』


「うむ。殿下、あとは頼みましたぞ……?」


「任された。う、うぶっ……」


「早くここから離れましょう……おぇ……」


 吐き気に耐えながら、姉弟子殿が師匠とクリス先輩を先導して、王城の中を移動する。それをただ付いていくだけというのはもったいないので、折角だからとマッピングしてみた。


 訓練場は王城の中庭のようなところにあり、屋外の施設だ。それを眺められるようにか、四方をぐるりと取り囲むように壁があり、それぞれの方向にある窓から様子が見れるようになっていた。うん、魔法師の訓練場は中庭を取り潰して作ったと言ったほうがいいな。


 そして、そこから二階に上がると、先日姉弟子殿と面会した部屋があった。それをスルーしてさらに上の階へと向かう。すると、そこには謁見の間への入り口があるのだが、今回はスルーしてさらに奥へと進む。そうしてしばらく進んだ先に他の部屋の扉よりも威厳を感じる装飾が施された扉があり、その前には第一近衛騎士団と思わしき騎士が二人立っているのを見つけた。どうやらここが執務室らしい。


「……これより中に入るぞ」


 姉弟子殿が師匠とクリス先輩にだけ聞こえるかどうかという声量で呟くと、扉の隣にある壁に手を当てる。すると、壁にずぶりと埋まるように身体全体を壁の中に押し入れた。なるほど、これが障壁通過の魔法の効果か。しかし、これは壁の中からちゃんと出た状態で解除リリースしないと事故になるな。


 姉弟子殿につられるように、師匠とクリス先輩も壁を抜ける。するとそこには豪華というか、立派な漆黒の机があり、先日会ったばかりの国王と宰相がいた。幸いにも他に人はいないようで、話をするには好都合だ。とはいえ、俺たちは不法侵入者だ。どうやって二人に話し掛けるべきだろうか? そんなことを考えていたら、姉弟子殿がいきなり国王に話し掛けた。


「陛下、ただいま戻りました!」


 おいおいおいおいおい! 今は姿も魔素も隠した状態なんだから、国王と宰相が俺たちに気づくわけがないだろ! もし不審に思われて外にいる騎士を呼ばれたらどうする!? などと思っていたのだが、どうやら国王と宰相も少々おかしいらしく、姉弟子殿の言葉に対して普通に返事を返してきた。


「ライラよ、良く戻ってきたな」


「まずは姿を現しなさい」


 しかも、二人とも書類に視線を落としたままだ。姿も魔素も感知できないはずなのに、何故分かった!? もしかして、野生の勘か何かか!? 正直、信じられないのだが。それを気にすることもなく、姉弟子殿が二人に返事をすると、師匠と俺に魔法を解除リリースするように指示を出してきた。


「ザンテ、ユーマ、頼む!」


「はっ! 解除リリース!」


『はいよ、解除リリース!』


 師匠が魔法を解除したので、俺も三人に掛けていたすべての魔法を解除した。国王と宰相からは突然姉弟子殿、師匠、クリス先輩が手を繋いだ状態で姿を現したように見えたはずだ。それなのに、国王と宰相はまったく気にすることもなく書類を一頻り確認して、裁決の署名をしたあとに、ようやく顔を上げて迎えてくれたのだった。


「それで、洗礼の儀は無事に終えたのか?」


「もちろんです。紋章石も回収して参りました」


 ふむ。と一言口にして、国王が宰相に視線を送る。それを感じ取った宰相も顎に手をおきながら、はてという表情で問い質す。


「それにも関わらず、このような形で報告に来たということは、何か問題が起こったのですね? そして、普通に考えて馬車で往復六日は掛かる距離をたったの四日で戻って来た。しかも、御者役のリーナスがいない。一体何があったのか、説明してもらいましょうか」


「もちろんです。そのために急ぎ王都へと戻ってきたのです。洗礼の洞窟で何が起こったのか、詳しくご説明させて頂きたいと思います。申し訳ございませんが、少しばかりお時間を頂けますでしょうか」


「うむ、許す。詳しく話せ」


「私はお茶でも淹れましょう」


 こうして、俺たちは国王と宰相と会うことができた。そして、事態を察した二人から説明を促され、姉弟子殿から洗礼の洞窟で起こったことのすべてを説明してもらうことになった。もちろん、姉弟子殿が祠に籠もっていた間のことは師匠とクリス先輩から説明してもらうことになった。


 それはいいのだが、説明を聞けば聞くほどに国王と宰相の表情は険しいものになっていく。まぁ、当然だよな。何せ、自分の娘である第一王女が命を狙われたかもしれないんだから。そして、話が魔寄せの瞳や王族、貴族、近衛騎士団の裏切りに差し掛かった頃には、二人ともブチギレていたのだった。




いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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