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第32話 紋章石

『やっぱ、ダメかぁ……』


 恐らくは、ドロップアイテムである紋章石にも魔素は秘められているはずなのだが、それ以上に瓦礫に含まれた魔素が邪魔をしてノイズになっている。ということは、このノイズさえ除去キャンセルできれば、紋章石の魔素だけが浮かび上がるのでは……?


 うん、今日の俺は冴えてるな。早速魔素探知のスキルを応用できないかと試したところ、特定の魔素の反応をオフにできることが分かった。試しに、師匠とクリス先輩と姉弟子殿以外の魔素の探知をオフにしたら、見事に三人の魔素だけが反応した。魔素探知、かなり優秀なスキルだ。


『それじゃ、気を取り直して再挑戦だ!』


 岩巨人と岩人形の魔素反応、それから師匠とクリス先輩と姉弟子殿の魔素反応も一応オフにしてみる。ついでに瓦礫の山の中から紋章石を探しやすいように、視覚的に分かりやすくするために天気予報などで見かける降水量を三次元グラフにしたみたいに見えるように調整できないか試してみた。


 すると、見事に上手く設定することができ、紋章石が埋まっている瓦礫の地面から光の筋が伸びてきたのだ。紋章石に含まれた魔素の含有量によって差異があるのか、光の筋の長さや太さに違いがあるが、概ねどれも同じようなものばかりだった。その中で、一際太く長い光の筋が伸びているところが一か所だけ見つかった。


『やったぞ、成功した! 師匠、向こうにでかい反応があるぞ!』


「向こうって一体どこじゃ!?」


『そうか、師匠には見えないのか……。えっと、ほら岩巨人がいた辺りだな』


「ふむ、向かってみよう。クリスよ、紋章石を探すぞ!」


「分かりました。しかし、この中から探し出すのは大変ですね……」


「それがの、どうやらユーマが魔素探知を使って探し出せたらしい」


「ユーマが? 本当ですか?」


「うむ、儂も信じられんがどうやら岩巨人がいたところに大きな反応があるそうじゃ」


「なるほど……。わかりました、探してみましょう」


 こうして師匠とクリス先輩と一緒に岩巨人が倒れたところに向かった。そこへと向かう間にも小さな反応はあるが、まずは一番大きな反応を確認してみようということで、一旦他のものはスルーする。


 そうして暫らく瓦礫の上をえっちらおっちらと歩いて行くと、ようやく目的地に辿り着いた。そこには直系二十メートル、深さ十メートルほどのクレーターができており、そこを埋めるようにたくさんの瓦礫が積み重なっているような状態だった。その中心地から魔素の反応が出ている。


『どうやらこの瓦礫の中に埋もれているみたいだな』


「ふむ、まずはこの瓦礫を何とかせねばならないか」


「お師匠様、どうなさいますか?」


「そうじゃな、まずは風魔法で瓦礫を退けてみるかのう……」


「では、その間に私は土魔法でこの穴に階段を作りましょう」


 紋章石を探すにはやはりこの瓦礫の山を何とかするしかない。師匠が早速風魔法で小さな竜巻を創り出すと、瓦礫の中から軽い岩や石の欠片が巻き上がり、それがクレーターの外へと移動したところで竜巻が消滅した。そのあとには巻き上がった軽い岩や石の欠片が舞い落ちた。


 それを何度か繰り返していくうちに、クレーターの中に積もっていた瓦礫の山が小さくなっていく。それに合わせるかのように、クリス先輩がクレーターの中へと降りられるように土魔法で階段を創り上げていき、瞬く間に底まで降りれるようになった。


 改めて魔素探知で反応を調べるが、間違いなくまだクレーターの中に紋章石はあるようだ。よし、あとはクレーターの底に降りて、手作業で探すしかないな。


『師匠、紋章石はこのクレーターの底にありそうだ』


「よし、ならば早速降りてみようかの」


「念のため、私が先に降りますね」


 そう言って、クリス先輩を先頭に、師匠が続いて階段を降りていく。クリス先輩がしっかりと歩きやすい幅の階段を作ってくれたおかげで、非常に安定感がある。多分、階段を作る際に周りの補強もしてくれているのだろう。そんなことを思いながら、無事にクレーターの底へと降りてきたわけだが、これはいささか困ったことになったぞ。


 というのも、殲滅級魔法のせいか、幾つもの岩の欠片がところどころで溶けあい、ひとつの大きな塊になっているのだ。これでは紋章石を見つけることは難しいかも知れないし、見つけられたとしても無傷で取り出すことができるか分からないな。しかし、紋章石の反応はこの中から発せられているようだし、何とかするしかない。


『師匠、どうやらこの岩の塊の中から反応がある』


「それはまた面倒じゃな……。クリスよ、この岩の塊の中に紋章石があるそうじゃ」


「そういうことでしたら、魔法で何とかするしかないですね」


『何か方法はあるのか?』


「これは……ひとつずつ岩の欠片を取り除いていくしかありませんね」


 そう言うと、クリス先輩が岩に触れた。すると、瞬く間に岩の塊が砂のように細かくなって崩れ落ちた。


『うわ、なんだこれ!? クリス先輩は何をやったんだ!?』


「うむ、土魔法でこれらの岩石が持つ性質を砂のように脆く変化させたのじゃ」


『そんなことができるのか!?』


「水魔法でも水の性質を変えて氷を創り出すことができるじゃろう? それと原理は同じじゃな」


『なるほど……そう言われると納得できたけど、魔法ってなんでもありだな』


 あぁ、そういえば先ほどクレーターに土魔法を使って階段を作ってたじゃないか。あれも、本来クレーターの表面なんて細かく砕かれた岩や石の破片に大量の砂しかなかったはず。それを階段のように踏んでも崩れないほどの硬い岩のように変化させたのだから、逆もできるのは当然か。なるほど、魔法ってやっぱり便利だな。


 そうして、クリス先輩が溶けあっていた岩の欠片を次々に砂に変えていった結果、最後に残った欠片の中に埋まるようにして紋章石が見つかった。通常の紋章石は小指の先ほどの大きさと聞いていたが、こいつは親指の先よりも遥かに大きく、五センチぐらいの大きさがあった。鮮やかな黄色の石の中に、艶のある黒色の縦のラインが数本入っており、その周囲は透き通った青色の縁で飾られていた。なるほど、これが王家の紋章か……。


「殿下から聞いていたよりも、随分と大きいですね」


「うむ、恐らく岩人形が岩巨人となったことで紋章石も大きくなったのかもしれん」


『とりあえず、これがあれば他にも散らばっている紋章石を探せるな!』


「これひとつで十分ではないか?」


『いやいや、どうせなら全部拾って帰らない?』


「それでは、殿下の洗礼の儀が終わるまでの間、紋章石を集めるというのはどうでしょう?」


『流石、クリス先輩! 話が分かる!』


 ということで、俺は紋章石を探し集めるのに役に立ちそうな二つの魔法の詠唱を思い出していた。


 ひとつ目は先ほど使用しなかった特定のアイテムを探す魔法だ。最初は紋章石がどのようなものなのかはっきりと分からなかったし、魔素の性質も分かっていなかったが、一度手にしてしまえばこっちのものだ。現状は俺の魔素探知でしか知り得ることができない紋章石のありかを二人にも知ってもらうには役立ちそうだと思った。


 そしてふたつ目の魔法が、特定の物質を手元に取り寄せることができる魔法だ。これは素材の採取などを楽に行いたいという魔法師が考案した魔法なのだそうだが、素材の採取などは冒険者がやることで、魔法師は国のお抱えになることのほうが圧倒的に多いことから、使われる機会がほとんどないマイナーな魔法のようだ。


 どちらの魔法も師匠の部屋の本棚で埃を被った魔法書の中に簡単に紹介されていただけで、師匠も忘れていた魔法だった。属性が闇というのも使い手が少ない理由かもしれない。


『師匠、魔法をふたつほど使わせてくれ!』


「ふむ、別に構わんが」


『ありがとう、師匠! それでは早速。隠された宝よ、我が呼び声に応え、その在りかを示せ! 秘宝探索トレジャーハント!』


 俺が詠唱すると、師匠が魔法を行使する。すると、秘宝探索の魔法が闇色を帯びた光の膜となって師匠を中心に部屋全体へと広がると、紋章石が隠された位置だけがポワッと光を帯びた点となって浮かび上がった。うん、俺の魔素探知とも合致するので間違いなく、紋章石の位置だと言える。


「なるほど、秘宝探索か。確かに便利じゃのう」


『初めて試したんだけど、上手くいってよかったぜ!』


 初めての魔法を詠唱するときは、やはり緊張するな。紋章石が無事『宝』として認識されてホッとしたよ。これで、ただの石ころ扱いだったら、俺の魔素探知で師匠とクリス先輩に指示を出して集めてもらうことになるところだった。


 しかし、この魔法はかなり使える気がする。例えば、金貨や銀貨とか、宝石の類に秘められた魔素を覚えておけば、本当にトレジャーハントができそうだ。まったく便利な魔法を覚えたものだ。


『さて、ふたつ目の魔法も行くぞ! 隠された素材よ、我が呼び声に応え、我のもとに集え! 採取召喚コレクションサモン!』


 再び俺の詠唱をもとに師匠が魔法を行使すると、再び闇色の光の膜が師匠を中心に部屋全体へと広がっていく。そして、その途中途中に点在していた紋章石の反応が瞬く間に消える。それと同時に師匠の足元にコロンと落ちた。その現象が光の膜が部屋全体へと広がる間に次々と起こり、光の膜が消え去った頃にはすべての紋章石が集まっていた。


 秘宝探索と採取召喚のコンボ、最強すぎるだろう。闇魔法、俺も覚えたくなってきたが、俺には魔法のスキルがないので、師匠に頼るしかないんだよなぁ。何とか自力で覚えたいところなのだが。まぁ、魔法の詠唱を練習していけば、いつか魔法を覚えられるかもしれないし、精進あるのみだな。


「こんなに簡単に集まるとはのう……」


「もしかして、今の魔法は闇魔法ですか?」


「うむ、ユーマが詠唱したのじゃ。秘宝探索と採取召喚じゃな」


「なるほど、冒険者ならば垂涎の魔法ですね」


「そうじゃのう、儂ももう少しばかり若ければ冒険者として活躍できたかもしれぬな」


「とりあえず、こちらの大量の紋章石は荷運び役の私が責任をもってお預かり致しますね」


 師匠の言葉を華麗にスルーして、クリス先輩が師匠の足元に集まった大量の紋章石をマジックバッグへと仕舞っていく。その数は……軽く見積もって二百個くらいはあるだろうか。その中で最も大きいのが、岩巨人から取れた五センチサイズの紋章石だ。この大きさがあれば国王と宰相も満足してくれるだろう。


「あれ、これは……?」


 師匠の足元に集まった紋章石を黙々とマジックバッグに仕舞っていたクリス先輩が急に声を上げた。何かあったのかと思って見てみると、錆びついた細い鎖がついた血のように赤い宝玉を手にしていた。宝玉にはまるで瞳孔のような黒い模様が施されており、何ともいえない禍々しさを感じる。


「ふむ、魔寄せの瞳じゃな。なるほど、そういうことか……」


『なんかヤバそうな名前だけど、一体何なの?』


「うむ、これは魔物を呼び寄せる効果を持つ魔道具でな、特定の場所に魔物を集めたいときに使うものじゃ」


「何故そんな魔道具がこんなところにあったのでしょうか?」


「恐らくは前回の洗礼の儀で使われたものが壊れずに残っていたのじゃろう。そして、その魔道具の効果で岩人形たちがひとつに集まり、岩巨人に化けた可能性が考えられる」


『前回の洗礼の儀っていうと……』


「恐らくは昨年のカロード王子の時じゃろうな」


「ですが、お師匠様。昨年の洗礼の儀にはリーナス様が護衛役に選ばれていたと思うのですが、このような魔道具を使用するほど苦戦したと言う話は聞いたことがありません」


「うむ。洗礼の儀に赴いたカロード王子に魔物をまったく寄せ付けることなく、見事に守り抜いた若き英雄。それが、昨年の洗礼の儀でリーナス殿が得た世間の評価じゃからのう」


『ということは、昨年の洗礼の儀の落とし物か何かか?』


「ユーマの言う通り、ただの落とし物という可能性も考えられるが、使用しない魔道具をわざわざマジックバッグから取り出すことなどあるじゃろうか?」


『もしかして、リーナスが姉弟子殿の洗礼の儀を邪魔するために、わざと魔道具を置いていったのか?』


「それは分からん。だが、第二近衛騎士団としても護衛役を見事に務めたという成果を示したかったじゃろうし、それ故に魔道具の使用については表立って伝えられなかったという可能性も考えられる」


「それに、昨年の洗礼の儀でリーナス様が魔道具を使ったとしても、殿下の洗礼の儀に合わせて都合よく今回の事態が起こると予想できるものでしょうか? 計画するにしても不確定要素が多過ぎます」


「そうじゃのう。一年近く前に仕込んだ罠がちゃんと発動したかくらいは流石に確かめるじゃろう。そのためにはこの洗礼の洞窟の中に入る必要がある。じゃが、洞窟の入り口に掛かっていた鍵や鎖にはおかしなところはなかったはずじゃ」


「確かに。この洗礼の洞窟に頻繁に出入りする者がいたのでしたら、もっとスムーズに鍵が開いたでしょうね。それに、そもそもこの洞窟の鍵は王家が管理しています。流石に殿下を狙う者が身内にいるとは思えませんが、まさか……!?」


「うむ、そのまさかもあり得るのではないかと考えておる。流石に不審な点が多過ぎるからのう……」


『どういうことだ?』


「本来、王子や王女は第二近衛騎士団を中心に家臣団を形成することが多いです。それを殿下は嫌って独自の家臣団を作ろうと考えておられます。その結果、お師匠様が宮廷魔法師に復帰し、この護衛役を見事に務め上げれば専属の魔法師となられる。第二近衛騎士団にとっては面白くないでしょう」


「そして第二近衛騎士団の後ろには貴族が控えておる。何せ、どこの近衛騎士団も貴族の子息らで構成されておるからな。では、貴族の後ろには誰が控えている? そう、王族じゃ。今回の件には王族が関係しておるのじゃろう。儂が護衛役となったことをこれ幸いと殿下の御命を狙ってきているのじゃ」


「つまり、第二近衛騎士団だけでなく、その後ろにいる貴族と王族。どちらも殿下を次期国王にしたくない連中が仕掛けてきた可能性も考えられますね。例えば、カロード王子を推す一派とか、王兄であられるドリージア公爵辺りでしょうか……」


『師匠とクリス先輩の話を聞いていると、姉弟子殿の周りって敵だらけじゃないか!? 第二近衛騎士団も敵かもしれないってことは、元団長のリーナスも怪しいってことか!?』


「そういうことじゃ。じゃからこそ、儂らがしっかりと殿下をお守りせねばならん」


『こりゃあ、何が何でも姉弟子殿を王城まで無事に送り届けないといけないな。腕が鳴るぜ! まぁ、俺には腕なんてないんだけどな!』


 ともかく、師匠とクリス先輩の話を聞いていると、何だか不穏な空気が流れ始めたのは間違いないだろう。本当にこの国は大丈夫なのかと心配になるが、まずは姉弟子殿をしっかりと守って王城まで無事に送り届けないといけない。


 しかし、味方だと思っていたリーナスが敵かもしれないと考えると、帰りの道中が不安になる。まさか闇討ちされたりしないだろうな? だが、可能性は十分に考えられるし、用心するに越したことはない。念のため、以前師匠が使っていた防護結界の詠唱を練習しておくか。


 そんなことを話していると、どうやら一時間近く経っていたようで、祠から姉弟子殿が出てきたようだ。しかし、外の景色のあまりの惨状に驚き戸惑っているように見える。あとでいろいろ説明を求められそうだな。


 そうして、恐らくは魔力感知をつかったのだろう。師匠とクリス先輩を見つけると、すぐにこちらへと向かってきた。だが、足元は瓦礫のせいでめちゃくちゃに荒れていることもあり、こちらに到着するまでにはもう少し時間がかかりそうだ。


 師匠とクリス先輩も姉弟子殿の姿を見つけて、お互いに手を振りあう。すると、閉ざされていた大扉が再びスゥーッと消えてなくなり、俺たちは再び部屋の外へと出られるようになったのだった。




いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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