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第23話 敵襲

 師匠と第二近衛騎士団の騎士で『魔法師殺し』の異名を持つイネス・ジーンとの模擬試合は、なんだかんだあった末に、何とか師匠が勝利した。本当は『無事に勝利した』と言いたいところだけど、脇腹に木剣が撃ち込まれた挙げ句、舞台に転がることになったので、無事だったなどとは言えない。


 それでも勝利は勝利だ。そこに上も下もない。これで、姉弟子殿の洗礼の儀の護衛役には師匠が選ばれるはずだ。あとは国王による任命を待つだけ、そう思っていたのだが、ミラクー伯が先ほどの模擬試合に難癖を付けてきたのだ。こいつ、マジでなんなの?


「先ほどの試合の結果に異議がございます! そこの魔法師は魔法以外にも、『魔力剣』などという未知なる技を使いましたが、我らが許可したのは魔法の使用あり、使用する位階の制限なしという二点のみでございますぞ? 本来であれば、最初の一撃で騎士イネスが勝利していたはず。陛下に改めて御裁定頂きたく存じます!」


『はぁ!? 何を言ってんだ、こいつ!?』


「そういう意見も出ると思っていたがの」


「確かに、お師匠様の使われた魔力剣は正確には魔法とは言えないかもしれませんが、属性の付く魔法に至る前の魔力で武器をコーティングしただけなのですから、無属性の魔法を使ったと言うこともできるはずです!」


『クリス先輩の言う通りだ! その案で説明しよう!』


「うむ!」


 クリス先輩の言葉に師匠と賛同していたしていたら、国王が闘技場にいたバーシャを呼び寄せた。バーシャは観客席に残っていたので、すぐに騎士に案内されて、国王のいる席に呼ばれるとすぐに跪いて頭を下げた。どうやら、国王はバーシャに見解を求めるらしい。


「宮廷魔法師長としては、どのように考えておる?」


「はっ。私も初めて見ましたが、魔力剣とは即ち魔法となる直前の魔力により物質を強化する『魔法』の一種かと思います。恐らく、魔素枯れとなり十分な魔力を創り出せなくなった父上が少ない魔素でも戦えるようにと独自に編み出した『新魔法』ではないかと……」


「うむ。ザンテよ、バーシャの意見に相違ないか?」


「はい、これは儂が新たに編み出した魔法の一種です。先ほどのものはただ魔力を宿しただけで枝の強度を高めるだけの効果しかありませんでしたが、魔力に属性を持たせるとこの通り!」


 そう言って、師匠が枝に氷の冷気を纏わせると、凍てつく氷の刃が枝の先からぐんぐんと伸びていき、一本の氷の剣へと姿を変えた。これって、ゲームとかによくある魔法剣というやつじゃないか!?


 立派に育った氷の魔法剣だが、爺さんの腕力では重すぎたのか、途中で舞台の床の上に落としてしまった。だが、それは逆に魔法剣の威力を示すことになり、床に振り下ろされた氷の刃が床にざくりと突き刺さると、そこを起点に半径二メートルぐらいが氷によってピシリと凍てつき、霜が降りたのだった。


 その様子を見て、観客席にいた貴族、魔法師、騎士が揃って「ほぉ」という感嘆の声を上げた。因みに俺も驚いて『おぉ!』と思わず声を上げてしまった。しかし、師匠もクリス先輩も氷の刃が床に刺さった影響で靴が地面にくっついてしまっている。これは早急に解除しないといけないな。


「父上、今見せて頂いた氷の属性を持つ魔力剣は詠唱がなかったように思いますが?」


「うむ。今使ったのは初級魔法での、儂は初級魔法であれば無詠唱を使うことができるのじゃ」


 バーシャの質問を受けて、師匠が答える。その言葉に再び観客席から「おぉ」「なんと」「素晴らしい」などという驚きの声が沸き起こった。どうやら、この世界では魔法を使うには詠唱が必要のようだが、それを省略できる無詠唱というのは非常に珍しいことのようだった。まぁ、これは師匠の努力の賜物だろう。


「流石は、大賢者ダンサの息子ということか……!」


「魔力剣なる新魔法まで開発してしまうとは恐れ入ったわ」


「あの魔力剣、初級魔法を使える騎士にも扱えるかもしれぬな」


「是非我が騎士団にご指導頂きたいな。あとで相談してみるか」


「あ、お前抜け駆けするな! うちの騎士団もお願いしよう!」


 どうやら、魔力剣は貴族や魔法師だけでなく、騎士からも評判がいいらしい。騎士の中には初級魔法を使える者もいるそうだし、そもそも属性を持つスキルがなくとも魔力を流すだけで武器の強度を高められるのだから、彼らにとってこれほど便利な魔法はないだろう。


 これ、もしかしてこの国の戦力に革命を起こすことになるんじゃない……?


「うむ。ザンテよ、其方の努力により新魔法を開発したこと、誠に見事である。この新魔法は我が国の戦力を大きく向上させるだけでなく、今後の我が国の未来に新たな道筋を切り拓く可能性を大いに秘めたものだ。其方は宮廷魔法師長のバーシャと協力してこの魔法の理論をまとめあげ、完成させよ。そして、騎士団への指導を頼む」


「ははっ、承知致しました!」


 師匠がその場に跪いて頭を下げた。隣ではクリス先輩も慌てて一緒に跪いて頭を下げる。バーシャも深々と頭を下げて、国王からの命令を承っていた。


 師匠、お仕事がどんどん詰まれていくな。


 今朝まで細々と暮らす引退した魔法師だったと言われても信じられないかもしれない。というか、今日一日でいろんなことが起こり過ぎているだろ。一体誰のせいだ!? 俺のせいじゃないか、やだー。


 ところで、今放置されている人がいるの覚えてる? そう、ミラクー伯だ。今、魔力剣は新魔法という認識で、皆に受け入れられている。今さら「あれは魔法ではない!」などと言っても、誰もその意見を支持してくれないだろう。それが分かっているからか、ミラクー伯は何も口を出さない。


「そういうわけだ、ミラクー伯。其方の言い分は聞き入れられぬ。この度の宮廷魔法師ザンテ・ノーザと近衛騎士イネス・ジーンの模擬試合、ザンテ・ノーザの勝利である。これにより、ライラの洗礼の儀の護衛役はザンテ・ノーザとすることを認める! 以上だ」


「これにて模擬試合及び、ザンテ・ノーザ殿の宮廷魔法師への任命式を終了と致します。お集まり頂いた皆様は速やかに闘技場から退出し、通常業務に戻るようにお願いしますね」


 国王の言葉によって、ようやく模擬試合が師匠の勝利と確定した。これでもうミラクー伯は何も言えまい。ざまぁみろ、と正直思ってしまう。ともかく、彼らは今回の件で評価は落ちたな。姉弟子殿を国王にと推す勢力も少しは落ち着いたりするのだろうか。


 そう思った瞬間、何か嫌なものを俺の視界が捉えた。俺の視野角が広いせいで見たくないものまで見れてしまうのだが、闘技場の陰に鈍く輝く何かを見つけた。あれは……矢だ! まっすぐに師匠を狙っている。これは拙いぞ!


『師匠、すぐに結界か障壁を作る魔法を唱えてくれ! 何者かに背後から矢で狙われている!』


「なんじゃと!?」


「お師匠様どうされましたか?」


「説明しておる時間がない! 光の守護結界よ、我らに降り注ぎ、防壁を築け! 防護結界プロテクションバリア!」


 師匠が魔法を唱えると、舞台の下から上空に向かって覆うように半球状の光の膜がじわじわと広がっていく。それを見て慌てたのか、先ほど見つけた矢が放たれた。それも一本だけではない。瞬く間に二本、三本と次々に舞台に降り注いだ。


 だが、師匠の魔法が間に合ったおかげで、矢が俺たちに届くことはなかった。光の膜に当たった矢がカラカラと舞台の下に落ちる。矢の先に何やら黒い液体が付いているな……もしかして、毒か!?


 何者かは分からないが、相手は本気で師匠を殺しに来ているらしい。命を狙われる怖さが俄に襲ってきた。


「敵襲! 敵襲!」


「各衛騎士団は陛下と殿下をお守りせよ!」


「賊を決して逃すな! 全員生かして捕らえよ!」


「「「はっ!」」」


 騎士たちが慌ただしく駆けていく。それを俺たちは見守るしかできなかった。いや、もしかしたら、師匠の魔法ならば何か手伝うことはできるかもしれないけれど……。と思ったところで、背中に冷や汗が流れるような感覚に襲われた。これ、師匠じゃなくて国王と姉弟子殿が狙われていたら、どえらい事件になってたんじゃないか……?


 ということは、真っ先に防護結界を張るべきは国王と姉弟子殿、そして宰相がいる貴賓席だったのでは……。こう考えるのもなんだが、向こうの狙いが師匠で良かったかもしれない。ただ、王女の洗礼の儀の護衛役を任されたばかりだというのに、これは少々失敗したかもしれないな。何か言い訳を考えておいたほうがいいかも。


 そんなことを考えていると、瞬く間に賊は討ち取られたようで、黒尽くめの男が騎士たちに捕らえられて舞台の前に連れられてきた。師匠も事態が落ち着いたとみて、防護結界を解除した。


 ふぅ、やれやれか。と思って周りを見渡したら、あいつらがいなくなっている。誰かって、ミラクー伯と取り巻きの二人の貴族だ。いつの間に避難したんだろう? そう思っていたら、リーナスとイネスがミラクー伯と二人の貴族を縄でぐるぐるに縛り上げて舞台の上に連れてきた。えっと、一体何があったの?


「陛下! 先ほどの騒ぎはミラクー伯が暗殺者を雇い、ザンテ殿を暗殺しようとした疑いがあります!」


「陛下! 私は何もやっておりません! まったくの無実でございます! この者たちが嘘を吐いているのです!」


 イネスの言葉をミラクー伯が否定する。そのやり取りを聞いていた貴族たちがざわざわと騒ぎ出した。俺もどういうことなのかと戸惑うばかりだ。師匠とクリス先輩も驚いている。


「騎士イネスよ、何か証拠はあるのか?」


「証拠ならば、ここにあります!」


 そう言って、腰に下げた袋から筒状に丸められた紙束を取り出してそれを天に掲げたのはイネスの隣にいたリーナスだった。


「陛下、ミラクー伯を捕えたのは今回の件だけが理由ではございません。ミラクー伯は第二近衛騎士団を乗っ取ろうとしていたのです!」


「な、なんだと!?」


「それは本当ですか!?」


『どういうこと!?』


 国王と宰相が驚きの声を上げる。俺だってそうだ。一体何を言っているのかと、声を上げたのは国王や宰相だけではないだろう。


「本当です。それらの証拠もこちらに揃っております!」


「それが真実であれば大問題だ。証拠の品を提出せよ!」


「はっ!」


 リーナスが紙束を持って国王のもとへと駆けて行った。イネスはミラクー伯たち三人を見張っている。観客席にいる貴族や魔法師、それに騎士は事態の成り行きを静かに見守っていた。


 しかし、本当に訳が分からないな。


 師匠を暗殺しようとしたのは、多分姉弟子殿の洗礼の儀の護衛役につかせたくなかったからとしか考えられない。イネスが敗れた際の保険として暗殺者を雇ったというところか。しかし、何故そんなに姉弟子殿の護衛役を第二近衛騎士団にさせたかったのだろう?


 第二近衛騎士団を乗っ取ろうとしていたというのも理由が分からない。まぁ、自分の言うことを聞く戦力を持つというのは何かと都合がいいのかもしれないが、第二近衛騎士団は王子や王女の護衛と雑用。それを乗っ取ったところで旨味があるようには思えないのだが。


 そして、それらをミラクー伯がやろうとしていたという証拠をリーナスは手に入れたと言っていたが、一体どうやって手に入れたというのだろうか? そんなの、普通は厳重に管理しているか、早々に跡形も残らないよう始末しているものだと思うんだけど。


「ま、待て! 貴様の母親がどうなってもいいのかっ!?」


 突然貴族の一人がそう叫んだ。母親って何のことだ? 皆が不思議そうに貴族の一人に視線を送ると、彼は「しまった」という様子で顔を背ける。隣のミラクー伯の表情が険しくなった。というか、額に血管が浮き出てないか? どうやらお怒りのご様子だ。それに気づいてアワアワとする貴族。


 もしかして、自爆したのか? そう思っていたら、リーナスが国王の下に到着し、その場で跪いて紙の束を差し出した。


 それを宰相が受け取り、内容に目を通していく。すると、宰相が驚愕した様子でリーナスとミラクー伯に視線を行き来させた。一体何が書かれていたのだろうか。国王と姉弟子殿も内容が気になっているようで、その内容を見たそうにしている。


「ここに書かれていることは真実ですか?」


「はっ!」


「もっと早く相談してくれれば良かったのですが……」


「誰かに知らせれば、母の命がないと脅されてしまい……誠に申し訳ございません……!」


 はぁ、と息を吐き出して、宰相がリーナスから受け取った紙束を国王に手渡す。それを隣から姉弟子殿が覗き込む。紙を一枚、二枚、三枚と読み進めるうちに、国王の表情には怒りとも憤りとも知れない感情が溢れ出ているようだった。それは姉弟子殿も同じのようで声には出さないが、先ほどから目が吊り上がっているように見える。


「……リーナスよ。余からも確認するが、これは誠のことか?」


「はっ!」


「ふむ……。第一騎士団のヘリオスはおるか!」


「はっ、ここに!」


「第一騎士団に命ずる。ミラクー伯、そしてガスター男爵、ノブリー騎士爵の三名を捕らえよ。王家への謀反の疑いがある!」


「はっ!」


 第一騎士団のヘリオスという騎士が騎士をぞろぞろと率いて舞台の上までやって来た。彼らの手には使い古された木製の手枷があり、恐らくこれをミラクー伯たちに嵌めるつもりなのだろう。


 ヘリオスはイネスからミラクー伯たちを縛っている縄を受け取ると、流れるような手捌きで、あれよあれよという間に手枷を嵌めていった。手枷には鉄の鎖が繋がっているせいで、彼らが動くたびにジャラジャラという音が重苦しく響く。


「陛下、これは何かの間違いです!」


「そ、そうです! 我らにやましいことなど何もありません!」


「これは濡れ衣です、そこのリーナスに騙されているのですっ!」


 ミラクー伯がそう叫ぶと、皆の注目がリーナスに集まる。リーナスが汚物を見るような目で、ミラクー伯を見下ろすと、すっと手を上げた。何かの合図だろうか、と思っていたら、騎士がひとりの婦人を連れて闘技場の中へとやってきた。一体誰だ?




いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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