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第20話 謁見

『これで師匠の現役復帰は確実だな。おめでとう』


「よせ、すべてはユーマのおかげじゃ。こちらこそ礼を言う」


『とはいえ、なんだかよく分からない事態に巻き込まれたな?』


「うむ。じゃが、これも試練と受け止めて、向き合うしかない」


『そうだな。その試練を受けるためにも、まずは謁見の間での任命式に臨まなければならないわけか。師匠もクリス先輩も大変だな』


「何を言う、ユーマも一緒に参加するのじゃぞ?」


『まぁ、俺はただの片眼鏡だし。師匠とクリス先輩、それに姉弟子殿の三人の活躍を見守ってるよ』


「仕方がないのう……」


「何をブツブツ言っているのじゃ。ユーマが何か申しておるのか?」


「はい。これから任命式に臨むというのに、ユーマは参加せずに儂らを見守っているなどと言いましてな……」


「なるほど。じゃが、ユーマはそのような姿じゃ。ザンテとともに任命式に参加することになろう。それに、面白いことが起こるかもしれんぞ……クフフフフ」


『面白いことって、一体何なんだ?』


「さての。じゃが、殿下があのように笑う場合は大抵良からぬことが起こるものじゃ。そして、儂らはそれを受け入れるしかない」


「まぁ、今さら考えても仕方がありません。それよりも任命式ですよ。お師匠様の服装に失礼がないか、改めて確認が必要です!」


 うーん。姉弟子殿の言う「面白いこと」が一体何なのか分からないが、少しだけ見てみたい気持ちは湧いてきたかな。どうせ、師匠と行動をともにしなければいけないのだし、もう少しくらい付き合うか。


 任命式まであまり時間は残っていないらしく、姉弟子殿も着替えがあるとかで慌ただしく部屋から出ていった。残っているのは師匠とクリス先輩の二人のみだ。その二人が王城に着てきた服装についてあーでもないこーでもないと今さら言い合っている。とはいえ、何か問題があっても着替えの服など持ってきてないので、このまま出席するしかないんだけどな。


 それから三十分ほど過ぎた頃に姉弟子殿が部屋に戻ってきた。先ほど着ていたドレスよりも厳かできらびやかな衣装に着替えている。マンガやアニメに出てきそうな王子様の服装のようにも見えるし、乗馬用の服装にも見える。所謂パンツルックというやつだな。これがこの国の正装なのか?


「待たせたな!」


「いえ、こちらも今支度が整ったところです」


「ならば、そろそろ向かうとしよう」


 そう言って、姉弟子殿の後ろに師匠、そしてクリス先輩が続いて部屋から出ていった。見た通り、王女様ご一行だ。皆の者、控えおろう! 行く先々で出会う全員がこちらに向かって頭を下げるので、ついつい何処かの御老公にでもなったのかと勘違いしてしまいそうになる。


 そうして、王女様ご一行は無事に目的地に着いた。目の前には一際大きな両開きの扉があり、その前には騎士が二人立っていた。ここが謁見の間なのだろう。姉弟子殿が騎士に話しかける。


「これより陛下に謁見する。扉を開けよ!」


「ははっ!」


「これよりライラ王女殿下が陛下に謁見されます! 皆様、どうか頭をお下げになってお迎え下さい!」


 騎士の二人が大きな声を上げると、見るからに重そうな謁見の間の扉をズズズっと開いて、姉弟子殿と師匠とクリス先輩の三人を部屋の中へと誘導した。中に入ってみると、そこには貴族と思われる小綺麗な服装に身を包んだおっさんたちが中央の通路を挟んで左右に控えていた。皆頭を下げている。これは姉弟子殿に対するものだろう。


 それを横目に見ながら、姉弟子殿が師匠とクリス先輩を引き連れてずんずんと部屋の奥へと進む。正面には大きな玉座があり、そこには国王が座っていた。隣には宰相が控えている。二人の目の前まで進むと、そこで姉弟子殿を中心に揃って並び、その場で一斉に跪いて頭を下げた。


「陛下のご命令に従い、王女ライラが参上致しました!」


「うむ、よく来たな。皆の者、表を上げよ」


「はっ!」


「ライラよ。其方が元宮廷魔法師であるザンテ・ノーザを現役の魔法師に復帰させ、専属の魔法師としたいというのは真か?」


 国王の言葉に謁見の間が俄にざわめきだした。師匠の名前を聞いて驚いたのだろうか。それとも、姉弟子殿が専属の魔法師を雇うことに驚いたのだろうか。恐らくはその両方だろう。そして、姉弟子殿の隣にいる老人がザンテ・ノーザだと気づいたのだと思う。


「はい、その通りです。このザンテは過去に魔素を失い、宮廷魔法師の職を辞することになりました。ですが、日々のたゆまぬ努力の末に再びその身に魔素を再び宿すことができました。この者を現役の魔法師に復帰させぬのは王国にとって大きな損失となるでしょう。どうか、この者を改めて宮廷魔法師に任命し、私の専属の魔法師とすることを認めて頂けないでしょうか?」 


「宮廷魔法師長のバーシャは何と申しておる?」


「はっ。条件付きですが、現役への復帰を認めると申しております」


「ふむ。ならば、ザンテの宮廷魔法師への復帰は認めよう。だが、其方の専属の魔法師については別だ。余も条件を付けさせてもらう。ライラよ、其方の洗礼の儀の護衛役に宮廷魔法師ザンテを付ける。見事ザンテが務めを果たせたのならば、其方の専属の魔法師として認めよう」


「はっ、承知致しました!」


 さっき部屋で話してた通りだな。しかし、こんな茶番をしなくてはならないとは、国王とか王女って何とも面倒な立場だな。ともかく、これで必要なやり取りは終わった。やれやれと思っていたら、貴族たちの中から一人の男が国王の前に出てきて、異議を唱えた。


「お、お待ち下さいっ! そのようなことを本当にお認めになられるのですかっ? ライラ王女殿下は次期国王の筆頭候補ですぞ!?」


「それが一体どうした? ライラに限らず、これまでも王子、王女は皆洗礼の儀を受けておる」


「し、しかしながら、これまで護衛役は第二近衛騎士団が務めて参りました。それを魔素枯れの魔法師に任せるなど、ありえません!」


 なるほど、師匠が専属の魔法師になることよりも、洗礼の儀で姉弟子殿の護衛役から第二近衛騎士団が外されることに対して抗議しているようだ。しかし、王命に異議を唱えるとは命知らずだな。


「だが、ザンテの魔素は回復したと宮廷魔法師長のバーシャが認めておる。ザンテのような経験と実績がある宮廷魔法師であれば、第二近衛騎士団の護衛の代わりも務まるだろう。それとも、其方は宮廷魔法師長であるバーシャが嘘を吐いていると申すのか?」


「い、いえ、そのようなことは……」


「では、何の問題もなかろう?」


「で、ですが……」


 言葉に詰まる貴族の男。こんな問答で簡単に言葉に詰まるようなら、わざわざ国王の前に出てこなくてもいいのにな。そんなことを思っていたら、国王の前に出てくる貴族の男がもう一人現れた。なんなんだ、まったく。ちょっと軽く見られていないか、ここの国王は。


「恐れながら、陛下。宮廷魔法師長のバーシャ殿はザンテ殿の御子息です! 父親であるザンテ殿が御子息のバーシャ殿に圧力を掛けて、現役復帰を無理矢理認めさせたという可能性もございますぞ!」


「そ、それに、一度失った魔素を再び宿らせることができたなど、嘘に決まっております! 神話の中ですら、そのような奇跡が起こったという話はありません! どうか、ご再考をお願い致します!」


 二人の貴族が国王に向かって文句を付ける。なんだか必死だな。そんなにも第二近衛騎士団を護衛役に付けたいのか。一体理由は何だ?


「だが、ライラがそれを望んでおるのだ。其方らはライラの希望を叶えたいとは思わんのか? どうだ?」


「し、しかし……」


「もちろん、ライラ殿下のご希望は叶えたいと思います。ですが、ライラ殿下の身の安全を考えれば、護衛役は第二近衛騎士団に任せたほうが確実かと存じます!」


「そ、その通りです!」


 第二近衛騎士団が相応の実力を備えた信頼のできる集団であれば、二人の言葉も理解できるけれど、いまいち信用できないんだよな。何せ、師匠とクリス先輩を徒歩で王城に向かわせるような気遣いのできない連中だ。それに、城内での態度もいいとは言えなかったし。


「ライラ殿下の護衛役を務めるということは、殿下から信任を得たことと同義ですからね。貴殿らの子息が所属する第二近衛騎士団から護衛役を出したい気持ちは分かりますが……」


 宰相の言葉に驚いた。そんな理由で第二近衛騎士団を護衛役と推していたのか。単純に自分たちの息子を売り込みたいだけかよ。そんな理由じゃあ、任せられねぇわ。国王もそう思ったはずだ。


「……ライラはどう考えておる?」


「私は護衛役にザンテを指名致します。また、荷運び役にはその弟子のクリスを同行させたいと考えております」


「そ、そんな!?」


「ライラ殿下、ご再考を!」


「いいや、私の考えは変わらぬ。洗礼の儀の護衛役にはザンテを、荷運び役にはその弟子のクリスを同行させる。そして、その務めをしっかりと果たし、私の専属の魔法師としてザンテが相応しいことを皆に、そして王国の全国民に示す!」


 そう言って、姉弟子殿が二人の貴族に力強く答えを返した。二人の貴族は悔しそうな表情をしている。だが、どうやらそれはこの二人だけではないようだ。立ち並ぶ貴族たちの中にも悔しそうな表情をしている者や、忌々しげに姉弟子殿や師匠に視線を送ってくる者もいる。俺の視界は広いからな、後ろでおかしな表情をしていたらすぐに分かる。


『なるほど、彼らが姉弟子殿を国王に推す勢力か。……結構いるな』


 しかし、何だか違和感があるような……。姉弟子殿を次期国王に推すというのであれば、姉弟子殿の意向に沿った行動をすると思うのだが。それに国王の意見も取り入れるはずだ。しかし、彼らはそんなことを気にする様子はまったくなく、自分勝手な主張ばかりをしている。普通に考えて、何かがおかしいような気がする。


「陛下。そういうことでしたら、そこの魔法師と第二近衛騎士団の騎士、どちらが優れているか模擬試合を行い、勝敗をつけてはいかがですかな? 勝利した者がライラ殿下の護衛に付く、というのはどうでしょう?」


 うわ、また面倒なことを言う奴が出てきたな……。先ほどまで後ろから忌々し気に姉弟子殿と師匠を睨んでいた貴族の一人が国王の前に進み出て、そんな提案をしてきたのだった。しかも、朗らかな笑みを浮かべながら。でも目が全然笑ってないから正直めちゃくちゃ怖い。


 しかし、魔法師と騎士って同じ土俵で戦って良いものなのか? 遠距離から攻撃を仕掛けられる魔法師が圧倒的に有利な気がするのだが。いや、師匠の老体を考えるとフィジカル面では勝負にならないか。そう考えると意外といい勝負になるのかな? しかし、ここでも試験かよ、多いなぁ……。


「ミラクー伯のご提案に賛成です!」


「私も賛成です!」


 案の定、先ほどの二人の貴族もミラクー伯とかいう白髪の貴族に賛成してきた。彼らだけでなく、貴族たち全員が面白い余興が始まるとでも思ったのか、乗り気になっている。この流れ、簡単には止められないぞ。


「模擬試合か……。騎士についてはともかく、魔法師についての取り扱いはどうするつもりだ?」


「もちろん、魔法の使用あり、使用する魔法の位階も制限なしで問題ございません。所詮、魔素枯れの魔法師。多少魔素が回復したといっても近衛第二騎士団の精鋭には敵いますまい」


「ふむ。ライラはどう思う?」


「皆が納得しないということであれば、仕方がありません」


 ちらりと師匠を見て、姉弟子殿が答える。因みに、師匠はやる気満々のようで、先ほどからワクワクとした楽し気な表情をしている。もちろん、国王と宰相の手前、表面上は真面目そうにしているが。多分、俺の魔力を使っていろんな魔法が試せるのが楽しみなんだろう。


「ザンテはどうだ?」


「もちろん、受けさせて頂きます」


「なるほど。わかった、それではミラクー伯の提案の通り、これより宮廷魔法師ザンテと第二近衛騎士団による模擬試合を闘技場で行うこととする。皆の者、準備を始めよ。それから、ミラクー伯は第二近衛騎士団から参加者を選抜するように」


「ははっ、承知致しました」


 こうして、師匠の宮廷魔法師への任命式が、途中から洗礼の儀に向かう姉弟子殿の護衛役に認めるかどうかという話に変わり、そして急遽、それを決めるために騎士との模擬試合を行うという話に変わったのだった。まぁ、宮廷魔法師への復帰については認められたから、目標のひとつは達成できたかな。


 しかし、そんなに洗礼の儀の護衛役って第二近衛騎士団にとってはやりたい仕事なんだろうか。何か役得があるのかな。姉弟子殿の信任を得たことに繋がるとは言っていたけれど。本当にそれだけだろうか? 正直、何か裏がありそうで気になって仕方がない。


 いや、そんなことよりも、今はこれから始まる模擬試合のことを考えないと……。


 師匠が騎士に勝利するために俺にできることは魔力の供給くらいしかないが、作戦会議くらいはしておきたいところだ。これから国王も宰相も姉弟子殿も、そして貴族たち全員が闘技場に向かう。当然師匠とクリス先輩も向かうことになる。その間に話し合いが必要だな。


 しかし、この国の貴族は暇なのかな……? それとも娯楽に飢えているのか。もう少し仕事をしろよ、とは思った。




いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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