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第10話 使用者

『ファッ!? 使用者制限って、もしかしてそういうことか!?』


 それが本当ならば、使用者制限があるのは当たり前じゃん! そういうことなら、俺を扱える者は俺の形にフィットする眼窩の持ち主でなきゃならないじゃん! そんな人いるのか?


 そう思ってたら、ザンテもフィットしなかったようだ。当たり前だろう。だが、ここで諦めたら試合終了だ。何とかする方法はないか? そうだ、俺がザンテにフィットする形になればいいのでは!?


『だけど、一体どうやって!?』


 正直、方法は分からない。分からないが、こんなことで俺がいつまでも売れないというのは納得ができない。それならば、一体誰のために作られた片眼鏡だと言うのだ。せっかくこの世界に生まれ変わったというのに、意味がないじゃないか!


『俺はこの爺さんを使用者だと認める! だから、神様、なんとかして! よろしくお願いします! 何でもしますからぁ!』


【…………インテリジェンス・アイテムNo.29 暗黒竜の瞳による神への請願を確認しました。…………受理されました。審査を開始します】


『へぁっ!?』


 なんだ!? 頭の中に勝手に言葉が響き渡って……。ていうか、インテリジェンス・アイテムってなんだ? 暗黒竜の瞳って誰のこと? もしかして、俺のことか!? 見た目は何の変哲もない黒縁の片眼鏡だぞ? そんな大層なもんじゃないはず。


【審査中です。しばらくお待ち下さい…………審査中です。しばらくお待ち下さい…………審査中です。しばらくお待ち下さい…………審査中です。しばらくお待ち下さい………審査中です。しばらくお待ち下さい…………審査中です。しばらくお待ち下さい…………】


 おぉ、なんか審査中になったぞ。一体誰が審査しているんだ? まさかと思うけど、本当に神様なのか!? 確かに神様にお願いしたけれど。あれ? ということは、何でもするって言っちゃたけど、それも聞かれてたってことか? いや、あれはノリだったんです! ごめんなさい!


【審査が終了しました。審査の結果、インテリジェンス・アイテムNo.29 暗黒竜の瞳の請願は受け入れられました。使用者の制限はインテリジェンス・アイテムNo.29 暗黒竜の瞳に委ねられます】


 お、おぉ! マジか、やったぜ!


 それがどういう形で叶えられるのかは分からないが、俺が使用者として認めた相手ならば、無制限に使ってもらえるということだ。これはいいアップデートだと思った。


【ただし、次のスキルに使用制限が掛かりました。

 言語翻訳トランスレーション:無制限 → 人間のみ

 意思疎通テレフォン:無制限 → 使用者のみ

 前世之知識インターネット:無制限 → 一日一時間

 使用制限の解除には神による再審査が必要となりますのでご注意ください】


 おいおい、俺にそんな有能そうなスキルがあったのかよ!?


 驚き戸惑うしかなかったが、確かに森鼠のおっさんの言葉が理解できていたし、恐らくこれは『言語翻訳』のスキルによるものだったのだろう。まぁ、動物や魔物の言葉が分からないのは普通だと思うし、人間の言葉が分かるだけでありがたいと思うことにした。


 それから、意思疎通テレフォン。この世界の人と意思疎通ができたのかよ!? それにしては、リーファたちと話すこともできなかったけど。そう思っていたら、どうやらこのスキルは使用者が俺を装備することでのみ有効になるらしい。なるほど……。確かに彼らは俺を使うことはなかったし、グフリーやホークも俺を手に取るだけで、実際に使おうとはしなかった。つまり、ザンテが初めて俺を装備しようとした人間ということだ。


 そして、前世之知識。名前からしてヤバそうだが、どうやら前世のインターネットにアクセスすることができるチートスキルらしい。そんなの最初から持ってたんなら、教えてくれや! だが、Sランク鑑定士でも判別できなかったスキルということで、仕方ないと受け止めたけど。


 それにしても、めっちゃ有用なスキルじゃん! だからこそ、Sランク鑑定士でも詳細を知ることができなかったと言えるけれど、それにしてもこのスキル、ヤバすぎではないだろうか? ゲームは一日一時間、みたいに時間制限を設けられたけど、意外と一時間もあれば本当に調べたいことは確認できるかも。うん、そう考えると、この制限、意外と問題ないかも。


 再審査については気になるところだが、今はひとまずスルーしても問題ないか。ただ、再審査ってどうやったら受けられるのかがまったく分からないので、そこだけは不安だな。


 とはいえ。これらの情報を使用者となるザンテに伝えるべきか悩んだ。だが、俺は思った。俺の求めていた第二の人生を過ごす環境は、この爺さんと一緒に暮らすことで手に入るのではないか?


 元宮廷魔法師ということは彼から魔法を学ぶことができるはずだ。それに元宮廷魔法師がどれだけ凄い立場なのかは分からないが、少なくともオークションに関わる二人が敬語を使って接するほどには尊敬される立場なのだと思う。


 そして、宮廷魔法師ともなると多くの本を所持している可能性が高い。それも魔法に関わる本だ。気にするなというほうが難しい。


 システムメッセージらしき言葉はあれから聞こえてくる気配がなかった。ということは、俺に伝えるべき内容はすべて伝えたということなのだろう。こういうところは色んなゲームをプレイしてきた経験により理解できるもので、過去の人生経験も意外と役に立つ。


『よし、俺はザンテを使用者として認める!』


 俺がそう呟くと、俺の身体がザンテの眼窩にフィットするようにグニャリと変形していった。その様子を見ていたエンペと上司が声を上げる。ザンテの爺さんも驚いていた。そして、ぴったりとザンテの爺さんの眼窩にフィットして張り付いた。無事装備できたようだ。


「おぉ!?」


「なんと!?」


「……ふむ。どうやら、儂は使用者に認められたらしい」


「流石はザンテ様ですな!」


「まさか、このように早く使用者が見つかるとは!」


「うむ。これにどのようなスキルがあるのかは分からぬが、これは儂にしか扱えぬであろう。儂が引き取ることにするがよいか?」


「ありがとうございます!」


「もちろんでございます!」


「ふむ。それで、価格は相談できるのであろうな?」


「も、もちろんでございます! 三十万ルメルで如何でしょうか?」


「うむ。……実は、今の手持ちが二十五万ルメルしかなくてのう。どうじゃ、儂の有り金全部で売ってくれんか? もし売ってくれるなら、儂の弟子たちに次回のオークションに参加するよう伝えるぞ?」


「そういうことでしたら、ぜひにお願い致します!」


「我々としても、出品者に落札なしと伝えるのは心苦しいですから」


「そう言ってくれると助かる。では、支払いを済ませよう」


 そんなやり取りがされて、ザンテの爺さんが金貨二十五枚を積んで、俺を引き取ることになった。やったぜ。と思いつつ、査定額の半額となったことを喜んでいいのかはちょっと悩んだ。


 いや、無事に新しい持ち主が現れたことを今は喜ぶことにしよう! ダンジョンの外に出たときに、これが第二の人生の始まりだと思ったが、今回こそが第二の人生の始まりと言えるかもしれない。


 しかし、この爺さんはケチだな。覚えておこう。


 そうして、俺はザンテの爺さんのマジックバッグに入れられて、何処かへと移動することになった。何処かというと、もちろんザンテの爺さんの家に決まっている。


 俺を手に入れたザンテの爺さんが会場を出ると俺をマジックバッグの外から出してニンマリと笑った。その隙に周りを見渡したのだが、本当に閑静な高級住宅街といった感じだった。間違いなく、一般庶民が立ち入る場所ではなさそうだ。


 暗闇に月光を映す俺を改めて見たザンテの爺さんがポツリと呟く。


「もう暫く待つのじゃ」


 何を待つのかは分からないが、俺は黙ってザンテの爺さんに従い、再びマジックバッグの中に戻された。うん、少し窮屈な感じがする。恐らく、マジックバッグの中にものが溢れているのだろう。


 だが、その感触は決して悪いものではなかった。何せ、ようやく待望の持ち主が現れたのだからな。それも、元宮廷魔法師という肩書を持つ爺さんだ。宮廷魔法師というのは改めてどういうものなのか確認する必要がありそうだが、オークションに参加できるくらいのお金は持っているということだ。まぁ、貴族ほどではないかもだが。


 それに、恐らくは本を持っているだろうし、その内容は魔法に関わるものである可能性が高い。つまり、魔法を学び放題ということだ。俺に魔法を使える素質があるのかは分からないが、その深淵に触れる機会があるというだけでワクワクする。


『いつか俺も魔法使いになるんだ!』


 俺も前世では魔法使いであった。もちろん魔法は使えなかったが。第二の人生では本物の魔法使いになってやるんだ!


 そんなことを考えていると、俺は馬車に乗せられて、何処かへと連れて行かれることになった。辺りは静かで馬車を引く馬のカッポカッポという蹄の音と馬車のガラガラという音だけが鳴り響く。


 それから三十分ほどして、馬車が止まった。ようやく目的地に到着したのだろうか? そう思ってマジックバッグの中から聞き耳を立てていたが、どうやら違うらしい。ここから先は『キゾクガイ』というところらしい。


 キゾクガイ? もしかして、『貴族街』か? まさか、ザンテの爺さんは貴族だったのか!? 確かに、貴族だったのならば、オークション会場の二人から敬語を使われていても不思議ではないが。


 しかし、ザンテの爺さんが貴族だとしたら、俺の持ち主としては大当たりの部類に入るぞ。さぞや大きな豪邸に住んでいることだろう。執事やメイドなんかもいるかもな。そこで俺は『旦那様の愛用品』となって大事に扱われる。うん、悪くないどころか、かなりいいんじゃないか!? 期待に満ち溢れた俺はザンテの屋敷に到着するのを今か今かと待ちわびた。


 そうして、さらに十分が経った頃、再び馬車が止まった。今度こそ、ザンテの屋敷に到着したのだろう。誰かがドアノックを叩いて、メイドさんを呼んだのか、パタパタとした足取りで出迎えが現れた。


「お師匠様、お帰りなさい」


「うむ、ただいま帰った」


「それで、お目当てのものは見つかりましたか?」


「いや……。だが、なかなか面白いものが見つかってな」


「まさか、買われたのですか?」


「うむ!」


「……お幾らだったのですか?」


「う、うむ……。それなんだが……」


「もしや、お約束していた一万ルメルを超えたのですか!?」


「いや、まぁ、たったの二十五万ルメルじゃった」


「二十五万ルメル!? お師匠様の給金と同じ額ではないですか!」


「し、心配するな! 儂の杖を売ればなんとかなる!」


「お師匠様の杖は先月質に入れたばかりではありませんか!」


「そ、そうじゃったかの?」


「あぁ、今月もバーシャ様に借金するしかありません……。お師匠様はそれでよいのですか! 実の息子に借金をする親など聞いたことがありません! もう、この屋敷を売り払って借金の全額返済に充てるべきですよ!」


「それはできん! この屋敷はダンサ様から受け継いだ大事な屋敷じゃからな。ここは売るわけにはいかん!」


「それなら、埃を被った古い魔法書を処分しましょう。ザンテ様縁の品と言えば、買い叩かれることもないはずです。そうだ、オークションに掛けてみてはどうでしょうか? よい値が付くはずです!」


「馬鹿を申すでない! あれらは儂が生涯を掛けて集めた魔法書じゃぞ!? 弟子である其方が受け継ぐようにと集めたものじゃ。それを売り払うなどとんでもない!」


「だったら、それを受け継ぐ私がどう扱おうと構わないでしょう?」


「じゃが、せめて儂が死ぬまでは残してくれてもよかろう!?」


「では、お金はどうするおつもりなんですか!?」


「……それはあとでゆっくりと考える」


「はぁ……。次の支払いは一週間後なんですからね? あと五日で結論を出してください。そうでなければ、今日購入してきた品は返品しますから、そのおつもりで!」


「そ、そんな殺生な!」


「まったく。こっちは身を粉にして働いてお師匠様の借金返済を手伝っているというのに。当の本人は無駄遣いばかりするんだから……。お師匠様は今晩ご飯抜きですから!」


「せめて、パン一切れくらいはいいじゃろう!?」


「ダメです! 明日の朝にしてください!」


「とほほ……」


 なんか、とんでもないところに来てしまったかもしれない。先ほどの話を聞いている限り、ザンテ爺さんは裕福ではなさそうだ。というか、借金しているのか。しかも、実の息子に。


 給金が二十五万ルメルと言っていたが、ザンテの爺さんは働いているのか。元宮廷魔法師とは聞いていたが、楽隠居ではなさそうだ。まぁ、過去の肩書から定年後の就職先が決まることもある。もしかすると、王国に魔法師として再雇用されたのかもしれない。


 しかし、弟子を取るほどの元宮廷魔法師が実の息子に借金しているとは、一体どういう事情があるのだろう。少し気になる。もしかして、浪費家なんだろうか? まさか、ギャンブルとかしないよな?


 せっかく、ザンテの爺さんを持ち主に選んだのに、再び冒険者ギルドに返品されても困る。ここは俺も力になりたいところだが、そのためには色々と乗り越えないといけないことがある。


 まぁ、今日のところはマジックバッグから取り出してもらえないだろうから、明日また考えることにしよう。




いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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