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プロローグ:夢



「よぉ! お前が今日転入してきた一年坊か?」


「………は?」



 唐突に表れたその少年は、校庭の端っこで木に寄りかかって本を読む自分に、何故だか快活な笑顔で話しかけてきた。



「俺は四年の────だ! よろしくな!」



 おまけに聞いてもいないのに名乗ってくる。が、どうにも妙な違和感を覚えた。

 名前の部分だけがどうしてか聞き取れなかったのだ。顔もよく見えない。


 内心首をかしげたが、口が勝手に動いて返答する。



「……何の用ですか?」


「──敬語!? 一年なのにスゲーな!」



 何だコイツは。ものすごく鬱陶しいタイプな気がする。



「何の用ですか」



 少しだけ語気を強めて、同じ言葉を繰り返す。



「いンや? 別に用とかはないけど」



 あっけらかんとそう返され、苛立ちが募る。



「なら放って───」


「けど! 新入りが来たのなら仲良くしたいだろう!」



 聞いちゃいねぇ。


 だが子供とは元来こういうものだ。いつもなら気にはしない。

 しかし今回ばかりは、置かれた状況と今の気分から、その奔放さが癪に障った。



「今年の一年はなかなか威勢が良いやつがそろっててなぁ──」


「あの」



 構わず続けるその少年の話を遮り、嫌味ったらしく言う。



「おれに構わないでもらえますか。鬱陶しいし、今はいろいろと事情があって一人でいたい気分なんです。ガキ大将やるにしても、おれを巻き込まないでやってもらえますか」



 早口でそう言い切る。

 すると少年は目をパチクリさせ、つぶやく。



「…ガキ大将?」


「そう見えますが」



 なぜそこに食いつく。

 つくづくおかしなヤツ。しかし、言いたいことは言い終えた。

 話はついたな、と再び本に目を落とす。が──



「そう見えるか!!!」



 少年は目を輝かせて、デカい声で叫んだ。

 その声を間近で受け、思わず顔をしかめて視線を上げる。



「なんで喜ぶんです?」


「ん? 悪口だったのか今の?」


「…当たり前じゃないですか」


「俺はそうは思わないね! だって大将だぞ大将!」


「はぁ……」



 ガキってついてるんだけど。

 胡乱げな目に気付いたのか、少年は語り始める。



「いいか? 大将ってのはな、たくさんの部下を引き連れて、そいつらの面倒を見ながら協力してもらって何かでけぇことをすんだ! これはすごいことだろう!」


「………………」



 ……うるさい。

 そんなことは、お前なんかよりよっぽどよく分かっている。


 なぜなら自分は────



「その点、お前はなんというか、あれだな! クールキャラ?っていうの? 大将を傍で支えて、()()()()的ポジションをこなす系の──」


「────ッ!」



 違う。おれは────


 余計なことを口走りそうになる。

 その、寸前で。



「──と見せかけて」



 突然言葉を切ったその少年は、真正面から、自分の目を覗き込むように見つめた。

 相手の顔は見えないのに、どうしてか見透かされているような感覚に陥る。


 そして、少年はにやりと笑ったような雰囲気を垣間見せ、言った。



「──オマエ、根っからの大将だろ? 気質がどうのとかじゃない……本物の」

































「……久しぶりに見たな」



 天井を見つめながら、そうこぼす。


 今日から高校生になるからだろうか。

 漂ってくる味噌汁の香りを嗅ぎながら、体を起こす。


 なぜだかその夢は、これから始まる新たな生活への戒めのように感じられた。




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