俺が彼女に冷めたのは、彼女に告白したその日の夜だった。
【警告】
鬱エンドです。
俺が彼女に冷めたのは、彼女に告白したその日の夜だった。
その日、何があったのか。
彼女に告白したのは、12月11日。学校の授業も終わり、少し閑散としてきた放課後の教室だった。
「付き合ってください、お願いします」
俺は、彼女に頭を下げた。そして、手をのばす。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
彼女は、俺の手を握った。その手は、酷く冷たかった。冬だから、寒いのは当たり前だろうか。
だけど、人肌とは思えないほど冷たかった。何か、金属のような温度だった。
「ふふ...なんか、気まずい」
彼女は可愛く笑う。これから、彼女の笑い声や言葉の一つ一つが、俺のものになると考えると、とても嬉しかった。
「じゃ...じゃあ、一緒に帰る?」
「あー...今日は、委員会があるんだ、ごめん」
「あ、そっか。大変だね」
「うん、ごめんね」
彼女は謝った。
「いや、謝らないでよ。告白も呼び出したのはこっちだしさ」
「もう遅れちゃうから、行くね」
彼女は、走って行ってしまった。
今日から、バラ色の毎日が待っていると思っていた。その時は。
***
俺と彼女の馴れ初め。それは、中学1年生の頃だった。彼女とは、同じクラスだった。
今現在───中学3年生である今は隣の隣のクラスだが。
彼女の顔───俺からしてみれば美少女だ。世界一可愛いと思っていた。
でも、他人からしてみればクラスで3・4番目位の顔面偏差値だったのだろう。
特段、太っているわけでも痩せているわけでも胸があるわけでも胸がないわけでもない。平凡。そう、平凡な生徒だった。俺らが通っている学校は私立の中高一貫校だったので、公立の人達よりも勉強はできるのだが、俺らの学年の中だと、丁度平均ぐらい。良くも悪くも特徴がない子だった。
俺も、普通の顔だった。自分のことなので、少し見栄を張ると、上の下位だ。もう一度言うが、見栄を張っている。
俺だって、平凡だった。勉強も運動も歌も。良いわけでも悪いわけでもない。つまらない人間だった。
太ってるわけでもないし、陰キャでもないし、特別巨根なわけでもない。
さて、告白した時も特徴も俺らの概要も語った。
何故、彼女に冷めたのかを語ろうと思う。
***
俺には、一人の親友がいた。その名はヒロキ。1年生の頃からずっと、同じクラスの奴だった。
でも、そいつもその日嫌いになった。
「なぁ、■△って知ってる?」
俺が告白した日の夜、その親友であるヒロキからラインが来た。そのラインには彼女の名前が入っている。
「あぁ、知ってるよ」
まだ、誰にも告白したことも、付き合ったことも、ましてや好きだったことさえも言っていない。
だから、付き合ってることがバレたのか少し不安だった。
「うん、知ってる。てか、1年の時同じクラスだっただろ」
「あはは、そっか。それで、そいつ保健委員会なんだけどさぁ」
「うん」
「そいつが放課後、保健室にいる時は一発ヤらせてくれるの知ってた?」
頭の中でその言葉の真意に意味ができなかった。何度読み直しても、わからなかった。いや、わかっていた。
でも、わかりたくなかった。
「どういう意味?」
「そのまんまの意味だよ。セックスさせてくれるんだよ」
わかっていた。そう、わかっていたのだ。でも、その文字列を見ると吐き気がやってくる。
彼女は実は、援交していたのだ。いや、金の受け渡しがないから、ただの性行為。
「そうなの?」
「うん。俺も、今日の放課後初めてヤッたぜ!」
ヒロキは、そんな言葉を送ってくる。脳によぎるのは、彼女とヒロキが性行為をする想像。
吐き気がした。いや、吐いた。
スマホを投げ出して、トイレにダッシュして吐いた。吐いて、吐いて、吐いた。
胃酸が出て、喉の奥が痛くなっても、吐き続けた。出る胃酸すらなくなって、口から涎だけが垂れ続けるまで吐き続けた。
そして、部屋に戻る。スマホには5件の通知が溜まっていた。
「超絶気持ちよかった!ハメ撮り、いるか?」
「お前もヤらせて貰えば?無料だぞ?」
「おーい?」
[5分30秒のハメ撮り動画]
「他の人にもオススメしてくるわ」
その5件。全て、ヒロキからだった。
俺は、悔しかった。ヒロキを攻めても何も生まれないことがわかっていた。
何故なら、ヒロキが教えてくれたのは完全なる善意だったから。ヒロキは、俺のためを思って教えてくれたのだ。俺だって、好きだったことも告白したことも付き合ったことも伝えていなかった。伝えれば、よかったのかもしれない。そう、伝えればよかったのだ。
後、1日早ければ。一日、早ければよかったのに。早ければ、告白しなかったのに。
自分を悔やんだ。責める人がいないから、自分自身を責めた。そうしないと、自分が自分じゃ無くなりそうだったから。
俺は、そして悩んだ。彼女に、この事を聞くかどうか。
正直、俺は冷めていた。もっと、純粋で無垢な人だと思っていた。
正直、別れたかった。でも、告白したその日に別れるなんて許されないことはわかっていた。
正直、死にたかった。だけど、死んだところで何も変わらないのは目に見えていた。
***
次の日、俺は考えることさえ嫌な、学校に向かった。朝食は、食べなかった。
「おはよっ!えっと...なんて呼べばいいかな?」
彼女が、声をかけてきた。昨日の放課後、俺に告白され承諾した後、俺の親友であるヒロキと性行為をした彼女が。それを、隠すかのように、屈託のない笑顔をこちらに向けている。嘔吐しそうになった。でも、耐えた。何もかも終わらせたかった。でも、終わらせなかった。
「下の名前で呼んでいいよ」
「わかった!」
彼女は、可愛らしく笑う。でも、その顔も、俺の心には響かなかった。
***
「おはよぉ!」
ヒロキが教室に入ってくる。顔を見た瞬間、苛立ちと胸焼けに襲われる。
今すぐ、ヒロキを殴りたかった。今すぐ、ヒロキを殺したかった。これまでの友情なんて物は昨日で無くなった。全てを破壊したかった。でも、そんなことはできない。
「なぁ、昨日のライン本当かよ?」
「あぁ、嘘じゃない!お前だってハメ撮り見ただろ?」
「あぁ!アレ、クソエロかった!」
そんな会話が教室の真ん中で繰り広げられる。俺は、走ってトイレに逃げた。そして、吐いた。
我慢できなかった。おかしくなりそうだった。
───自分が、自分じゃ無くなった。
***
俺はその日から似合わずも、図書室に通うことになった。教室に戻りたくない時は、図書館にいた。
保健室には、行きたくなかった。行けるわけがなかった。
「あれ、先輩?またここにいるんですか?」
ここ最近、仲良くなった人がいる。1年生の女子生徒のミドリという子だ。
別に、可愛くないが、俺のことを慕ってくれている。部活に入っていない俺にとっての初めての後輩だと言えるだろう。
「あー、もう休み時間か...」
「そうですよ...って、また授業出てないんですか?」
「あぁ...うん、教室が嫌で...」
「保健室───も嫌なんですよね、すいません...」
「いや、謝らな───ぁ」
俺の視界に入ったのは、彼女だった。知らぬ男の腕に纏わりつく彼女。目と目があった。あってしまった。
「 」
「 」
「ん?どうしました?先輩?おーい?」
取った行動は、お互い無視。何も、見なかったことにした。無視。無視。無視。
そして、2人は図書室を出ていった。
「あぁぁぁ!あぁぁぁぁぁぁ!あーーーーーーーーッ!」
俺は、叫んでしまう。いなくなった途端に、吹っ切れた感情が爆発してしまう。
「せ、先輩?先輩!」
俺の目から溢れるのは、大粒の涙。彼女とヒロキが行ったドッキリなんじゃないかと、心のどこかにのこっていた一縷の望みが破綻したことへ対する涙。
「あぁぁぁぁぁ!あぁぁぁぁ...あぁぁぁぁぁぁーーーーッ!」
何も何も何も何も何も何も何も許されない。誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も許されない。
そう、誰も許されないのだ。
「ちょっと、どういうこと!その女、誰よ!」
彼女が怒鳴り込んで、図書館に入ってくる。先程の男はいない。
「そんなブスを相手して、どうして私は無視するの!」
「あぁ...あぁ!」
”ガンッ”
「うぷっ、」
俺は彼女に腹を蹴られる。一気に、図書室は修羅場と化す。
「浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!浮気野郎!」
俺は、彼女に蹴られ蹴られ蹴られる。腹を足を腕を顔を股間を喉を蹴られる。
浮気野郎は、そっちじゃないか。でも、それを言うほど彼女は俺に猶予を与えなかった。
「浮気野郎!私に告白しておいて、他の女にちょっかいを出すなんて許さない、死んでやる!」
彼女は、走って、どこかに行った。
「先輩...」
ミドリは、俺に近付いてくる。───が、
「きゃっ!」
俺は、その場で吐いてしまう。もう、慣れた嘔吐。残るのは虚無感だけの、嘔吐。
毎度お馴染みのように、胃酸まで全て出しつくす。
「おいおい、本に付いてるぜ!汚い!」
「出てけよ、早く」
「保健室に連れっててあげなよ」
「でも、浮気したんでしょう?このくらい当然よ」
「あはは、そっかー!」
色々な、声が聞こえる。
俺じゃない。俺じゃない。悪いのは俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない。俺じゃない俺じゃ───
***
次の日から、彼女は学校に来なくなった。俺だって、高校に上がれないのは嫌なので、出席日数の為に学校には顔を出しているというのに。
***
今日も彼女は来ない。
***
今日も彼女は来ない。
***
今日も彼女は来ない。
***
今日も彼女は来ない。
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今日も彼女は来ない。
***
今日も彼女は来ない。
***
今日も彼女は来ない。
***
今日も彼女は来ない。
***
今日も彼女は来ない。
***
今日は彼女の死亡通知が来た。
彼女は、首を吊って死んだらしい。そして、書き残された遺書には、「俺が浮気したので死ぬ」という事が書いてあったらしい。
全部人から聞いたものだった。俺は彼女の両親と会えなかったから。友達が大声で話しているものを信じてみた。
俺のクラスメートは皆、彼女と性行為を行ったかもしれない裏切り者なのに。
誰も信じれないから、全員を信じた。全てを鵜呑みにした。信じれないのは、自分自身だった。
「おい『浮気野郎』!掃除しろよ!」
「『浮気野郎』!早く死ね!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
「『浮気野郎』!」
誰も、俺の味方はいなかった。クラスメートは全員俺を責めた。先生は、俺の言うことを信じなかった。
信じてもらえるはずもなかった。ミドリは学校をやめたらしい。俺のせいだった。
彼女が緩行をしていたことは、有耶無耶にされていた。だから、俺は完全悪だった。ヒロキも敵だった。
俺は色々な異名が増えた『浮気野郎』だの『女誑し』だの『殺人者』だの『虚言癖』だの。
何が、いけなかったのだろうか、俺は。どこで間違えてしまったのだろうか、俺は。
彼女を許せばよかったのだろうか、俺は。彼女を責め立てればよかったのだろうか、俺は。
辛いのを我慢すればよかったのだろうか、俺は。俺は、俺は、俺は、俺は。
───俺は。
追記:企画タグ消しました。