81話 ストーカーってマジ?
「ホムラ様あの方全然ダメでしたわね」
「そうだな。俺も普通に言葉は通じなくても身振り手振りで通じると思ったんだけどダメだったか。いけると思ったんだけどな〜」
コメント
:いや無理だろ
:何故それでいけると思った?
:せめて挨拶ぐらいは調べようぜ
:相手の人めちゃくちゃ嫌がってただろ
:相手の人怖かっただろうな
「と言うか今更なんだけど、初対面の人にあんな態度取って大丈夫だったの?普通にこう言うの迷惑系みたいで、個人的にはどうかと思うけど……」
「大丈夫ですわ!軽くうちのものが調べたところ、あの方の会社が非合法な事をしてて、この後警察に連行されるので、それまでの時間稼ぎをしていただけですわ〜!」
「え!?じゃあ何?俺そんな危ない人と肩組んでたの?怖〜」
よくあんなふざけた態度って殺されなかったな俺。
コメント
:マジかよ
:と言うか今更だけどカネコちゃんって何者?
:非合法って……
:こっわ
:よくホムラ生きてたなw
「まぁいいや、それじゃあ御旅屋さんが見つかるまで暇だしブラジル観光でもする?」
「賛成ですわ〜!」
そういう訳で俺達は、警察に連行される筋骨隆々の大男を背に、ブラジル観光へと向かった。
そうして俺達はユメノミライ二期生の内の1人である御旅屋ノマドが発見された2時間後までを、食べ歩きやら他のユメノミライメンバーや真冬や両親、ついでに自称エースのお土産を買ったりして時間を潰した。
と言うかよくたった2時間で、ブラジルの何処にいるかも分からん人間1人を探し当てれたな!
すげえよ黒服さん達!
そんな訳で黒服さん達に確保された御旅屋ノマドを無理やりプライベートジェットに押し込み、俺達は日本へと帰国する事にした。
因みに御旅屋ノマドの初配信は日本へ帰る途中のプライベートジェットの中で行われた。
初配信にそれまでにあった運営からの呼び出しの全てをブッチした女だ、こんな何処の誰が見てもわかる問題児を運営は採用したんだ。
そんなクソみたいなデメリットがあるのに採用したと言う事は、それを超えるメリットがあると言う事だ。
こんなにも迷惑をかけたのにも関わらず謝る事もせず、人が買ったお土産を勝手に開けて食ってる奴だ、正直そんな奴がそこまでできる奴だとは思えないんだが……
そうして始まった御旅屋ノマドの初配信は、もう終始グッダグダで話す内容も適当オブ適当、だがそれがどういう訳か一部のファンにびっくりしたほど刺さったらしく、トレンドにユメノミライ新人、ブラジル、金城カネコ、九重ホムラ、御旅屋ノマドと、あり得ない数乗る結果となった。
まぁそら、初配信でvtuberがいきなりコスプレ姿で、プライベートジェット乗って同期を探しにわざわざ地球の裏側まで行ったとなったら、そら注目も集めるでしょうね。
まぁ俺もこの配信のおかげで登録者数を伸ばせて、一時はキラメに追い抜かれそうにもなったが、安全圏にまで逃げ切ることに成功した。
それからの二期生は金城が一気に一期生に迫る勢いで伸び始め、次点で初配信以降また海外に行ったらしく一切配信をしていない御旅屋ノマドがゆっくりと伸び、最後が久瀬ヤウロなのだが、配信を始めてから女性vtuberとばかり、それもセクハラまがいの配信をしているせいでリスナーは不快感を感じ、登録者は増えるどころか減るばかりで伸び悩んでいた。
もちろん初めは俺達も久瀬くんをどうにかしようとやっていたが、キラメ達は久瀬くんに何を言っても全てセクハラで返される為、だんだんと関わるのが嫌になりそのまま関わらないようになり、俺はどうにか同じ男性vtuberとして何度かコラボをやってみたものの、やる気なし元気なしつまらないの3点セットで、俺のリスナーがイライラし始めたので、それ以降は疎遠になって来た。
◯
こう言う時こそあいつに頼ろう!
そう思い俺は大学の帰り道で、最近新聞サークルの新聞の一面を飾って天狗になっていた自称エースに、久瀬くんの相談をして来た。
「いや夏、お前あれは誰がどう見てもダメだろ」
「あ、やっぱりダメか?」
「そらそうだろ、別にさぁセクハラばっかりする奴だったらまだ、下系で売っていけば何とかなるとは思うけど、アイツやる気ないじゃん」
「でも御旅屋さんもやる気ないぞ?」
「いやアレはなんかよくわかんない信者が囲ってるから大丈夫だろ。それに逆にアソコまで突き抜けてやる気が無かったら人気出るだろ。そう考えたら久瀬だっけ?ソイツは配信もつまんない癖に、ぐだぐだやる気なく配信だけやってて、何であいつvtuberやってるんだ?って感じなんだけど?と言うかよくあんな奴お前のところ受かったな」
「いや俺も何で久瀬くんがvtuberやりたいのかは知らないけど、うちに受かった理由だけどコレ絶対他の奴に言うなよ。実は……」
俺は自称エースの耳元で久瀬くんが、新しい運営のお偉いさんの息子で、その親のコネを使ってうちの事務所に入った事を説明した。
それを聞いた自称エースは目を白黒させながら驚いていた。
「それマジで?お前のところヤバくないか?」
「俺も正直それはどうかと思ったけど、こう言うのって社会ではよくあることだろ?」
「いやまぁあるかないかで言えば、俺もあるとは思うけどさ……」
そんな事を俺達が談笑しながら歩いて帰っていると、目の前にコソコソとあからさまに怪しい動きをしている、見知った人物を発見した。
「あれ?」
「どうかしたのか夏?」
「あいつ多分だけど久瀬だ」
そう俺は目の前の怪しい人物を指差して話した
「へー、アレがねぇ」
「俺ちょっと声かけてくるわ」
そう言って俺は久瀬くんの元へと向かおうとした時、自称エースが俺の腕を引いた。
「え?何?どうした?」
「ちょっと待ってくれ、あいつが例の久瀬くんか?」
「後ろ姿だから確定ではないけど多分……」
「次にだけど、その例の久瀬くんってここら辺に住んでるの?」
「いや全然違うけど……それがどうした?」
「そうか……夏びっくりするかもしれないけど、静かに聴いてくれよ」
いつものヘラヘラとした感じではなく、見た事もない真剣な顔つきで、そう言って来た為俺は固唾を飲んだ。
「な、何だよいきなり……」
「多分だけど、あいつストーカーだぞ」
「はぁ!?」
「ちょっ!声大きい!」
俺が驚きのあまり大きな声が出そうになったのを、自称エースが俺の口を無理やり押さえ込んだ。
「はぁ?マジで?どゆこと?と言うか何でお前は見ただけで、相手がストーカーかどうかわかんの?」
「いやだから確証はないけど、動きが俺がネタ集めの為にストーキングしてる時と同じだったから、多分だけどな……」
「マジかよ……」
俺は後輩のまさかの行動に、空いた口が閉まらなかった。




