47話 桃崎姫花
「桃崎姫花!?」
「は、はい。もしかしてお兄さん知ってましたか?」
知ってるも何も何度もコラボした関係ですけど……
そんな感じでいきなりのサプライズに、俺は驚きのあまり驚きその場で腰を抜かしてしまった。
そんな俺を横目に大爺様はスマホの画面に映った桃色の髪をしたメスガキと、目の前にいるメスガキとは正反対の位置にいるはずの愛花ちゃんを高速で交互に見あって、こちらも驚いた表情をしていた。
「こ、これが愛花か?嘘じゃろ……なぁ、夏よお前さんはこのvtuberについて知っている様だったが、どんな奴何だ?どうもわしには愛花とは似つかん、どちらかといえば姫乃の様な奴に見えるのだが……」
「あーえっとそうですね大爺様。このvtuber桃崎姫花は俗に言うメスガキと言うジャンル、まぁ簡単に姫乃ちゃんみたいな物だと思ってくれれば大丈夫ですけど、要はあんな感じの態度を不特定多数のリスナーに向けてやるのを売りにしたvtuberですね。」
そしてそんな結構マイルドにした説明を聞いた大爺様は、ずっと優秀を地で生きてきたと思っていたかわいいひ孫が、自分の知らないところでとある界隈の男性を性的に喜ばせる様な活動をしていた事がわかった衝撃から、大爺様は若干白目をむいていた。
白目から戻った大爺様は少し考えた後呟いた。
「やはりアレはわしの聞き間違いではなかったか……」
「アレとは?」
「ああアレか、アレはつい数日前のことなのだが実は、わしがたまたま愛花の部屋の前を通った時、中から何やらいやらしい声が聞こえてきてな、それでわしは愛花にそのいやらしい活動をするのを辞めよと苦言を呈したわけだ」
なるほどなるほど大爺様は、偶々愛花ちゃんの部屋の前を通った時に桃崎姫花の配信を聞いたと……
「申し訳ありませんでした大爺様ァ!!!」
俺は頭を地面に血が出る勢いで打ちつけた。
いやだって当たり前だろ、考えてみろよ自分のかわいいひ孫が自室で不特定多数の人間に、ざぁこ♡ざぁこ♡って言ってるんだぞ?そらvtuber云々関係なく止めるだろ普通!俺も止めるわ
という俺が大爺様に言った相手のことを知ろうとせずに、相手を否定するなと言う言葉が時間にして約10分ほどで自分に返ってきた事に、恥ずかしさを覚えながら俺は大爺様に謝罪の意を込めて土下座した。
そしてそんな特大ブーメランを顔面にクリーンヒットさせた俺を見た大爺様は、その海の様な広大な器を持って俺の様な矮小な存在の過ちを許してくださった。
やっさしー
俺がそんな事(土下座)をしていると大爺様は少し気になったのか、愛花ちゃんの了承も得ずにその場で適当な配信のアーカイブを再生し始めた。
まさかいきなり配信のアーカイブを流し始めると思っていなかった俺達は驚き、俺は土下座の姿勢からいきなり顔をガバッとあげ、逆に愛花ちゃんは恥ずかしかったのかピンクがかった顔を押さえて顔を伏してしまった。
それからアーカイブを再生したはいいもののオープニングが長く、中々本編が始まらない事に大爺様が首を傾げているのを見た俺は、勝手ながらシークバーをいじり桃崎姫花……そう姫ちゃんが話し始めるところまでスキップさせた。
そしてそこから始まるのは動画鑑賞という名の公開処刑だった。
ただでさえ自分の配信を親族の誰かに見られるだけで恥ずかしいのに、それを家の家長でもある曾祖父さんでもある大爺様と、一年に数回しか顔を合わせないのに合わせて何なら今日初めて声を交わした相手に、それも2人同時に目の前で自分の配信を見られるのだそれは相当恥ずかしい物だろう。
だが愛花ちゃんの場合はこれだけじゃ無い。
ここからは俺も未知の領域だが愛花ちゃんは言ってしまえば、キャラをガチガチに作っているどちらかといえばミリーの様な配信者だ。
それもメスガキと言う人様に訊かせるには大変恥ずかしい。
それを本人の目の前に大の大人2人が聞くと言う、新手の拷問の様な状態に耐えきれなかったのか、愛花ちゃんはスマホを地面に置くと、そのまま顔から湯気を出しながら勢いよく部屋から出て行ってしまった。
そうして恥ずかしさのあまり逃げ出した愛花ちゃんを見送った俺は、改めて姫ちゃんのアーカイブをよく確認する様に視聴したのだが、よくよく聞いてみるとどこか愛花ちゃんの様な雰囲気を感じ取れる様な…………いや全然わかんねぇや。
俺別に声オタでもねぇから人の声の違いとかよくわかんないし、それに通常時の愛花ちゃんとのあまりのギャップの差に風邪ひきそうなレベルだし、何なら言ってしまえば俺が愛花ちゃんの声聞いたの多分今日が初めてだし、正直コレでわかったら逆にキモくねぇか?
そしてそれは俺だけではなかった様で、大爺様も改めて配信を見てもやはりこれがあの愛花なのか?と言う半信半疑の様な顔つきでその配信を見続けていた。
そんなこんなで飛ばし飛ばしだが1つのアーカイブを見終えた大爺様が俺に質問をしてきた。
「なるほどな……これが愛花のやっているものか。それで夏よお前さんはこのvtuberってのに詳しいんだよな?」
「ええまぁ多分そんじょそこらの企業なんかにも負けないレベルで」
「そうか、ならそんなお前から見て愛花、いやこの桃崎姫花はどうだ?」
「どうとは?」
「その何だvtuberとは人気商売何であろう。愛花の奴はこのままやって行けるのか?」
そう聞いてきた大爺様の表情は先程まで見せてきた厳しい顔つきから、単にひ孫の事が気になる顔いっぱいに心配の2文字が描かれた、親バカならずひ孫バカな1人の爺さんの顔付きになっていた。
そんな大爺様の顔を見て俺はもう大丈夫だなと確信し、そしてグッと腕を大爺様の方へと突き出してグッドサインを出し宣言した。
「絶対ということはないですけど、愛花ちゃんの実力なら今後もどんどん人気になって大丈夫だと思います!そもそも……」
「そうか、それはよかった」
そう呟いた大爺様の笑顔は年相応の顔に大量の皺をつくったくしゃくしゃ笑顔だった。
そしてそんな大爺様を横目に俺は桃崎姫花の凄さを1人熱弁していた。




